太陽様と向日葵さんとたんぽぽさんと♪
――太陽を追いかける向日葵はいつも不安な気持ちでいっぱいなの。太陽はいつも高見できらきら耀いてて、向日葵がその眩しさに目を細めているうちに何処かに行ってしまいそうで、とても不安なの――
――こういうのを友達以上恋人未満って言うのかしら‥‥。でも一応キスはしたよね。あ、でも私から一方的にか‥‥。学校で会っても別に普通だし学校の外に誘おうにもきっかけないしなぁ。って私ったらいつの間に光太郎の事ばっかり考えてるんだろう。やだやだ、今何してたのかも忘れちゃってるよ‥‥。
「‥‥ちゃん、ホタルちゃん!、手動いてない!。何ぼーっとしちゃってるの?」
「え?」
女の子の声で私はようやく現実へと戻って来た。採点中の答案用紙はかろうじて赤いインクの海にはなっていないものの、ぼーっとしてる間に書き綴ったらしい芸術が出来上がっている。
「あ‥‥、ごめんごめん、真夏 ちゃん。今終わらせるからね!」
「もう、しっかりしてよぉ。この模擬テストに私の明後日の運命がかかってるんだからね!」
机の上にのった膨れっ面を恨めしげに向けている子は広澤 真夏ちゃん。天然パーマのふわふわした肩までの髪と少し色素の薄い瞳が羨ましい。ハーフ?と聞いたら生粋の日本人だと笑われたっけ。私は中学三年生である彼女の家庭教師。高校生が中学生を‥‥と最初は断ろうと思ったのだけれど受験の記憶が新しい人にぜひとも、と頼み込まれて仕方なく得意の英語と文系だけを面倒見る事になった。(
「八十九点っと。まぁまぁね、合格ラインには達してると思うけど?」
「え〜そうかな?。T校ってもっとレベル高いんじゃない?。今度のテストで推薦状書いてもらえるかどうか決まっちゃうのに心配〜」
「あそこは理数がしっかりしてれば問題ないわよ?。でも、推薦状はなかなか難しいかも。一般じゃ駄目なの?」
「一般は試験の雰囲気が怖いの。推薦は小論文と面接だもん」
そう言って真夏ちゃんは八十九点とにらめっこしながら頬を膨らませた。推薦の方が怖そうだな、と私は思うけど「楽だったよ〜♪」とあっけらかんとしていった中学時代の友人を思い出したので言うのはやめた。
「あーあ、テストなんか早く終わんないかな」
「何?テストの後にいい事でもあるの?」
「うん!あのね、昔パパの友達で会社の社長さんしてる人が近所に住んでて、そこのお兄ちゃんと仲良しだったの!。幼なじみってやつね。私立の中学に行くまでよく遊んでくれて、そう!海で溺れた時に助けてくれた!。テスト明けの週末にその社長さんのクルーザーに乗せてもらうの!」
「へぇ、その人も来るの?」
「うん!大好きだったんだ!やっと久しぶりに会えるの!。昔からかっこ良かったけどきっともっとかっこ良くなってると思うな♪楽しみ♪」
「じゃあテスト頑張らなきゃね♪」
ペンやら模擬テスト集やらを片付けながら私が言うとうん!と真夏ちゃんはまた大きく頷いた。真夏ちゃんは一言で言うならまっすぐな子だ。素直で、見せる表情の大半が笑みで。迷いなく降り注ぐ真夏の太陽を見上げて育つタンポポのよう‥‥。
だからって真夏ちゃんといると光太郎を思い出すってのは言い訳よね‥‥。光太郎って普段無愛想だし。
「じゃあ今度の授業は来週ね。テストの邪魔にならないように♪。おやすみ、真夏ちゃん」
「ああ!!待って待って!ホタルちゃん!。明日空いてない?」
「?、空いてるけどどうして?。明日は従兄のお兄さんが理数を見てくれるんでしょ?」
「それが実は‥‥昨日喧嘩しちゃって‥‥。例の幼なじみのお兄ちゃんの件話したら行くなって怒っちゃって。あんまり一方的に怒るから私もつい勢いで授業キャンセルしちゃったの。でも明後日の一時限数学あたるから心配で‥‥」
「‥‥だめぇ〜!!私数学だけは駄目!!。人に教えるどころか自分でもついていけないのよ!。それだけは見れない!」
「じゃあ理数強い人、他に連れて来てくれてもいいから!。もちろんその分の授業料は払います!。ね?ホタルちゃん。ほんっとーにお願いします!」
真夏ちゃんに此処まで頼み込まれると弱い私なのです‥‥。でも理数に強い人捕まえる自信ないし、その前に私の周りにいたかしら?なんて不安な事を‥‥。そういえば飛鳥さんは確か理数系の大学に通ってたはず‥‥。かといって飛鳥さんには頼めない‥‥。この前お夕飯ご馳走になっちゃったし、何かと忙しい人だし‥‥。
「駄目、かな‥‥」
「う〜ん‥‥。何とか頑張ってみる‥‥。無理だったらごめんね?」
「うん!ありがとう!」
どうも真夏ちゃんにありがとうと言われるともう決定してしまった事のように思える‥‥。これは頑張らなきゃだけど、心配だわ‥‥。
翌日、私の不安はやはり的中なのでした‥‥。思い当たる友人は家庭教師なんて‥‥と逃げ回るか彼氏とデート、の二つに一つ‥‥。半(?)片思い中の私としては余計に気が滅入ると同時に‥‥。
「あ〜どうしよう〜。ごめん真夏ちゃん‥‥役に立てそうにないよぉ」
「‥‥何一人で滅入ってんだ?ホタル」
「え?」
「今日暇なら一緒に帰ろうぜ。ゲーセン行くから付き合えよ」
「‥‥光太郎!!」
そうだ♪光太郎だ♪。柄は悪いけど光太郎頭いいんだよね♪。おまけに理数系だしなんだかんだ文句言いながら色々と手伝ってくれるし。
「お願い!光太郎!今日私に付き合って!」
「あん?。だから言ってんじゃん、俺に付き合えって。何だ?今日は積極的だな、ホタル。ついでに夕飯どっかで食ってこうぜ」
「ほんとに悪いけど私に!付き合って。家庭教師のアルバイト!理数教えられる人捜してるの!」
「はっ?‥‥。悪いけどパス。他あたってくれ」
「他がいないから頼んでるんでしょ〜!」
逃げようとする光太郎の腕をがしっと掴むと光太郎は嫌々こっちを振り返った。でも力づくで女の子を振りほどこうとしないあたり光太郎はお人好しだ。
「何でよりによって俺がかてきょーなんだよ」
「私が教えてる子、明日テストなの。おまけに受験生!。理数教えてくれてる先生と喧嘩しちゃって代理頼まれちゃって」
「‥‥いーじゃねぇかよ喧嘩した方が悪いんだろ?。ほっとけほっとけ。教えてもらいたきゃ自分で謝れっての」
「お願ーい!光太郎。引き受けてくれたらなんでもする!」
「何でも?」
うん!と頷くと光太郎はすっと顔を近付けてじゃあ、と悪戯っぽく笑う。思わずドキッとする私に気付いてか気付かずかその笑みは意地悪な物に変わった。
「今日の夕飯お前のおごりな。バイト料もらってんだろ?」
「(‥‥なんて安上がりなの‥‥それでいいの?‥‥)うん、ありがと!光太郎」
光太郎が家庭教師なんて私の方にもそれなりに不安があったのだけれど、紹介すると、ただでさえ人懐っこい真夏ちゃんはかなりの好印象を持ってくれたようだ。「かっこいいね♪ホタルちゃんの彼氏?」などと小声で囁く真夏ちゃんを一括して勉強を始めたのも‥‥束の間‥‥。
「ふぇーん!光兄の教え方分かんないよぉ!」
開始から十分にして早々に真夏ちゃんはさじを投げ出したのだった‥‥。確かに、普段教えてもらっている私も日頃から感じていたのだが光太郎のはそう‥‥分かる人に説明するやり方なのだ。根本が分からない私達には分かりにくい事この上なく‥‥。
「だぁー!文句言うなら帰るぞ!マジで!」
「やー!今帰ったら一生恨んでやるんだから!!」
「じゃあどうしろっつーんだよ!。理数のかてきょーに謝って来てもらえ!!」
「ダメ!この喧嘩は絶対譲れないの!。向こうが謝るまで絶っ対!許さないんだから!」
そう言う真夏ちゃんの目は珍しく真剣だった。彼女が怒っている所を、今まで私は見た事がない。彼女は怒ると言うより拗ねた振りをして相手を折るのが得意だから。だから、こんな表情の真夏ちゃんを見るのは初めて‥‥。私が戸惑って視線を上げると光太郎も困ったように私を見ている。すかさず私は手を合わせ、お願い!のポーズ。
「‥‥分かったよ、ったく。じゃあテストが終わったら遊びに連れてってやるから我慢しろや」
「ほんと!?。何処何処?〜。何処連れてってくれるの?」
「ただのゲーセン。ってーかほんとは今日行きたかっただけ」
「ちぇ〜、やっぱり高校生に多くを期待しちゃいけないか〜。でもいいや♪最近行ってないし♪。ホタルちゃんと三人でプリクラ撮ろうね♪」
「撮りたきゃ勉強しろ」
「頑張ってね!真夏ちゃん。まずね、分かんないー!じゃなくて何処が分かんないのか言ってみて。光太郎は根本的に分かってる物だと思ってるから、自分は此処が分かんないのって言わないと」
そうして三人四脚のテスト勉強は夜の十時にまで及んだ。さすがに私達二人を心配した真夏ちゃんのご両親に中断されたのだ。夕飯は真夏ちゃんの家でご馳走になってしまったので光太郎との約束はなし。なのに光太郎には家まで送って貰っちゃって本当に何か後でお礼しなければ‥‥。
「ありがと、ごめんね、こんな時間まで。明日も学校あるのに」
「適当にフケるからOK。ノートよろしく」
「光太郎!!」
「嘘嘘。ちゃんと出るよ。まぁ、俺も結構楽しかったし、気にすんなよ。後は真夏次第だな」
「合格点行くといいけど」
「ったりめーだ。俺に教えさせといて赤点なんか取ってみろ!殴るぞ?。‥‥じゃあな、おやすみ、ホタル」
うん、と頷いて私は光太郎を見送った。その背中が消えるまで待つにはだいぶ冷えた空気が辛いけど、今日の感謝を込めて見守った。光太郎はそんな私を知ってか知らずか一度も振り返らなかったけれど。
『はい!チーズ!!』
合成音に合わせて私はめいっぱいの笑みを画面に向けた。斜め下にある真夏ちゃんのふわふわした髪が頬に当たってくすぐったい。そのすぐ脇には光太郎の手が見えた。画面を見るとその手はやはり真夏ちゃんの頭の上。私よりも頭半分小さい真夏ちゃんの顔はテストが終わった解放感からかそれともテストの出来にからか、はちきれそうな笑み。光太郎はその頭一つ半、上の無愛想な顔に逆手でピースを作っていた。フラッシュが消え、決定ボタンを押すと三人は再び動き始める。
「撮れた撮れた♪」
「改めて並んでみると、真夏ってちびだな」
「むっ!ちびって言うなぁ!!。ちっちゃくて可愛いというべきよ!そこは」
「小さいイコール可愛いとは限んねぇだろ?ちび」
「やめなよ、光太郎ってば。相変わらず素直じゃないんだから、真夏ちゃんは本当、小さくて可愛いわよ。私も中途半端な身長で止まるくらいなら真夏ちゃんくらい小さかったら良かった」
「ホタルちゃんも可愛いよ♪。ホタルちゃん大好き!」
そう言って真夏ちゃんは私の首に手を回して抱きつく。またふわふわの髪にくすぐられたせいか私の心の中までくすぐったくなる。
真夏ちゃんてこういう子供みたいに純粋なとこがまた可愛いのよね‥‥。素直なままって言うか、うらやましい‥‥。
「ほれ、出来たぞ。いつまで女同士でひっついてるんだよ」
「あっ!光兄ってば焼餅?。でもホタルちゃんは私のだもーん。あげない!」
「いらねーよちび、ほら」
「わーい!良く撮れてる〜♪。にしても私ってばお邪魔虫みたい♪。ね?ホタルちゃん、光兄」
真夏ちゃんの笑みに私は首を傾げて真夏ちゃんの手の中を覗く。プリクラに映っている真夏ちゃんを除くと‥‥狭い画面に結構無理して詰まった私と光太郎は思いのほか至近距離‥‥。
「ま‥‥真夏ちゃん!!。光太郎とはそんなんなじゃないったら!!」
「はーいはい♪。ホタルちゃんは私のだもんね〜♪」
「‥‥もう一枚撮んねぇ?ホタル、真夏」
「うん!もちろん撮る撮る!」
「もう!さっきみたいのは言いっこなしよ?」
再び私達は真夏ちゃんを挟んで画面の前に取った。今度はからかわれないよう光太郎とは距離を置く。途中ハートの背景ね!三角関係だから♪とか言いながら真夏ちゃんが大きなハートの背景を選ぼうとするので妨害しようとしたけど真夏ちゃんが決定ボタンを押す方が早くて失敗‥‥。
三角関係というか一方通行というか‥‥。真夏ちゃんがいなかったら、光太郎とプリクラ撮る事もなかったかな‥‥。
「ホタルちゃん笑って!」
「あっ‥‥ごめんごめん」
『ハイ』
「った!!」
突然真夏ちゃんの悲鳴が上がると頬に触れていた髪が消える。その髪を探すと光太郎の片手が真夏ちゃんの頭を画面の外に追い出していた。
「光太郎??」
『チー‥‥』
「!」
光太郎のもう片方の手が私の顎を掴む。え?と言う声は顎を持ち上げられたせいで語尾が掠れてしまう。
『ズ!』
光太郎の口で唇が塞がれると横顔に眩しいほどフラッシュが照り付けた。私が呆気にとられていると光太郎はすかさず決定ボタンを押してしまう。
「ん〜♪結構良く撮れんだな♪」
「ったーい!何するのぉ光兄」
「こ‥‥ここ‥‥光太郎!!」
「かてきょーなんて慣れないバイトやらされたってのに報酬 まだだったろ?♪。夕飯は結局真夏んちで食っちまったし」(
――それに今度は「俺から」の約束だろ?――
耳元で囁かれた言葉に私は真っ赤になって言い訳、というか言葉にならない音を発する。その様子にか光太郎はくすっと意地悪く笑った気がした。
「ありがたく頂いとくぜ♪ホタル」
「ねぇ何したの?。あ、証拠写真見ちゃえ!」
プリント終了したプリクラをさっと掠め取り、すかさず終了ボタンを押すと光太郎は出来上がったプリクラを高く掲げる。身長が足りない真夏ちゃんは光太郎の腕を掴んで手繰り寄せようとするがまったくもって無理。
「見せてよー、見せて!」
「ダメ!絶対ダメよ!!。真夏ちゃん!」
「お子ちゃまには刺激が強すぎて見せらんねぇよ」
「やー!ちょっと何それ!私のホタルちゃんに何したの!?」
「大人のヒ・ミ・ツ♪。お子ちゃま帰したらやるからな♪ホタル」
「もう!いらないよ!そんなの!!」
じゃあ財布の中に入れて残りは部屋に‥‥と本気で言う光太郎の頬を一発殴るが彼には反省の色なし。おまけにまた顔を近付けて来たので私ははっと身構えた。
「これから先も、よろしくな?ホタル♪」
「!」
「ちょっと何!?なんでホタルちゃん赤くなってるのよ!光兄ってば!!」
太陽は気まぐれに向日葵に笑みを向け、追いかける頭を撫で、その下で咲くタンポポにちょっかいを出したりしながらまだ何処かに行ってしまう。そんな気まぐれ太陽でも、向日葵はまた必死に追いかけてしまうのです。それが太陽と向日葵の、永遠に曲げられない関係だから。いつか、太陽の心が完全に向日葵だけに降り注ぐまで‥‥。
☆えあのコメント☆
このお話は 「Present To 来々サマ♪ For♪ 4000HIT♪」ってことで♪。私めのホームページのカウンタで見事4000人目の足跡を残された来々さんに捧げます♪。えあが登場人物の一人称で語る小説は絶えて久しいのでなかなかレア物ですぞ?(笑)実はもう一つHIT記念ため込み中ですが(爆っ)そちらの方が先だったりしますが次のCD−ROM企画では必ず!(とこの必ずを何度繰り返したことか‥‥(苦笑))途中あれ?この話もしかして続き物?と思われた方、我がHPでこれの前になるお話、「お日サマと向日葵さんと女神様と♪」をゲットしてください‥‥(爆っ)
これはえあがたつみんとともに参加した冬コミで発売されたコピー本「人魚姫は真珠の涙を流さない」の中にも入っておりまする。人魚姫の方もこれと続いておりますがHPでの公開は永遠にありません(爆笑)来々さんには郵送で差し上げましたわ♪。お気になされた方はついでに我がHPへどうぞ♪♪。