もしも願いが叶うのなら‥‥

『たった一つだけ願いが叶うというならば、ボクは何を望むだろう‥‥。神話界に戻る事?
この世界に居続ける事‥‥
馬鹿な‥‥。そんな愚かな願い、誰が願う‥‥?』

誰がその願いを聞き届けるというのか‥‥。

『自分の命と引き換えに失った誰かを取り戻せるのなら、私は誰のために命を賭すだろう‥‥。かけがえのない人?

それって誰の事?分からない‥‥。

かけがえのない人でなければいけないの?。例えば、自分のために命を賭した人では‥‥。

叶えられた祈り


 「首尾は?イドゥン」
くすっと笑みだけで返し、女性はベットに伏す少年に近付く。そしてそっと傍らに座って薬箱に手を伸ばす。
「万事順調ですよ」
「あたた‥‥。消毒なんて朝と夜だけやればいいと思わない?。こんなにまめにやらなくても‥‥」
「貴公がナイフに毒など塗っていなかったのならそう出来たでしょう。跡を残したくなければ大人しくなさいませ」
「それで?獲物は罠にかかりそうかい?」
「逃げ道は多数用意してあります」
「おいおい‥‥」
けれど、と付け加えて女性はガーゼを少年の傷口に押し当て、痛がる少年は気にとめずサージカルテープでそれを止め、さっさと薬箱を片付ける。
「けれど獲物は逃げ道に戸惑いさらに奥へと入り込み‥‥逃げ場を失う!‥‥」
「全ては大神の意のままに、というわけか。さすがね」
「そういうわけですから、貴公は安静になさっていてください。‥‥今夜出ます」
「それを聞いては放っておけないな。安静にするのも今夜まで、だよ」
「仕方のない人ですね。まぁ私は一応止めましたよ。後は知りませんから」
「こんな楽しい祭りを見逃す手はないさ‥‥」


 我が家でやるように習慣的に繭良は郵便受けの中を覗いた。此処に来て初めてではなかろうか?。白い封筒を手に取って物珍しそうに見ながら繭良は扉をくぐった。
「ロキく〜ん♪お手紙来てたよ♪」
「や〜み〜の〜く〜ん読んで〜」
「何?ロキ君元気なーい」
「何でしょうね?。おや‥‥『ラウズヘイム』レストランですか‥‥。招待券らしいですよ」
「!」
「わぁ〜♪そのレストラン行きたかったの!。ねぇ行こう♪行こう♪」
ラウズの庭ラウズヘイムか‥‥。この時期にそんな名前のレストランから招待券‥‥。考えすぎか?。けれど、用心するに越した事はないな‥‥。
「やめときな。そんな怪しいの‥‥。どうせ難癖つけられて結局払わされるんだから‥‥」
「その時は私が奢るから♪。あ、でも二枚しかないんですね‥‥」
「ロキ様、まゆらさんとお二人で行かれてはどうです?」
「え〜〜?(←不満げ)
「たまにはよろしいでしょう?」
「たまには〜?(←さらに不満げ)」
この前はまゆらといて何故だか飛鳥さんに当たられるし最近なんだかまゆらといると余計にいろいろトラブルに見舞われる気がする‥‥。やっぱりこれは大人しく断るか。
「『気軽に楽しめるフランス料理のお店ラウズヘイム。開店より一週間に限りましてケーキ等のデザートバイキングも行っております』って」
「!よし行こう!まゆら!」
「わーい♪やった〜!」
「良かったですね♪まゆらさん」
「じゃあ込むだろうから早めがいいよね。六時にレストランの前で待ち合わせね♪」
「ほえ?」
不思議そうな表情に繭良は何よ、と口を尖らせる。そしてだって‥‥と続けて自分を見おろした。学校帰りの制服。そして通学用の鞄。これではいくらなんでも‥‥。
「フランス料理のレストランだよ?一応。ちゃんとした格好で行きたいし、時間もまだあるじゃない?」
「まぁ、別にいいけど‥‥(なんとなく何かな‥‥)」
「決まり!じゃあまたね!」
これといって期待もしてないロキの気抜けた見送りも気にせず、繭良は熱さも少しばかり影を潜めた道に飛び出して行った。一瞬垣間見えた儚い光に目を細め、そのまま背もたれに向けて重力を手放した。
 摩天楼を望む特等席。夜景にはまだ時間も及ばないが、それでも夕焼けの後の微妙な空が摩天楼の合間から自己主張している。それから視線を戻してロキはメインディッシュの皿を見やった。肉料理はこれからデザートと戦わんとする胃には少し重いか‥‥。
「食べないの?ロキ君。おいしいよ?」
メニューは違うくせに繭良が向かいからそう声をかける。ダイエットと称して繭良が口にしているのは『白身魚のムニエル』らしき物。上品にフォークとナイフを操る様は神社の娘という家柄を記憶から抹消してしまいそうだった。
「それにしても、まゆらがそんな服持ってたとは意外だな」
「え?」
ワイングラスを戻しながら繭良は何?と問いかけの視線を向ける。中身はグレープジュースだが色合いといいグラスといい本物と見間違う程。それに、上品な肩のないワインレッドのドレス、同じ色調の肘までの手袋をした姿、そして髪をぐっとアップした繭良はその顔のあどけなさに反して魅力的な淑女に思えた。
「格好さ。二時間かそこらでそんなに変わってるんだもの、びっくりした」
「あ、これ?。えへへ♪似合ってる?ロキ君」
照れ隠しかロキは一口サイズの肉片を口の中に放り込んで返事も一緒に飲み込む。それでも気にせず繭良は上機嫌にはしゃいでいるが。
「実はね、服とか髪とか全部飛鳥さんがやってくれたの♪。パパにロキ君とレストラン行って来るなんて言ったら発狂しかねないかなと思って、飛鳥さんに口裏合わせてくれるようにお願いしたの。そしたら服とかもぜーんぶ面倒見てくれて‥‥。ほんと!飛鳥さんて素敵な人よね、ますます好きになっちゃった♪」
「‥‥なるほどねぇ」
彼女ならこんなドレスの一着や二着、ぽんと用意できるだろうし気軽に貸してくれよう。しかしあの衝撃的出会いと歓迎振りを思い出してロキは少し複雑な気分になった。
「あ、ロキ君むっとして、もしかして焼き餅?、飛鳥さん女の人なのに〜」
「だ、誰がまゆらにやきもちなんか‥‥」
「それより似合う〜?ねぇねぇ♪」
「馬子にも衣装ってとこかね」
「何よそれ〜!。もう!ロキ君てば意地悪なんだから〜」
ぷいっと拗ねた顔をそらして繭良は薄く口紅の塗られた唇にメインディッシュの最後の一口を放り込む。まぁ、元の姿だったら間違いなく口説いてた範囲かな、とロキは一瞬思い、はっと思考を止める。
何でボクがまゆらなんかを口説かなきゃいけないんだ‥‥。でも、今の状態じゃ『姉弟』くらいにしか見えないだろうな‥‥。
「早く元に戻りたい‥‥」
「?」
「お客様、そちらお下げして良ろしいでしょうか」
「あ、はい、お願いします」
「こちらデザートバイキング用の取り皿になります。どうぞご利用くださいませ。お客様は?」
「あ、ボクのも下げて下さい」
ごゆっくり、と満面の笑みを残してウェイトレスは二人分の皿を残して去る。立ち上がる繭良に合わせ、ロキも席を立とうとするが足が使えないので思うように行かない。思い返せば‥‥席に着いた時はウェイターが椅子を押してくれたのだ。じたばたしていると目の前の皿がすっと持ち上がった。繭良だ。
「取ってきてあげる♪ロキ君」
「‥‥ありがと‥‥まゆら‥‥」
「何がいい?」
「う〜んケーキとチョコ中心かな♪」
分かった、と笑いを含んでいい、繭良は身を翻して他の客――主に女性だ――にまぎれ、デザートバイキングの列に並ぶ。そうなると繭良はもう別の誰かのようだ。ロキの見知らぬ、綺麗で女性特有の魅惑の片鱗すら見せる少女‥‥。
「お客様、食後に林檎などいかがですか?」
はっと我に返り、断ろうとロキは顔を上げた。いやぁボクは‥‥と言いかけたところで言葉に詰まる。後になって思えばそんなにも驚く事ではなかったと思う。自分なら当然のごとく、予測できたであろうから‥‥。
「イドゥン‥‥」
「お客様の望みを叶える、黄金の林檎ですわ、ロキ」
「望みを叶える?‥‥。は‥‥馬鹿な。それは神々が不老を保つための物だ。それを持っていけば主神の怒りが消えるとでも?。そんなはずはないよな?。君さえいればいくらでも手に入るものだ」
「こう考えた事はなくて?ロキ。林檎を食べなければ神々は老い、林檎を食せば若返ります。けれど若返ったその姿には個人差があるのです。それがなぜかお分かり?」
言われてロキは言葉に詰まる。主神と自分、トール、フレイヤ、ヘイムダル、イドゥン‥‥。皆一見して同じとは言えなかった。そして自分の息子達のように成長途中の子供達は林檎を必要としない‥‥。
「結論は至極簡単、力の最盛期で時が止まるからです」
「!」
「だから若返った貴公なら、成人した姿まで戻れるのではなくて?」
「‥‥何が目的だ」
「私は貴公の味方です、ロキ。と言っても、信用してもらえないでしょうが‥‥。林檎は置いていきます。食べる食べないは貴公の自由意思」
「招待状をよこしたのも君か?」
ごゆっくりどうぞ、と笑みを残し、女性は立ち去る。入れ違いに戻って来た繭良は視線だけで少し女性の背中を追いかけた。
「あのウェイトレスさん制服違う‥‥。格好いいなぁ」
「ボクらを招待してくれた人らしいよ。まぁいいや、出よう、まゆら」
「えー?でもデザートこんなに‥‥」
「‥‥」
山盛りのデザートに残念そうに目を向ける繭良に負け、ロキは浮かせた腰を戻した。わーい、と装いに反して子供っぽくはしゃぎながら繭良はロキの分の皿をよこし、自分もフォークを手に取ってまずはナポレオンパイを一切れ口にする。
「おいしーい!」
「むっ‥‥なかなか‥‥。これは闇野君の物にも劣らないな‥‥」
「?ロキ君これなーに?。金色の林檎だ♪」
「ああー!これは食べちゃ駄目!」
「?、あ、やだぁロキ君てば。飾り物でしょ?それ。食べろって言われても食べないわよ。さっきの人がくれたの?」
「そ、そう‥‥記念にって‥‥。ボク気に入ったからもらってもいいかな?」
どうぞ、と笑いを含んだ言葉を返し、繭良はナポレオンパイをもう一切れ。ロキもやや大げさに安堵のため息を吐いて林檎をテーブルに戻して先程食べていたチーズタルトに再び口を付ける。
「‥‥ねぇロキ君」
「ん?」
「‥‥今日、招待してもらえて良かったね。あの人に感謝しなくちゃ‥‥」
「そんなにいい事でもあった?まゆら」
「ううん!。さ、どんどん食べよ!」
「きゃあ!」
妙に照れくさくなって俯かせた顔を悲鳴がまた元の位置へと戻させる。きょろきょろさせていたが繭良の顔が止まる。それに合わせ視線を向けるとその先には料理用の包丁を突き付けられた先程の女性、イドゥン‥‥。
「!」
「やめろ!。何のつもりだ、その人を離せ!」
「ロキ君‥‥」
「此処は俺が買い取るはずだったんだ‥‥。此処には俺の店が‥‥。この店がなくなればいいんだ!」
「きゃあ!」
男が包丁を持ったまま暴れだし、他の客達が店員に誘導されて次々と逃げて行く。しかし、ロキと繭良はちょうど犯人を挟んで犯人の向かい側にいる。下がるよう繭良に指示してロキは犯人に一気に近付いた。
魔に憑かれているだけか‥‥。しかも、ヘイムダルとは関連なさそうだな。魔さえ落とせば‥‥。
「こんな店、ぶっ壊してやる!!」
「!。まゆら!伏せろ!」
犯人が振りかざしたのは手製らしいコードなどが付いた箱。しかしそれがプラスチック爆弾か何かである事はすぐに分かった。爆弾が投げられる。ロキは身を翻して繭良の方に駆け出した。床に物が落ちる音。呆然と立ち尽くしたままの繭良に向けて地を蹴り、ジャンプする。激しい爆音、爆風。風に煽られた体が、そのまま繭良の元に辿り着いたのか。それとも無理だったのか、その感触すら分からない。けれど、意識が落ちて行くのだけが、妙にはっきりと分かっていた‥‥。


 「うっ‥‥」
どのくらい気絶していたのだろう。多分、そう大した時間ではないはずだ。身を起こしたが捜し求める少女はいない。まゆら?と呟こうとして思いっきり煙を吸い、咳き込んだ。先程の爆発で火事が起きたらしい。
「くそっ爆発でスプリンクラーがやられたのか‥‥」
しかし、救助しに来る人間がいたって良さそうなものだ。愚痴りながらもロキは少女の姿を捜した。倒れたテーブル。吹き飛んだ真っ白なテーブルクロス。その下から、わずかにワインレッドの手がのぞく。
「!まゆら!」
駆け寄って体を揺すり、頬を叩く。けれど少女は目覚めない。衝撃で頭を打った可能性は十分にあった。とりあえずさして重くもないテーブルの下敷きになっていた少女の足を引っ張り出し、その場を離れようと少女の体に手を回す。
「っ!」
抱え上げようとしたが勢い余って少年は後ろに引っくり返った。まぁその体で自分の二倍はあろう身長の少女を抱え上げるのは無理な事だ。
しまった‥‥この体じゃまゆらを運べない‥‥。かと言って、助けは期待できないし、何より火の回りが速すぎる‥‥。何とか‥‥。
「!」
金色の光が目に飛び込んで来てロキは思わず目を細めながらもその光に引かれるように目を向けた。床を転がってくるのは、先ほど受け取った黄金の林檎。イドゥンの言葉を思い返しながらロキはそれを手に取った。
真実か、罠か。まぁいい、死ぬのなら、同じ事。繭良を助けられる可能性があるなら‥‥。
「‥‥っ」
一口かじった途端言いようのない痛みが体中を駆け巡る。いつも食していた時の感覚とは違う。けれどそれを堪えてロキはさらに林檎をかじった。
「くっ‥‥うっ‥‥ああー!」
体がバラバラに引き裂かれるような痛み。やはり罠か‥‥と思った時には痛みのあまりに床に倒れていた。炎の手が迫り、熱さがすぐそばに感じられる。まゆらを助けなければ‥‥とロキは力を振り絞って立ち上がった。その目線が、いつもよりずっと高い‥‥。
「‥‥戻ってる‥‥」
大きな手、高い視線、長い足。そして、見事なまでの金色の髪‥‥。紛れもない、神話界にいた頃の自分の姿だ。体が大きくなった分服はぼろぼろに裂けていたが――どうやらレイヤの覚醒とはまた違うようだ――テーブルクロスを拝借してその辺りはごまかす事にする。
まゆらが起きて見知らぬ、しかも裸の男がいればまた気絶しかねないもんな‥‥。何にしろ、これでまゆらを助けられる!。
手早く繭良をその腕に抱えるとロキはまだ炎に包まれていない場所を選び、硝子等に注意しながら手早く駆け抜け、レストランを出た。他に人影は見当たらないおまけに棒かシャッターが下りている。
中にもう人はいないのか‥‥?あの犯人は‥‥。
「でも、廊下のスプリンクラーは正常みたいだな。これなら、助けが来るまでは持ちこたえられる」
そっと繭良を下ろし、ロキはその体を炎から一番遠い場所に横たわらせた。やはり先程の犯人が気になる。それに、人質にされていたイドゥンも‥‥。スプリンクラーに濡れながらロキは再びレストラン入り口に戻った。先程は気付かなかったが炎の前に人影が二つ‥‥。一つは大きく、一つはそれよりもずっと小さい。
「イドゥン‥‥それに、ヘイムダル!?」
「そのまま逃げても良かったのに、ロキ。どう?最後の晩餐は、楽しめたかい?」
「!!。何だと!それじゃあ!」
「主神の命に背き、黄金の林檎を口にし、元の姿を取り戻した罪、人の魔を払い損ねた罪、多数の人間にケガを負わせた罪、裁かれる大義名分はどれがいいですか?ロキ。ああ、放っておけば死にますね、この者達。殺人も付け加えておきましょうか」
「どれにしても、君を殺すには都合がいい事さ。強運もこれまでだね、ロキ。大神の命のもと、此処でお前を抹消する!」
「くっ‥‥」
こんな所で死ぬ気はない。帰れず、まゆらを完全に助けることも出来ないなんて‥‥。いや、元の姿に戻っているなら魔術を使えるはずだ。何とかこの場を逃げ切る!。
「我を守り慈しみたもう雫‥‥!!」
「魔術など無駄な事だよ、ロキ」
「また逃げ道を失いましたね。貴公が魔術を使わなければ私の術も発動しなかったでしょうに」
「な‥‥に‥‥?」
体が動かない‥‥。またあの痛みが‥‥。こんな所で!。
「く‥‥そ‥‥!!」
「私はいくつもの逃げ道を用意しておりました。あの招待券を使わぬ道、痛みに負け林檎を使わぬ道。そして、その姿で魔術を使わぬ道、その全てを選んだのは貴公自身です、ロキ」
「足掻いても無駄だよ。陰府よみに落ちろなんて生ぬるい事は言わない。死ね‥‥」
「!‥‥」
魔術で作られた剣が、肉体を傷付ける事無くロキの胸に飲まれていく。血は流れ出さない。痛みも感じない。けれど、ロキは確かに自分の時が止まり、そして薄れていくのを感じた‥‥。
「誰かに傷を見られては面倒だからね?。逃げ遅れて死んだ事にしておくよ、ロキ」
「こんな時も焦らすなどと、悪い癖ですね、ヘイムダル。いかに消滅寸前といえど邪神ロキ、危険な存在に変わりはありません。留めを」
「もう少し楽しませてくれてもいいと思うけどな?イドゥン。分かったよ、無表情で睨むのはやめてくれないか?。今とどめを‥‥!?」
突風が吹き付け、炎が舐めるようにヘイムダルの手から剣を攫う。いや、炎に見えたのは燃え盛るような赤い毛をした狼に似た獣。そして、それに良く似た青い獣が倒れて行くロキの下に潜り込んでその体を受け止めた。
「何です!?この獣は!」
「下がりや、愚者ども」
「お前は!?」
「わらわの聖域たる魂の世を汚し、我が父を愚弄したる愚行、恥とする知があるなればわらわも追いはせぬ、去りや」
「ふっ‥‥自ら大神の成す事に歯向かおうと言うのか?。事は全て大神が望んだ事!」
「ヘイムダル!、この娘が大人しく大神の命を聞くとでも思っているのですか?」
イドゥンの言葉に娘はふっと口元に笑みを浮かべた。静かな肯定。艶やかに腕組を解いて指先を唇に当てる仕草は、魅惑を通り越して恐怖を感じさせた‥‥。
「わらわは奴が我が父に危害を加えかねぬと判断した故自ら陰府に身を投じたのじゃ。奴がそれを違えるなれば、まずは主らを我が僕の餌食として大神にくれてやろうかのぅ‥‥」
「誰が死にぞこないの眷属になど‥‥」
「ヘイムダル!計画は失敗です、引きましょう」
「懸命じゃのう」
また、微笑。こちらが引くと確信した、高慢すら感じる笑みにヘイムダルは悔しそうに顔を歪めたがイドゥンの手が押さえ、引き戻す。
「ロキの命とこの勝負、一時お前に預ける!」
「見苦しいぞえ?負け犬が」
「何!?」
「よう吠える犬じゃ。少しはこやつらを見習って静かにできぬのかえ?」
「ヘイムダル!行きますよ!」
強引にヘイムダルの手を取ってイドゥンが炎の中を駆け出す。満足そうに見送る娘を見上げ、青い獣が犬のような鳴き声を上げた。それに気付いてか娘はそっとロキの体を起こし、大事そうにその頭を抱き寄せる。
「お待たせいたしましたわ。さぁ帰りましょう‥‥お父様」


 目が覚めると妙に体が重く節々が痛い。全身はずぶぬれだ。どうやらレストランの中ではない。その前の廊下だ。体を起こして連れの名を呼ぶ。返事はない、姿も。立ち上がってもう一度名を呼ぶ。目をやるとレストランのドアは開け放たれ、硝子という硝子が吹き飛んでいた。その前に、白い物が転がっている。そこからのぞく茶色い物は‥‥髪の毛?。
「‥‥ロキ君!?。ロキ君しっかりして!ロキ君!」
答える声はない。抱き上げると布の合間からぐったりとした肩が露出する。何があったのかは分からない。特に目立って傷や火傷の痕はないので爆発に巻き込まれたわけでもないだろう。けれど、その目は開かない‥‥。
「いや!ロキ君!!」
「誰か生きてるのか!?」
防火シャッターが破られて光が飛び込んでくる。それを光と認知できたのかは分からない。とりあえず自分以外の誰かがそこに来ているのは明らかだ。
「誰か、誰かロキ君を助けて!!‥‥」


 精密検査を終え、病院で借りた入院患者用の服のまま部屋の外に出ると人影が二つ駆け寄って来た。一人は大学生くらいの女性。もう一人は黒髪、眼鏡の青年。そういえば、病院に連れて来られて連絡先を聞かれた時、ぼーっとした頭で飛鳥の家の番号を告げた気がする。事態を知って飛鳥が闇野も連れて来てくれたのだろう。
「まゆらさん!大丈夫ですか?‥‥」
「大丈夫?まゆらさん」
「ショックで、少しぼーっとしてるだけだって‥‥。ごめんなさい、飛鳥さんに借りてた服とバック‥‥」
「何言ってるの!。貴女が無事ならそんな物どうでもいいわ!。とにかく、良かったわ‥‥」
安堵とともに飛鳥の腕が繭良の肩を、頭を抱きしめる。ようやく繭良も安心して涙をこぼしかけた。しかし、それよりも早く別の感情が目を覚ます。
「ロキ君は!?」
「まだ検査中です‥‥。外傷はなかったのでただ気を失っているだけだと思うのですが‥‥」
「貴女は今のうちにお父様に連絡なさい。まだ私も連絡していないけど、事情は私の方から説明するから声を聞かせて安心させて差し上げなさいな」
一瞬戸惑って、駄目駄目と繭良は首を振る。どうして‥‥?と心配そうに飛鳥が顔を覗き込み、ちゃんと説明した方が良いですよ?と闇野も言う。
「パパに知らせたら絶対迎えに来るもの‥‥。そしたらロキ君のそばにいられない‥‥。ロキ君が起きるまでそばにいたいの!。いさせて‥‥」
「まゆらさん‥‥」
「‥‥分かったわ。うちに泊まる事にしておいてあげる。それならちゃんと電話するわね?」
「ごめんなさい、飛鳥さん‥‥」
「迷惑だなんて思っていないわ。!、ちょっと待って、まゆらさん。検査が終わったみたいだわ」
物々しく部屋を出て行く医師に看護婦。吉報は期待できる雰囲気でもなかったがあの、とかけられた闇野の声に反応して医師が顔を上げた。
「ご家族の方ですか?」
「ええ。それで、ロキ様の容態は‥‥」
「良くもありませんね‥‥。異常はないのですがだいぶ体が衰弱しています。人工呼吸器がないと呼吸も出来ないくらいに」
「!そんなに悪いんですか!?」
「先程も言ったように原因は不明です。一般の病棟に移しますが、どなたか付き添えますか?」
「ええ、そちらが構わないのならば付き添います」
では、と医師が口を開くとその後ろで人工呼吸器をつけたままのベッドが運び出されていく。闇野がすぐ様後を追い、繭良も追おうとしたが飛鳥の手に止めれられて視線だけで後を追った。ベッドは二○八号室へと運ばれていく。
ロキ君‥‥。
「何かあったらナースコールですぐに呼んで下さい。一応私が今夜の宿直ですので」
「分かりました。あ、公衆電話あります?」
「ナースセンターの前にありますよ」
「ありがとうございます。行きましょう、まゆらさん」
「あれ?飛鳥さん携帯電話‥‥?」
「病院は携帯電話厳禁よ」
あ、そっか‥‥と繭良が納得している間に飛鳥は公衆電話にテレホンカードを差し込んでボタンを押している。
「あ、私、久嗚角くおずみです。まゆらさん今夜お預かりしてよろしいですか?。いえ、夜に帰るはずだった父母が急に戻れなくなりまして、一人では心細くて。すみません、子供みたいな事を言って‥‥。でも、以前前は姉がいたもので‥‥。はい、すみません。はい‥‥今まゆらさんに代わりますね」
受話器を押さえながら繭良に向け、うまくごまかしてね、と小声で告げて飛鳥は電話を代わり、繭良を気遣うように足音を忍ばせてロキの病室に向かう。
「あ、もしもしパパ?。うん、ごめんね」
一瞬だったけど、あのロキ君の様子、普通じゃなかったわ。何かあった‥‥絶対に‥‥。
「闇野さん、様子はどう?」
「それが‥‥。いえ、憶測で言うのはやめておきます‥‥。飛鳥さんも確認してください」
「?ええ。!これは‥‥」
そっと触れる頬は血の気が薄い。いや、それを通り越して存在自体が希薄に感じられた。闇野が感じたであろう違和感を飛鳥も感じ取り、思わず手を引いた。
「これは‥‥闇野さん?‥‥」
「魂が体を離れてしまっています‥‥。おそらくヘイムダルの仕業です!。私がついていれば‥‥」
「でも、体は生きてるわ。こんな器用な真似、彼にできるかしら‥‥。それに彼らはロキ君の抹殺が目的のはずだわ。これでは失敗よ。!‥‥、まさか‥‥。闇野さん、貴公確か冥界に妹さんがいらっしゃったわよね?」
「ええ?それが‥‥。!まさか‥‥、でも彼女なら‥‥?」
「ロキ君がヘイムダルに殺されるなり抹消されるなりされそうになった。冥界にいる彼女ならその魂を手元に加護する事もできる、違う?」
出来ますね‥‥と呟いて闇野は考えるように口元に手を当てた。彼女の気性なら十分に考えれらる。そして彼女なら‥‥ヘイムダルの方も無事では済まさなかっただろう‥‥。
「助ける手段は一つね。冥界に行って彼女を説得して魂を取り戻す。でも、私は違う神話界の者だからそちらの冥界には行けないわ‥‥。闇野さん、貴公は?」
「私も‥‥ロキ様の魔法でこちらに来たので自力で戻る事は出来ないのです。まして冥界となると‥‥」
「打つ手なし、という事ね‥‥」
「闇野さん、飛鳥さん何の話‥‥?」
「!まゆらさん‥‥」
「何でもないわ」
突然入ってきた繭良に――いや実際突然でもなかったのだろうが――闇野はすっかり動揺したようだが飛鳥は平静そのもので振り切りどうだった?と気軽に言葉を返す。
「‥‥私、ロキ君が助かるなら命だって‥‥」
「そんな!そんな事をしてもロキ様は喜びませんよ!。それにそんな弱気なの、まゆらさんらしくないですよ‥‥」
「そうよ、軽々しく口にする言葉ではないわ。言葉には魔力宿るのよ?。どうせ宿らせるのなら、貴女の元気でロキ君も元気にさせるような魔力を宿らせて頂戴」
「‥‥」
「まゆらさん、少しお休みになった方がいいですよ。ロキ様のご様子は私が見ておりますから、ね?」
「そうね、具合が悪いと言えば空いた部屋を貸してくれるでしょ。行きましょう、安心して貴女には私がついてるわ」
俯いたのを肯定と取ったのか飛鳥は繭良を連れ出す。繭良は死んだように眠るロキを振り返って、もう二度と会えなくなるような、そんな不安に襲われた‥‥。


 目を覚ますと椅子に座って窓を見ていた飛鳥があら、と言って目を向ける。何か考え事でもしていたような、浮かない表情。
「交代しましょう‥‥飛鳥さん」
「でも」
「私は大丈夫ですから。ロキ君の様子、見に行ってきますね」
「‥‥じゃあ、少しだけ借りようかしら。ありがとう」
入れ違いにベッドを出ると繭良は廊下にでる。病院の廊下は思いのほか明るい。目に痛くない柔らかい光に安堵しながら繭良はロキの病室に入った。人工呼吸器の音はまだ聞こえる。ベッドの傍らに座っている闇野は椅子に座ったまま眠り込んでいるようだ。そっと呼びの毛布をその肩にかけ、繭良はもう一つの椅子を引き寄せてロキの手を握った。
ロキ君‥‥どうしたら助けられるの?。ロキ君、いつも私に大丈夫だって言ってくれた‥‥。今度もロキ君が助けてくれたんだよね‥‥。なのに私はロキ君に何もできないよ‥‥。

もしも願いが叶うなら‥‥。でも私は引き換えに出来る物を何も持ってない‥‥。
だから私の大事な物、私の命を引き換えにしても惜しくない
お願い‥‥神様‥‥。

 哀しい声‥‥悲痛な叫び‥‥。命をかけた、願い‥‥。そう、忘れていた‥‥。本来我々はこのような声を聞くために在るというのに‥‥。
「お行きなさい。その手で、望む運命を勝ち取るために。私は手を貸すだけ。陰府へと下り、取り返しなさい。貴女が望む者を‥‥」
「‥‥随分サービスが良いのじゃないかい?イドゥン‥‥」
「立ち聞きは悪趣味ですよ、ヘイムダル。このままでは我々も困るでしょう?。しかも彼らの中で私達に勘付かないのは彼女だけ。彼女が首尾良くロキの魂を連れ帰れば、私達にとっても都合が良い、違いますか?」
「違いはしないよ。ただ、同情したのかい?イドゥン」
「‥‥疲れました、私は先に寝させてもらいます」
「おやすみ、イドゥン」
 気が付くと目の前に大きな扉があった。優しい声と供に扉が開く。そこが陰府の世界へと続くものだと教えられたわけでもなく悟っていた。そしてその先に求める者がいる事も‥‥。大きく息を吸い込み、迷う事無く一歩踏み出す。
「ロキくーん!此処にいるんでしょ!?」
「黙りや、人間。わらわの城で甲高く騒ぐでないわ」
繭良がたじろいて立ち止まると部屋の中に再び静寂が訪れる。高い天井、床には半分腐っているのか死んだような人間がたむろしている。呻き声が聞こえない分返って不気味だ。それらから視線をはずすと玉座なのか一段高い台座の柄に据えられた椅子に女性が腰掛けている。長い金髪に石榴のような赤い瞳、怒っているのか少し歪めた端整な顔。気が付かなかったが彼女の膝の上にぐったりと金色の頭を載せ、横たえられた青年がいる。
「ロキ君を返して下さい!。体は生きてるのに‥‥。でもこのままじゃ本当に死んじゃう!」
「わらわがその者を捕らえているとでも?」
「‥‥違うんですか?」
「素直よのぉ、おもしろい人間じゃ。では捜してみるが良い。わらわの魔力が及ぶのはこの部屋の内のみ。その者がいるか捜してみるが良い」
部屋の中を見回し、繭良は半死人の群れに近付く。中には食事中の者もいたらしい。けれどどの者も繭良には気にする様子も見せない。ざっとさして広くもない部屋を見回ったが捜している者の姿は見当たらない。女性の方を見上げると青年の髪に指を絡ませて遊んでいるらしい。その青年の端整な横顔に目を向け、繭良は何か引っかかったような気がした。
「‥‥その人は?」
「この者がお前の捜している者かえ?」
「いえ‥‥。でも‥‥」
何故なにゆえ彼の者を求めるのじゃ。そなたにとってなくてはならぬ者なのかえ?。いなくてはそなたは生きられるのかえ?。そなたは彼の者がこの部屋の内にいるのにも気付かぬ。なのにそなたはそれでも彼の者を求めるのかえ?」
「はじめは一番じゃなかったけど、一緒にいて楽しいの‥‥。安心できるの‥‥。ロキ君が自分の意思で街を出て行ったのなら納得できたかもしれない。でもこんな別れは嫌!」
「自分が彼の者をこのような目に合わせた、故に自分の命で贖いたいとな‥‥。笑わせる。そなたは何も知らぬ。自らが追い込めたと思い込み、その罪悪感から勝手に解放される事を願っているだけじゃ」
図星を刺されたような痛みが胸を突く。違うと言いたかったのに、とっさに声が出なかった。けれど、否定するだけの要素を心の内に静かにまとめていく‥‥。
「‥‥『ごめんなさい』も、『ありがとう』も言えないままじゃ嫌!それじゃ駄目なの!?」
「人間とはまどろこしいものよのう。内なる叫びに自ら耳を傾け、それを曝け出せば新たな絆も生まれように。『わらわとの絆』を勝る事はなかったようじゃの。そなたの魂になど興味はないわ。帰りや」
「そんな‥‥きゃあ!」
足元が消え、繭良はその中に落ちて行く。次の瞬間には何事もなかったように床は閉じ、女性も再び青年の髪をもてあそぶ。
「‥‥ら‥‥」
「お目覚めになられまして?お父様」
「まゆら‥‥」
「人の世の夢に酔っておいでですの?お父様」
「‥‥ヘル?」
「お久しゅうございます。此処にいらしたからにはもう安心ですわ。大神の刺客も、大神の力すらも及びませぬ。ずっと、このヘルと供にいてくださいませ‥‥」
上半身を起こした青年に甘えるような仕草で女性、ヘルは首に腕を絡ませ、体を寄せた。けれど青年の手は、以前のようにすぐさまヘルを抱きしめる事はしない。
「まゆらが来ていただろう?。一人で、こんな所まで?」
「彼の娘は私と尊公様との絆を越えられませんでしたわ。だから帰したまでの事。もう、危機に御身を晒す事も、侮辱的姿を借る事も、人間の中に埋もれて過ごす必要もありませんわ」
「‥‥戻る」
「お父様!?」
「消滅から救ってくれたのだろう?ヘル。感謝してるよ。でも僕は行かなければ」
「何故ですか!?そのような危険を侵してまでそのような場所に戻る必然性がありますの?。実の娘よりも、人間の娘が大事ですのね‥‥」
張り詰められた鋭さすら感じる表情。その下の激しい気性が微かな『拗ね』と『軽い嫉妬』、それに確かな『自分の血筋』を思わせる‥‥。青年は微かに苦笑したがヘルは気付かなかったようだ。
「あの子を‥‥ヨルムンガンドを一人で残して来ているからね。一人では帰れないよ」
「ヘルも一人ですわ」
拗ねた顔をしてヘルは立ち上がり、恨みでも込めたような勢いでロキの首にしがみ付いた。しかし今度はそれに動じる事もなく、半ば支えるように娘の体を抱きしめる。
「ヘルは死者とはいえ大勢の者達がそばにいるだろう?。お前の兄、フェンリルも仇成す者とは言えチュールがそばにいる。けれどあの子のそばには誰もいなかった。だから、もう一人には出来ないんだ」
「‥‥トリックスター、その名に『素直』という言葉はありませんのかしら‥‥。まぁそういう事にして差し上げますわ。お兄様と一緒に、早く帰って来てくださいませ。でないとヘルは拗ねてしまいますわよ?」
「拗ねた顔も十分愛らしいが?」
「気が変わりましたわ。やっぱりたまには素直な一言が聞きたいですわね。というわけでこの手は離しませんわよ?。ん‥‥」
ヘルの頬を両手で包み、頬に唇を付ける。父親が出かけでに行ってきますとでも言うかのように。そして首に絡んだヘルの手をいとも簡単に解くと別れの言葉を紡ぐ‥‥。


 一人は寂しいの。どれだけの重みがそこにあったのか、失ってからでないと分からないなんて馬鹿‥‥。でも駄目なの。会いたいの‥‥。悪口でも、からかう声でもいい。その声を聞かせて‥‥。おかしいと笑ってもいい。でももう一度その声で大丈夫と聞かせて‥‥。
ドアは開かなかった。優しい声もない。願いは一度だけ、まったく神というのはありがたい。願いも奇跡も一回限りのセルフサービスか。絶望と疲れに繭良は力なくドアに寄ったまま座り込んだ。
「泣いてるの?」
「!」
「おかしいな、どうして?。何があったって言うのさ」
笑いを含んだ声が出し抜けに振って来て繭良はとろとろと後ろを振り返った。金色の髪、さっきの女性と同じ石榴の瞳。端整な顔立ち‥‥。その青年は‥‥。
「君がいるべきなのは此処じゃないよ。帰ろう、送ってく」
「駄目!私‥‥」
有無を言わさず青年は繭良の背と膝の後ろに手を伸ばし、軽々とその体を抱え上げた。繭良は恥ずかしさに真っ赤になったまま、抵抗しようという気すら消失してしまった。
「どうして駄目なの?。誰か待ってた?」
「待ってたの‥‥。ううん、連れ戻しに行ったの。でも駄目だった‥‥」
「大事な人?」
「‥‥分からない。分からないけど、言いたかった‥‥。ごめんなさい、それから助けてくれてありがとうって」
「意外と君の心配をよそに先に帰ってたりしてね。散々心配かけておいて、そんな事知らずに『遅いぞ!まゆら!』なんて怒ってたりして‥‥」
「そうかもしれない」
ありありとその口調が、声が思い出せて繭良は思わず笑ってしまった。怒ってもいいような言葉なのに、そう言ってくれたら、今なら喜んでしまうかもしれない。そしてはたと気付いたように青年の顔を見上げる。
「どうして私に優しくしてくれるの?」
「珍しく手折れて素直な女性もいいけど、多少素直じゃなくても元の明るさを取り戻してもらいたい、と思うのは男のエゴ?」
「?‥‥!!」
わけが分からない、と首を傾げると青年は不意に立ち止まって繭良を引き寄せ、唇を重ねた。頭の中が真っ白になっていたが体は素直だ。赤面している繭良の頬にも軽く口付けして青年は上げた顔でまっすぐに繭良を見下ろす。
「早く夢から覚めて、その顔に笑みを、うつつを取り戻してよ‥‥」
まゆら‥‥。
 「まゆらってば!落書きするぞ、もう!」
はっと起き上がるともうそこは病室に戻っていた。夢‥‥?と呟くその横顔に起きた?と呆れ顔を向けるのは少年‥‥。人工呼吸器は自分でさっさとはずしたらしい。枕の隅に申し訳なく乗っかっていた。
「ボクの胸に頭乗せてぐーすか寝てるんだもん。しかも人工呼吸器付けられてるようなけが人にだぞ!?。重かったんだからな!」
「ロキ君‥‥起きたんだ‥‥」
「何だよ、起きちゃ悪いみたいだな言い方じゃん、それ」
「あら!それだけ元気ならもうけが人じゃないわよ!。散々皆に迷惑かけて人騒がせなんだから!」
言い争う二人の傍らでこそっと部屋を出て行くものが一人。けれど二人はそれに気付かず相変わらずの喧嘩腰。
「こんな陰気な所さっさと出るよ!闇野君!。‥‥あれ?」
「闇野さんに愛想尽かされたんじゃないの?ロキ君てば」
「そんな事あるわけないぞ!闇野君!」
「無事で良かった。‥‥ごめんね、ありがとロキ君‥‥」
「え?何か言った?まゆら」
怒鳴り散らしていたからなのかロキが頬を赤くしたまま尋ねる。ううん、なんでもない、と繭良は笑みを添えてそれを返した。
「気味悪いな‥‥何だよ‥‥」
「何でもないったら。そうそう、私素敵な男の人夢見ちゃった。金髪で赤い瞳でとっても優しい人の夢!」
「へぇーえ?。そういうのが好みだったんだ、まゆら」
「妬いてる?ロキ君♪」
「だっれがまゆらなんかに‥‥」
「でもね、なんとなく似てたんだよ」
ロキ君に‥‥と言葉を向けると一瞬目を合わせ、ロキはすぐにぷいっと視線を逸らした。そんな態度でも、今は嬉しい。戻って来てくれたのだから。
 「やれやれですね」
呟いて青年は女性が差し出した缶入りのお茶を礼を言って受け取る。まぁいいのじゃない?と女性も缶入りのミルクティを一口飲んだ。
「何にしろ、戻ってきたんだもの。何もかも元に戻っただけよ。けれど、良くあのの所から戻って来れた事‥‥」
「わがまま娘を手懐けられたのはロキ様だけですから‥‥」
「あら、その辺の話興味あるわね。貴公と妹さんの事♪」
「いや、別に大した事は‥‥」
「二人は病院の方で食事が出るからいいわよね。さ、闇野さん♪朝食付き合いなさい♪」


あとぐぁき
 わーい終わったぁ!!(全てが‥‥でもない)「ショート♪ショート♪」とか言いながら何故こんなに長いのでしょう‥‥(それでもショートかね。ほんとに短いのは原稿二枚‥‥)原因は明快、余計な人を出してるからです(さて誰でしょう(笑))飛鳥ちゃん楽だからまた出しちゃった(爆死)そしてあの人は次回の自分の持ちの小説で出そうと思ってたのに(泣)あ〜ところでえあは伏線大好きです♪。さてえあの持ち小説の伏線に登場してるのは誰でしょうか♪(笑)
 300HIT記念にももにゃんから発注されてきたのは「大人的ロキまゆ♪」でしたにょですがえあ的にはこんなになっちゃいました(汗)ロキ君大人にしちゃったし‥‥(だってえあ的には男年上の方が好き〜(泣))でもあの二人は難しいにょ〜らぶらせるの〜(号泣)期待に添えたか分かりませぬがプレゼンツですわ♪ももにゃん♪。私的には彼女がかけて激幸せです〜♪。

何?イドゥンって誰?そんな北欧神話を知らない貴公に特別出張♪(爆)

やみのっち先生の北欧神話豆知識♪♪

闇野:ああ〜久しぶりのまともな出番です〜(感涙)
えあ:最近原作も存在薄い気がするのです〜(げしっ!!←蹴られた)
闇野:ようやく北欧神話もゲットした事ですし、まともな解説も出来ますね!!(でも図書館で借りたのとおんなじ(汗))
えあ:さようでございますね〜。ではイドゥンの解説をばお願いいたしまする、やみのっち先生。
闇野:はい、イドゥンは詩神ブラギと結婚した女神です♪。
えあ:‥‥にっこりさっぱりと本の後ろの解説だけで終わらせないで下さいね♪(ずごっ←殴り)
闇野:やはり駄目ですか‥‥。彼女の所持する林檎、黄金の林檎は神々の若さを保つためになくてはならないもので、原作でも不老不死のシンボルとされていますね〜。
えあ:いやぁまたネタだぶりかと思ってドキドキしちゃったよ(裏話)イドゥンでなくて良かったです、まったく。
闇野:ロキ様が一度手助けして彼女を巨人に攫わせたのですが‥‥だからって本場の彼女はおっとりほやほや系ですよ?いいんですか?あんなふうに出して‥‥。
えあ:それを言ったらヘルにゃん私の趣味走りまくりなんですけど。いいじゃん、気にする事ないワ、やみのっち。
闇野:そうですかぁ?。まぁイドゥンはこのくらいで終わりですね(あんまり出ないんだもん、この人(えあ))本元『やみのっち先生の解説北欧神話!』も復活予定ですので開設したらいらしてくださいね♪。
えあ:本手に入ったしそろそろ自分のとこもなんとかせんとなぁ‥‥(汗)

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