魔探偵ロキ・Palallel Game 「正義(アストレイヤ)の微笑」
プロローグ
 おや‥‥?。今宵のゲームにご招待した覚えはないが?お客人。どうやら、迷い込まれたようだね。出口?。ふふっ残念ながらこの夜は暁ける事を知らない。たった一つ、例外を除いては、ね‥‥。
「此処は何処だ、ヘイムダル‥‥」
「ちょうど良い所に来たね、ロキ。このお客人を案内しておあげよ」
「何?」
「君達はこの夜から暁を見る事は出来ない。たった一つ、このゲームをクリアする事を除けば、ね」
「そういう事かい‥‥。これも『運命(ノルン)』をかけたゲームか」
「いいや?単なる余興、さ。健闘を祈るよ、名探偵のお二人さん」
 やれやれ、単なる余興に付き合わされるわけか。大変だね、君もこんな事に巻き込まれちゃってさ。しかし、ボクと君とはこのゲームが終わるまで運命共同体ってわけだね。よろしく頼むよ。


問題編:「悪魔の宴」
――この世は、つまらないわ――

 一対一の生死を賭けた戦いに身を捧ぐ男達も、彼女に裁きを求める者もいない『今』は退屈‥‥。
「つまらないわ」
この世は退屈なの。早く帰りたいわ‥‥。
「同感だね。よく分かるよ、その気持ち」
「‥‥分かってくれてありがとう、と言うべきなの?」
「どちらでも良いよ」
くすっと笑って少年は彼女の座るソファの肘掛に腰掛ける。そして彼女の髪をすくって軽く口付けした。端正な横顔に感動は見られない。ただ、退屈なの、とだけ顔に表れている。
「でも、ボクはおもしろいおもちゃを手に入れたから、君とは違うね」
「あら?独り占め?。ずるいわ、私は退屈で退屈で死にそうよ?」
「ふふっ君は知ってるかな?。北欧神話界で最も賢く、最も裏腹な者、そして、最も悪しき者‥‥」
「ロキ神ね。そう、彼も来ていたの‥‥。それはおもしろそうだわ。彼には前々から興味があったのよ」
「そう言ってくれると思ったよ。どうだい?ボクと手を組む、というのは」
すっと首に腕を絡ませ、身を寄せるように抱きしめると彼女の手がその腕にかかる。けれど制止でも、振り切るものでもない。ただ存在する『静』に身を任せるように少年は彼女の髪に唇を付ける。
「私は誰にも味方しない。忘れたわけではないでしょう?」
「気に障ったなら謝罪するよ。では、これならばどう?。ボクはロキとゲームをする。もちろん君の愛する『フェアゲーム』でね。君はボクの代理としてボクの作戦通りにゲームに参加する。もちろんその審判も君に任せるよ。今までそうしてきたのと同じルールで」
「‥‥それは、チェスよりもおもしろいのかしら?」
「さぁ、それは君の主観の問題だ。けれど頭脳ゲームには違いない。でも、相手が相手、しかも自ら参加できるんだ、必ず君は満足すると思うよ?」
「いいわね、悪くない‥‥。その話、乗ったわ。この秤と(つるぎ)にかけて、このゲームの開始を宣言する。ふふっ完璧な作戦をお願いね?」


 「なぁロキ♪超絶♪美少女に茶会に招かれたんだ♪一緒に行かないか?」
光太郎の誘いにロキは口元をほころばせ、繭良は逆に頬を膨らませる。闇野は茶会でしたら私が‥‥と少し拗ね気味だ。
「何よそれ〜。すっごい怪しいわ」
「超絶ってどのくらい?♪光ちゃん♪」
「ちょっとロキ君〜!」
「少なくともお前よりは怪しくないぞ。本当はホタルと招かれてたんだけどな、ホタルの奴急に行けなくなって。元々ホタルが知りったのが先で俺は後から紹介された知り合いだから俺も断ろうと思ったんだがその美少女が友達も連れて是非来てくれと♪。普段は冷めた顔してるんだけどな、顔立ちはすごい端正だから笑った時なんか最高だぞ♪」
どのくらいなのか良く分からない説明だが‥‥。まぁ光太郎が此処まで絶賛するのも珍しい。よほどの美少女なのだろう。
「しかも彼女にそっくりの双子の姉もいるらしいんだ。俺はまだ会った事はないんだが、ホタルの話」
「美女が二人‥‥。この世の幸せだ♪」
「おし!行くぞ!ロキ」
「友達連れてって事は何人でもいいのよね!。私も行くわ!」
「私もご一緒します〜ロキ様」


 ――久嗚角(くおずみ)邸――
 ヨーロッパの貴族の邸宅を思わせるような石造りの屋敷に感嘆をついていた繭良ははっと我に返る。流されている場合ではない。すでにロキと光太郎は我先にと玄関へ向かっている。慌てて追いかけて行く闇野の背を見ながら繭良はまた頬を膨らませて駆け寄る。ドアの脇に備えられた古めかしい鎖を引くとカランと鐘の乾いた音が響く。そして中から女性の返事が。
「はい。あら、光太郎さんね。お友達も連れて来て下さったの?。賑やかになって嬉しいわ」
「お招きありがとうございます、飛鳥さん」
「飛鳥は中です。私は姉の由香里ですわ」
「あ、すみません、良く似てたから‥‥」
「いいえ。さ、中へどうぞ」
淡い若草色のワンピースに黒髪を束ねた姿は確かに、と頷ける物がある。悔しいけど、と繭良は心の中で唇を尖らせた。
≪あーあ、私制服のままだ‥‥。恥ずかしい‥‥。まぁ光太郎君もだけどぉ。≫
正面の階段を上がり、廊下を右手に曲がると程なくして左にも廊下が現れた。しかしその先は三メートル程でドアがついている。
≪?、向こうに部屋でもあるのかにゃ?。≫
左には行かずにそのまま突き当りまで行くと由香里は扉を開け、四人を招き入れた。すると由香里と揃いのワンピースを着、長い黒髪を下ろした少女がすっと四人に歩み寄ってにこりともせずに言い放った。
「いらっしゃい、光太郎君。ホタルちゃんが来れないのは残念だけど、お友達を連れて来てくれたのね」
「あ、ああ」
「ロキです♪。よろしく、お姉さん♪」
「闇野です。勝手に押しかけて申し訳ありません」
「大堂寺、まゆらです‥‥」
「ロキ君‥‥。ふふっ随分可愛らしいのね」
「いやあ♪それ程でも‥‥。ついでに可愛がってくれると嬉しいけどな♪」
――あんまり可愛いから苛めたくなっちゃったわ――

飛鳥がすっと背を屈めてロキを抱きしめる。繭良はむっとし、光太郎は少し羨ましい奴め、と言いたげな表情を浮かべているが‥‥。ロキはとても喜べた気分ではなかった。冷たく耳元で囁かれた言葉、ただただ無感動な、本気としか取れない一言‥‥。
「珍しいな、飛鳥がそんなに歓迎するなんて。俺も歓迎してもらいたいもんだなぁ」
「竜也‥‥」
「冗談だよ、怒るなって由香里」
「すぐにお茶を用意するわ。座っていて」
何者だ‥‥彼女‥‥。北欧の神とは違う。でも確かに、ロキ神(ボク)を知っている‥‥。
「どうなさいました?ロキ様。お座りになりませんと」
「あ、うん」
「由香里、ケーキ焼けたよ。あら?可愛いお客さんね♪。ボクお名前は?」
「ロキです♪よろしく、お姉さん♪」
「私は中邑 香織(なかむら かおり)、よろしくね♪」
「香織、ケーキ皿運んでくれない?。ケーキは私が切るわ」
これはまた、まだ準備中の所にお邪魔してしまったらしい。竜也と言われていた少年は気にせず座っているのでロキと光太郎も勧められた椅子についた。闇野は手伝うか否か迷っている様子だがケーキ皿をひろげるのを手伝い始めたようなので繭良もお茶を注いでいる飛鳥に歩み寄った。
「私配ります。えっと、貴女は飛鳥さんですよね?」
「‥‥ええ、ありがとう」
先程とは打って変わった艶やかな微笑に一瞬繭良は気圧される物を感じた。それをごまかすように繭良はさっさとカップを配り始める。ロキもその笑みに含まれた何かを感じ取ったがそれが何なのか、とまでは分からなかった。
「はい、どうぞ」
「おう、サンキュー♪まゆらちゃん」
「女の子とみるとすぐそれなんだから、竜也は。由香里姉さんに怒られても知らないわよ」
「ほっとけ」
「それにまゆらさん、好きな人がいるみたいだしね?」
「ほう、そりゃ初耳だ。でもまぁ飛鳥さんが言うんだからそうなんだろうな?」
違うわよ!と乱暴に光太郎の前にカップを置いて繭良は再び飛鳥の方に戻って行く。その間も飛鳥は口元にうっすらと笑みを浮かべていたようだが由香里と香織が相次いで戻って来るとふっとその笑みを消した。
「それはロキ君とまゆらさんの分にして。後は運んだら席に付いていいわ、まゆらさん。闇野さんの分は香織さんの方から回してもらうから。どうもありがとう」
「?ええ」
「さ、ケーキどうぞ♪。香織のお手製よ」
「うまく焼けてるか心配だけど‥‥」
いつもなら甘党のロキははしゃぎだすのであろうが、さすがに微妙な空気を感じて光太郎の袖を引く。何だ?と光太郎はそれに合わせて背を屈めた。
「飛鳥さんと由香里さんて仲悪いの?」
「さぁな‥‥?」
「あの竜也って人、由香里さんの恋人っぽいけど、飛鳥さんも好きだとか?」
「だぁー!何故まゆらまで!?。っといけないいけない‥‥」
「それはないな‥‥。飛鳥さん男関係興味ないみたいだぜ?」
「何の内緒話?」
飛鳥に言われてロキ達はいやぁと適当にごまかし笑いを浮かべる。また微笑する飛鳥の口元が、何もかも知っているような気がしてロキは少し背筋にする物を感じた‥‥。
「いやぁお姉さん達が美人過ぎて困るなって話♪」
「小さいのにお上手ね?ロキ君」
「あはは‥‥(なんか怖いよ‥‥飛鳥さんて‥‥)」
「さあさ、はじめましょ。最初にちゃんと紹介しましょうか。私、久嗚角由香里です。大学一年よ。それから双子の妹の飛鳥。香織はさっき自己紹介してたわね。香織は私の大学の同級生。それからそっちの彼が従弟で幼なじみの久嗚角竜也。彼は専門学校生なの」
「ついでに由香里の彼氏なのよ♪」
「尻に敷かれてるけどな」
そんな事ないわよ!と盛り上がる三人に対して飛鳥は随分とクールだ。やはり微妙な関係なのだろうか?とロキが彼女の方を見るとふっと目が合った彼女がまた例の微笑を浮かべる。驚いていると脇の光太郎がロキを突付いた。
「おい、穏やかじゃないな‥‥。飛鳥さんがあんなに笑うなんて珍しいんだぞ?」
「子供好きなんじゃない?」
「そうか?」
「とりあえず乾杯してケーキを頂きましょうよ」
「じゃあ飛鳥嬢と由香里嬢のお招きに、乾杯!」
竜也が言うと皆自分のカップを上げてカップ同士を合わせる。そのまま砂糖などもまわってこなかったのでストレートのまま紅茶を飲み干す。
「あ、この紅茶すごくおいしい‥‥」
「そうですね‥‥茶葉は何を使ってらっしゃるんですか?」
「プリンスオブウェールズなの。お注ぎするわ」
「あ、すみません‥‥」
「ボクはミルクか砂糖があった方がいいんだけど‥‥」
「あら、気付かなかったわ、ごめんなさいね。今持って来るわね」
席を立つと由香里は台所に、飛鳥はティーポットを持って闇野の方にそれぞれ行く。そして戻って来た由香里がロキにミルクを差し出すと繭良のカップに紅茶を注ごうとしていた飛鳥の肩に触れる。
「ロキ君ミルク‥‥あっ」
「きゃ!」
「あ‥‥。ごめんなさい、まゆらさん。すぐに着替えないと」
「だ、大丈夫ですよこのくらい、拭いておけば‥‥」
「でも制服でしょう?。しみになったら大変だわ。香織、私達別館に行ってるからよろしくね」
「うん」
別館?とロキは窓の方を見た。確かに、向こう側に三階建ての建物が見える。あの廊下は別館に行くものか‥‥と納得していると双子姉妹に連れ出されて繭良は部屋を出て行った。

――別館――
 「これがいいかしら?。ねぇまゆらさん、飛鳥」
と由香里は淡いピンクのワンピースを取り出す。飛鳥は洗面台で繭良の上着の染み抜きをしているためこちらを見てはいない。
「本当に、何でも‥‥」
「彼の心を知りたいとは思わない?いえ、彼らの、かしら‥‥」
「え?‥‥」
「飛鳥‥‥?」
染み抜きを終えたのか手を拭きながら現れる飛鳥は例の微笑。ぞくりとするものを感じながらも繭良は知らず知らず彼女の次の言葉を待っている自分に気付いた。
「知りたいわよね?。求めずにはいられない、それが人間という物だわ。私が、教えてあげましょうか?」
「‥‥」
「あの、一体誰の事‥‥」
「由香里姉さんには竜也の、まゆらさんには‥‥ふふっ言わずとも分かるでしょう?」
「‥‥」
「その張り詰めた顔、可愛いわ」
飛鳥の手が繭良の頬に伸ばされ、そっと触れる。水を触っていたためなのか冷たい手‥‥。その冷たさに繭良は思わずぞっとした。
「どうやって‥‥」
「簡単よ。そして至極単純。でも、絶対に心のうちを曝け出すわ」
「‥‥やるわ」
「そう言ってくれると思ったわ、由香里姉さん。さぁ、まゆらさん、死に化粧はこの純白のドレスにしましょうか」
思わず息を呑んで繭良はあとずさる。しかし、飛鳥の微笑は逃がさない、と言っているように見えた。そして、飛鳥の手にしたドレスの下から現れたのは細いレイピア‥‥。


――本館――
 待っているロキ達は竜也や香織とたわいない話をして時間を潰していた。不意に、電話のベルが鳴る。この家の二人がいない事を思い出してはいはい、と竜也がめんどくさそうに立ち上がってこの家には不似合いに文明的な電話の子機を手に取った。
「はい。何だ、飛鳥か。何?、ああ、分かったよ。ロキだっけ?、代われってよ」
「ボク?。代わったけど?飛鳥さん」
『窓際に来て頂戴』
「?」
子機を持ったままロキは言われた通りに窓に歩み寄る。不思議に思ったのかなんとなく他の者も立ち上がってロキに続いた。
『見える?』
そう言われてロキは別館に飛鳥の姿を探した。二階には見当たらない。三階に視線を上げると一室で飛鳥が笑いながら手を振っている姿が見える。
「見えるけど?」
『ロキ君!』
「!!まゆら!?」
「ロキ様!窓を!」
受話器の方に気を取られていると闇野が叫んで窓の方を指差す。再び三階の窓に目を向けるとあちらの窓に駆け寄った繭良が何か必死に叫んでいる様子が見て取れる。
「どうした!?まゆら」
『由香里さんが‥‥。!!』
『おいたは駄目よ?まゆらさん』
「何があった!まゆら!」
『そちらからじゃ、これ見えない?』
目を凝らして見ると飛鳥が繭良を片腕で抱え、もう片方の手で受話器を振り回している。そしてさらに良く見ると繭良を抱えた手に握られているのは‥‥血の付いた剣!?。
「!!‥‥。飛鳥さん、その剣の血は‥‥?」
『あら、意外に冷静ね、つまらない‥‥。その電話、ハンズフリ−にして頂戴』
「‥‥分かった」
「なんなんだよ、ロキ」
押し黙ったままロキはボタンを押して窓辺に子機を置く。そして手を触れないように一歩退いた。わけが分からないままだが、ただならぬ気配を察して皆も黙って見守る。
『由香里姉さんは私か殺したわ。繭良さんの目の前でね』
「!!」
「な‥‥ん‥‥。飛鳥お前‥‥」
『信じられないならその目で確かめてみる?』
自分の電話もハンズフリーにして飛鳥は空いた手で由香里のぐったりした体を抱えて窓際に近付ける。胸には鮮血の赤‥‥。
『いやぁー!!』
「由香里!?」
「きゃあー!!」
「‥‥何故‥‥何故こんな事を‥‥」
『‥‥楽しいから。退屈なのよ、私と同じ顔で楽しげに笑う由香里姉さんがいると憂鬱。‥‥。ねぇ?ロキ君、まゆらさんて可愛いわよね』
「!!」
くすっと笑って飛鳥は繭良の首筋に剣を当てる。思わず身を乗り出そうとするロキの肩を掴むのは闇野の手。そうだ、悔しいけれど此処からではどうしようとも繭良の所には届かない‥‥。
『いや‥‥ロキ君!!』
「落ち着いて!まゆら。必ず助ける」
『あらら、できるかしら?』
「条件があるんだろう?どうすればいい?」
『さぁて、どうしようかしら。まゆらさんお人形みたいで可愛いから、返すのもったいないわ』
「どうすればいいのか聞いてるんだ!」
ロキの急かす声にも動揺を見せず、飛鳥は思案する時間をたっぷりと楽しんでいるようだ。そして名案、とでも言いたげに再び口元を緩ませる。
『じゃあこうしましょうか』
『!!。あ‥‥』
繭良の背から腹部にかけて剣が突き立てられる。一瞬繭良自身も何事かと見つめる表情を見せ、ゆっくりと倒れ込んでいった。その繭良を飛鳥は受け止めてまだ解放する素振りは見せない。動揺にロキも呆気に取られていたがはっと我に返って窓枠にしがみついた。
「まゆら!!」
「ロキ様!危ないです〜!」
「落ちつけ!。あの位置なら即死はありえない。まだ大丈夫だ」
『そう、光太郎君の言う通り。まだ殺してはいないわよ?。でも時間の問題。まゆらさんが本当に私のお人形さんになってしまう前に此処に来て頂戴、ロキ君』
「!?」
そんな事で‥‥?と怒りと呆れに満ちた眼差しを感じたのか飛鳥は意地悪く笑みを浮かべ、口元だけでそれだけじゃないけどね、と伝える。
「‥‥いい加減、冗談はやめてくれよ飛鳥さん。悪戯にしても程があるぜ!」
『悪戯?冗談?。光太郎君こそ何を言ってるの?。この私が、本気でないと本当に思ってるの?』
「っ‥‥」
『簡単には来れないわよ、頑張って頂戴。そうそう、お茶にも悪戯をしておいたわ。体質にもよるけどそろそろ効いて来る頃ね』
「飛鳥さん、何を‥‥。!?」
「光太郎さん!?どうしたました!?」
言いかけたまま光太郎は膝を折って床に屈み込む。ロキは相変わらず飛鳥を睨みつけたまま。闇野が光太郎の肩に手をかけてそのまま倒れ込んでしまいそうな彼の体を支える。
「大丈夫だ‥‥。ただ、気持ち悪いだけ‥‥」
『始めはね。光太郎君が一番みたいね。時間が経つにつれて毒が回るわ。胃洗浄しても無駄よ。もう消化されて体内に回り始めてる頃‥‥。それから、助けも呼べなくしておいたから。外線は切ってあるわ。それに‥‥』
『この屋敷から出るのも無理。このゲームを解くまでは』
「!‥‥貴様‥‥やはり‥‥」
『そう怒るなよ。ルールは単純。彼女とまゆらお姉ちゃんがいるこの部屋まで来ればいい。そうすれば解毒剤も君の物。ただし、まゆらお姉ちゃんの出血と彼の症状からみて制限時間は三十分。これ以上はあげられないよ』
必死にヘイムダルの姿を窓越しに探すが無理だった。しかし、電話越しの声は確かにその場にいる事を感じさせる。自分はまたしても、彼が罠を張って待ち受ける蜘蛛の巣にかかってしまったのだ。その糸を切り払うには相手の手段に乗るしかないという事も、痛いほどに分かる‥‥。
「‥‥分かった」
『健闘を祈るよ、ロキ』
それを最後に電話は一方的に切れた。繭良を連れた飛鳥も窓から見えぬ所に下がって行く。その後姿を追いかけて、ロキはまだ振り返る事もしない。
「ロキ様‥‥」
「ロキ‥‥」
「別館に行くのは簡単だ、ただ飛鳥のフェンシングの腕はやっかいだぜ、ぼうず」
「フェンシング?」
「ああ、由香里はやってないがな、飛鳥は相当な腕だぜ」
振り返ったロキはまた少し考え込む。
≪言われてみれば、確かに飛鳥さんが持ってた剣はフェンシング用のレイピアだ。この家の飾りか何かだと思っていたけど‥‥≫
「‥‥お姉さん、光ちゃん看ててもらってもいいかな」
「あ、うん」
「おいロキ‥‥俺も‥‥」
「駄目だよ、何の毒か分からないんだ。物によっては動くほど回りが早くなる。竜也さん、屋敷の造り分かるんだよね?」
「ああ、一応幼なじみだからな」
「一緒に来て、闇野君も」
いつものロキらしさが戻って来て内心嬉しいらしい闇野がもちろんです!と言って後に付いて来る。竜也が歩いて行くのは例の離れに続く廊下。ドアノブに手をかけ、竜也はぐっとドアを押すがドアは頑固として口を開かない。
「!駄目だ!飛鳥の奴、鍵をかけたな」
「一階からまわれないんですか?」
「この屋敷の造りはおかしいんだよ、別館の一階には窓とかドアとかまったくないんだ。ったく、面倒な事しやがって、飛鳥の奴‥‥」
「‥‥?。あの、失礼ですが恋人が殺されたのに‥‥?」
「ああ‥‥。由香里は何かと喧しかったしな、焼餅焼きだしよ‥‥。同じ顔なら飛鳥の方がましかと思ってたんだが、殺人までやらかす危ない女だとわ‥‥」
ぶつぶつと文句を言っている竜也は無視してロキはドアやその周りを念入りに調べる。鍵は重厚な物でヘアピンやら工具やらがあっても簡単には壊せそうにない。周りにも他に抜けられるような通気口やらはないし、ドアに体当たりしてドアそのものか止め具を壊すのが一番か。
「闇野君、体当たりしてドアを壊すよ!」
「それより鍵を探した方が良いのではないですか?」
「そんな時間はないんだ‥‥。第一、合鍵なんて置いておくとは思えないね、ゲームを吹っかけようってのに」
「分かりました。協力してください、竜也さん」
「無駄だと思うけどな‥‥」
と文句を言いながらも竜也は闇野に協力してドアに体当たりする。しかし、五分ほど続けたがドアは一向に壊れるどころか揺らぐ気配すら見せない。
「全然駄目です〜ロキ様〜」
「だから言っただろ‥‥。防火用の特別な木なんだよ、これは‥‥。厚さも半端じゃねぇんだ‥‥」
「くっ‥‥じゃあ一体どうしたらいいんだよ!!」
≪ロキ様‥‥まゆらさんの事でいつもの冷静さを失ってらっしゃる‥‥。もし此処で魔法を解いていただけたら私の力でこの扉を破る事が‥‥。けれど、私を連れ出した事が知れればそれこそヘイムダルの思う壺になってしまいますよね‥‥?。あ〜!!どうしましょう!?≫
「やべ‥‥俺まで気持ち悪くなってきた‥‥」
「大丈夫ですか!?。ロキ様、竜也さんをお部屋に送り届けてきます」
「うん‥‥」
≪破るのは無理。探したところでおそらく鍵もないだろう。一体どうやって離れに行ったらいいんだ‥‥≫
「!そうだ‥‥。いちかばちか、試してみる価値はあるぞ!。おーい闇野く‥‥」
「きゃあー!!」
「!?、どうした!」
部屋の中に駆け込むと膝をついている闇野がおろおろとやや動転した様子で振り返る。その隣には血を吐いて倒れている竜也の体‥‥。
「あ〜ロキ様!?。どど、どうしましょう!?」
「何がどうしたんだい?‥‥闇野君」
「私も気分が悪くなってちょっとよろけたら竜也さんがぁ‥‥」
「‥‥」
頭を抱えてどうしましょう〜!?と取り乱す闇野は一時置いておいてロキは倒れている竜也の脇に屈み込んだ。触れる首筋からは鼓動がない。もう死んでいる‥‥。
「これは‥‥別の毒物だな」
「え?‥‥」
「だって真っ先に症状が出た光ちゃんは平気だろ?」
「あ、ああ。体がだるくて起き上がれないがな‥‥」
「飛鳥さんはお兄さんのカップにだけ別の毒を入れてたんだな‥‥」
「待てよ!。飛鳥さんは人を殺すような人じゃない!。ましてどうして飛鳥さんが竜也さんを殺す必要があるんだ!」
怒鳴りながら身を起こそうとした光太郎は体がついていかずにソファとクッションの枕へと引き戻され、歯がゆそうに顔をしかめる。まだそんな事を‥‥とロキの方も機嫌悪そうに顔をしかめる。
「現に由香里さんが殺されてまゆらが刺されてる!。そして光ちゃん、君自身も毒を飲まされてるんだよ?。今さら竜也さんが毒殺されたからっておかしな事じゃないさ」
「それだけどな‥‥どうしてあれが由香里さんだと分かる?ロキ」
「!?」
「由香里さんと飛鳥さんは双子の姉妹だ。声も顔もそっくり、まして今日は服だって同じ。違いは髪型だけだ。電話をしてきたのは飛鳥さんの格好をした由香里さんかもしれないんだぞ!?」
「でも、あの話方は由香里じゃなくて飛鳥ちゃんだわ」
「けど双子なんだから!」
あのぞっとする程本気な遊び心しか感じなられない口調、あの雰囲気。最初に感じたあの時と同じ‥‥。彼女は、心底この殺人ゲームを楽しんでいるんだ‥‥。
「光ちゃん‥‥ボクも、飛鳥さんだと思うよ」
「っ‥‥。なら何故飛鳥さんが竜也さんを殺すんだ!。動機は!?」
「さぁ、楽しんでるだけかもね。第一、お茶を入れたのは彼女なんだ。お兄さんの分にだけ別の毒を盛る事くらい簡単だろ?」
「無理ですよ、ロキ様。お茶を注いだのは飛鳥さんでしたけど、そのカップを竜也さんの所に運んだのはまゆらさんだったのですよ?。しかもまゆらさんはカップを二つ持って、片方は光太郎さんの所に置いたんです」
「!!」
冷静に先程の事を思い返すと確かに、竜也にカップを渡したのは繭良だ。しかも下手をすればそのカップは光太郎にまわっていたかもしれないのだ。意図的に竜也を狙ったのだとしたら飛鳥のリスクは大きい。もっとも、誰が死んでもいい、無差別殺人だったら違っただろうけど。
「第一彼女は殺しを楽しむような人間じゃない。人を騙して楽しんでるとこはあるけどな‥‥。彼女、普段はあんな冷めた顔してるけどほんとはすげー優しい人なんだよ‥‥。俺が悪さやってた時だって‥‥ホタルとあの人だけは変わらなかったよ‥‥」
『光太郎君、またそんな所にケガして‥‥。ちょっと貸してごらんな
さい』
『るせーな、飛鳥さんには関係ないだろ』
『いいから止まるの』
『!‥‥。つっ‥‥』
『あとはばんそうこう貼っとくから、帰ったらちゃんと消毒なさい』
『いらねぇよ!かっこわりぃ‥‥』
『怪我したまま放っておくのはかっこいいの?。くだらない‥‥』
『‥‥』
『はい、これでいいわ。あんまりホタルちゃんに心配かけさせるんじ
ゃないわよ』
『あいつには関係ねぇって!』
『退屈なんだ、君』
『‥‥』
『分かるよ。私も退屈』
『飛鳥さん?』
『でも、「退屈」を「おもしろくない事」で満たそうとしても全然満
たされないよ。この世は、つまらないわ‥‥。でもホタルちゃんと光
太郎君といる時は少し満たされてるんだけどな、私‥‥。そういうわ
けだから‥‥今日は私に付き合いなさい!』
「‥‥飛鳥さんじゃねぇよ、絶対」
「‥‥」
けれど、ヘイムダルの力を使えば人は変わる、誰だって‥‥。皆、心に魔の入り込む隙を持っているんだ‥‥。けれど竜也殺し、これは飛鳥さんとは切り離すのも可能性としては捨てきれないな‥‥。
「取り合えず!」


 さぁ、此処で本編は中断だ。この先の道はパートナーである君に選択してもらいたい。見事、この夜から抜けられる道を選んでくれよ?。ああ、それから今回は珍しくも作者本人からヒントがもらえるらしいよ。じゃあ、バトンタッチ♪。
 はいな♪ロキ様♪。お久しぶりの皆さん始めましての皆さん、ちわ!えあでっす!。今回はなーんと!「トリックなし♪」(きらきらきら☆)いや皆さん私がこーんなに苦労してるのに(?)怪しいの一言で当ててしまわれるんですもの‥‥(ぐすん←嘘泣き?)というわけで今回は怪しいだけで犯人を当ててもらおうじゃありませんか(くっくっく←本人の怪しさも一点五倍当社比)まぁ今回は推理よりもお話を楽しんでいただく感じですか?。まゆらちゃん心配のあまり取り乱してるロキ様とか♪飛鳥ちゃんに可愛がられてるロキ様とか♪(ただ単にネタ切れともいう)というわけで外れた先には漏れなく彼が‥‥(いや外れなくてもだけど)頑張りたまい!。ロキ様交代いたしまする〜♪。
 前回の根に持ってるな‥‥作者。というわけで(こほん)君が怪しいと思う道を選んでくれてかまわないよ。まぁまったくノーヒントじゃないけどね。そうそう今回は作者がひねくれてるからね、正しき道程が真実の道に続くとは限らない。平行線を行けば意外と気まぐれな女神様が道を示してくれるかもよ?。

<次ページ説明>
■この先、解答編はジャバスクリプトでサウンドノベルを再現したWebノベルを仮使用させて頂いております。ので少しばかり操作説明の方を。
■ 基本的にはマウスの右クリックorキーボードのEnterキーを押して先に進みます。選択肢はカーソルを上に持ってきてクリックをするかAlt+数字で選択肢を選び、Enterを押します。
■セーブ&ロード機能はまだ未対応なのでいじらないで下さいね(汗)
■ちなみに当ページでは新圧縮方式、PNGを採用しておりますので古いブラウザでは表示されない場合もあります。それでも上と同じ方法で先に進めます。
■まぁでもおすすめ環境はIE5.0が良いですね。Web Novelの方も安定しているそうなので。
■では魔探偵ロキ・Palallel Game 「正義(アストレイヤ)の微笑」解答編、お楽しみください♪

夕闇を待つ暁の部屋へ/解答編:盤上の駒へ

Matantei Loki Palallel Game