ャッ
 ♪君の手で切り裂いて‥‥遠い日の記憶を‥‥♪

僕の歌に合わせて僕の過去の思い出――昔好きだったアイドルのポスターなのだが、どうにも捨てきれなかった物だ――を嬉々として破る彼女。サビ半ばであーあ、とため息をつく僕。

「なに? お望み通り切り裂いてあげたのよ♪」

いや、『いらないよね?』と半事後承諾でポスターをひっぺがし、半強制的に最近お気に入りのミュージシャンの曲を歌わせたんだしっ!

「あ、これじゃあ破り裂いている‥‥。切り裂きジャックに申し訳ないわ‥‥。ハサミorカッター♪。それともう一枚追加♪」

僕の彼女はそのお気に入りの曲から何故か切り裂きジャックを連想し――そんなおどろおどろしい歌詞ではなく、むしろ悲壮感すら漂わせる歌詞だ――それに夢中だ。そのため日々欠かさず新聞とニュースをチェックしている。切り裂きジャックの彼女になりたいらしい。彼氏である僕を切り裂きジャックにすればいい、という単純な事に彼女が永遠に気付かない事を僕は心から願っている。目の前では僕の昔のアイドル二人目も切り裂かれている。

「むー、これじゃあ物足りない‥‥。やっぱり現代には血湧き求める切り裂きジャックはいないのかしら!」

念のため言っておこう。僕はこんな彼女が大好きだ。というか惚れた弱みだ。

「‥‥なんでそんなに切り裂きジャックがいいの? 殺人犯だよ?」
「汚れたロンドンの街の掃除屋よ♪ 素敵じゃない♪」

「彼が殺したのは娼婦だけだよ。同じ女性から見るとやっぱり彼女達は汚く見えるわけ?」
「あ‥‥そっかー。あの人達もそれが仕事だもの、汚いは失礼だわ。じゃあ切り裂きジャックは正義の味方じゃないのね‥‥」

としょんぼり。誰もジャックが正義だなんて言った奴はいない‥‥。けれど重ね重ね、僕はこんな彼女が大好きだ。

「ジャックごっこはやめて、ね? なにかもっと違うのにしよう?」

僕の提案に乗って『うん♪』と笑顔を満開にしてくれるのがいつもの可愛い彼女なのだが、今日は一味違う。拳を握って『そうだ!』と勇ましく立ちあがった。

「私が正義のジャックになるのよ! それで悪者をじゃきじゃき切り裂きまくるわけっ! ステキ♪」

ああ‥‥それじゃあ『切り裂きジャックの彼女』ではなく『彼女が切り裂きジャック』になってしまう‥‥。

「ってか‥‥ジャック男名だし‥‥」
「‥‥ジョニー?」
「いや、ジョニーも‥‥」

「じゃあジャンヌは? ちょっと正義っぽいわ♪ジャンヌ・ダルクとかけて♪。よーし!今日から私はジャンヌ・ザ・リッパーよ! かっこいいー♪」

いや‥‥微妙だしっジャンヌ・ザ・リッパー‥‥。確認のため、僕はこんな彼女を心から可愛く思ってるし、こんな彼女が大好きだ‥‥。

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