こんこん、とノックの音がして、ついでリルスを呼ぶ声。談笑していたリルスはぱっと顔を上げて立ちあがり、逆にブランカは顔をそらしてシアルにしがみついた。
「あれ? 早速決心揺らいじゃってるの? ブランカったら♪」
「リ、リルス様ぁ‥‥」
「‥‥(相変わらずだなぁ‥‥って小一刻くらいで変わったらそれはそれで怖いんだけど)」
リルスの頭越しに見えるブランカはこちらに背を向けて小さくなっている。どうしたの?カイラ、と妹が見上げているのに気付いてああ、とカイラは視線を戻す。
「シアル、ちょっと庭まで出て来てくれないかな」
「え?私? どうして?」
「庭に出てから話すよ」
「きゃー! 愛の告白?♪。な〜んてね♪。うん、いいわよ、ちょっと外すわね」
「‥‥(微妙に鋭い‥‥)」
動揺するブランカと『がんばってね♪カイラ』と茶化すリルスを置いて二人は部屋を後にした。がんばるのはむしろシアルなんだけどね〜と胸中で呟きながらカイラはまだ花芽のないバラ園に入り、目的の人物を捜す。結局中途半端に計画を聞いて出てきたのでソールが何処にいるのか分からない。
「ねぇ、ところで用って何?カイラ」
「ん〜、私も『お遣い』だから詳しい事はなんとも‥‥あっ」
「え? 何々!?」
「シアル、池の傍まで行って。そうしたら分かるから。何か嫌な事があったら思いっきり叫べば私か父上が駆けつけるから、多分」
「嫌な事って何‥‥? しかもカイラはともかくラング王って?」
「じゃあがんばって!」
言い残してカイラはさっさと駆け出した。怪しい‥‥とその背中を見送ったシアルだが、まぁいっか♪と無用心に池に近付く。その傍にいくつか、手入れされた大きな木が生えている。その間を通り抜けようとするとシアル、と不意打ちで名を呼ばれた。
「へ?‥‥。嘘!? 何それ!?」
「何気に失礼な反応だな‥‥。迎えに来ると、言ったはずだが?」
片手を掬い上げ、ソールは悪戯っぽく笑いながらその手に唇を付けた。一週間前に嵌めた指輪はない。代わりに銀製のアンクレットが元の位置に戻っているのに気付いてソールは笑みを柔らかな物に変えた。
「だからってどうしてこんな微妙に告白らしいシュチェーションなの?‥‥。そう言えばキザったらしいとこあるわよね‥‥尊公って。ひょっとしてロマンティスト?」
「ええい‥‥それについては面倒だから突っ込むな‥‥。毒舌振りまで復活してやがるし‥‥。もういい、嫁に来いっ! 嫌でも連れてくっ! いいな!?」
「うわっ! 告白までやけになってるしっ!そんなプロポーズ一生覚えてるなんていやっ! 大体‥‥すぐに来るのかと思えば一週間も待たせるしっ! ブランカが来たと思ったらコリーダに行くって言ってたからまだ大丈夫だと思って安心して‥‥。心の準備って物が出来てないのよ!?」
「仕方ないだろ、風邪で倒れてたんだ‥‥。存外侮れないものだな、アレは。それにコリーダには今から行く、別に嘘はついてない」
「うっ‥‥。だから性格悪いって言うのよー!! その上カイラまで共犯とは‥‥。侮ったわ‥‥会った頃は人も騙せないようなおっとりお人好し王子様だったのに‥‥。あれは誰の影響なの‥‥?」
「それについては同感だ‥‥。カイラ王子にからかわれるなど一生の不覚‥‥」
言い争いの後、二人で同様に落ち込み、もうプロポーズだなんだの雰囲気ではなくなってきている。顔を見合わせ、どちらからでもなくぷっと噴出し、しばし二人は笑い声を上げた。そしてソールの方が表情を改め、それでも微笑を浮かべてシアルを見る。
「此処からはまじめに言う。俺の妃になる気はあるか? ‥‥正直、母上の時のような、もしかしたらそれ以上の苦を負う事になるかもしれない。それは‥‥俺は望まない。俺の傍にいて欲しいと思う以上に、お前の幸せの方が大事だ。だから‥‥もしも嫌ならばこの手を弾いてくれ」
「待った! 待ったよ!とりあえず返事保留! ‥‥もう、いつも自分だけ言いたい事だけ言うんだから‥‥」
「‥‥。そうか? お前も結構言いたい放題返してくるぞ?」
「だぁー!! ちょっと黙って聞きなさい! ‥‥ちょっと待ってね‥‥」
すーっと深呼吸してシアルは言わなければいけない事を思い返す。言おうと決めていた事。思ったより早くその時が来てしまったけれど、大丈夫、言える‥‥。
「忘れてて、ごめんなさい‥‥尊公の事‥‥」
「! ‥‥別に、それは気にしてない。主犯はお前じゃな‥‥」
「黙って最後まで聞く! でも、私の事覚えててくれて嬉しかったの。約束も、全部‥‥。それに‥‥好きだって言ってくれた事も、ありがとう‥‥」
「‥‥」
「それから、私も尊公が好きっ! ずっと、ずーっと大好きだったの! 今も、変わらない‥‥。だから、がんばっていい王妃に‥‥なるね‥‥」
尻つぼみになっていくシアルの声は最後まで聞こえていたかどうかは分からない。けれど、呆然と聞いていたソールの顔にさっと赤みが差す。初めて見る表情にシアルはきょとん、とするがさっと片手が口元を覆い、表情は遮られてしまった。
「‥‥。自分が言ってるのは平気なのに‥‥人に言われると照れるな‥‥」
「! ふふ‥‥いつも言われっぱなしの私の気持ち、少しは分かった?」
「性には合わんな。だから、これからは反撃の暇を与えず言い続けてやる。この指輪は、受け取ってもらえる、という事だな?」
シアルが頬を赤くして微かに頷くとソールはシアルの手を取り、持っていた指輪――シアルの髪に栄える、紅いルビーの指輪だ――を指に通していく。中程まで通った所で待って! とシアルは声を上げた。
「約束‥‥して‥‥」
「どんな?」
「なんでもいい。でも、叶えるのに一生かかる、約束‥‥」
「では‥‥お前を一生守り続けると誓おう、どんな物からも、どんな困難からも。それから‥‥」
「? それから?」
「お前を一生一人にしないと誓う。俺が先に去ったとしても、俺達の血を引く者がお前の周りに残るように。お前が失った者以上に、お前に『家族』を残すと約束するよ」
すっと今度は抵抗なく指輪が通る。その手をそのまま持ち上げ、軽く口付けながら、シアルの真っ赤になった顔を見下ろして、笑う‥‥。
おまけのあとぐぁき
‥‥微妙に本編の方が多いですが‥‥おまけなのに本編並‥‥。なにゆえ?
カ「どうでもいいけど‥‥二人とも人の事好き放題言って‥‥。私は騙してないし、からかってもいないよ‥‥」
ソ「はっはっはー! そうご立腹するな、カイラ王子♪」
ご機嫌だから他どうでもいいんすね?ソール陛下‥‥。ちなみにこの後ソール陛下はカイラを拉致ってコリーダまでお供させてコリーダ王の聞き役を分散させて翌日くらいにカイラと引き換えにシアル拉致って婚約発表です。いえい!
ソ「いえい♪。いやーコリーダ王も若者相手に話が出来てさぞ喜んでくださるだろうなぁ♪。なんてステキ手土産♪」
カ「ええー!? いつの間にそんな話に!? 大体いきなり私が行ったら不審がる‥‥」
お見舞いに来てくれた設定だから大丈夫!(ぐっ!)
カ「ぐっ! じゃなくて!!」
ソ「持つべき者は友だなぁ♪カイラ王子。あのじいさん話長くて苦手なんだよ」
カ「私だって苦手ですよっ!!」
シ「ちなみに‥‥『約束』の話だけどあの人は何でか知らないけど私より先に死なない気がするんだけど‥‥。年上だし、男の人の方が寿命短いのに何でかしら? しぶとそうな気がするわ」
そうだねぇ、死ななそー♪。でも未来の夫にしぶとそーはないんじゃない?シアルちゃん(笑)
?「大丈夫♪おじい様はちゃんとおばあ様より先に亡くなったわ♪、二、三年だけど。それに年を取っても二人は変わらずラブラブ♪♪」
カ・ソ・シ『!!??』
あれぇ? 出張して来たの?♪。
?「ええ♪だっておじい様とおばあ様のプロポーズシーンだもの♪。うふふっいい物見たわ♪。じゃあね♪おじい様、おばあ様、ごきげんよう」
シ「‥‥いやぁ!! 自分よりも年上そうな――しかも美女!――におばあ様って言われたー!!(号泣)」
ソ「誰だか知らんが美人だった、うん(喜♪)」
カ「誰かに似てた気がするけど、気のせい?」
ちなみに「颯爽と中に入って来たのは細身のドレスに魅惑的な肢体を詰め込んだ女性」「まぁね♪と女性は長い黒髪を揺らして応えた。その琥珀の瞳のウィンクで何人の男が落ちるか‥‥」って感じの美人です♪(抜粋)自慢の娘だ‥‥(笑)彼女の出てくる話はかみんぐすーん??って事で♪。ではぷろみす、終わりまーす。
おまけなおまけ。
ブランカの髪を切るために起こった一騒動。大臣達のために何とか身代わり作戦を考えたジェヴル氏。
「しかし陛下と同じ髪が‥‥。陛下の髪は短いし、王母に髪を頂く訳には‥‥。仕方ない‥‥」
というわけでブランカお呼び出し。
「すまない!ブランカ、髪を切ってくれないか?」
「はい」
何も聞かずに即答。元から髪に関心なし。母に言われて伸ばしてただけ。
「半分近く切る事になるが‥‥本当にかまわないか?」
「は‥‥」
「まったーーー!!」
突然の乱入&ブランカ拉致っ! 犯人は兄馬鹿ソールかと思いきや、叔父馬鹿のグリーグでした♪。
「ひどいです!兄上! 髪は女の命というではありませんか! その髪を!しかも可愛い娘の髪を切るなんてっ!!(←取り乱し)」
「いや、私も好きでこんな事を頼んでいるわけでは‥‥。陛下のためにだな‥‥」
「こうなったらもっと強力な味方をっ! 王母様!!」
「待てっ! 話を聞け! グリーグ!!」
暴走するグリーグ、そしてそのまま王母の自室に移動。
「王母様! 聞いて下さい! 兄上がブランカの髪を切ろうとしてるんですよ!許せませんよねっ!!」
「あら、どうして? もったいない‥‥。側役や宮廷魔術師の仕事には支障がないように結っているけれど、やっぱり邪魔かしら?」
「いえ、そういう事ではなくてですね‥‥」
「やっぱり長い方が可愛いわ、ねぇブランカ♪」
「そーですよね!そうですともっ!(←我が意得たり)」
「だから‥‥話を聞けと言うに、グリーグ‥‥(ぐったり)」
当のブランカはどうでもいいにも関わらず、暴走する弟と事情を知らない王妃の説得に当たる事一時間、ようやく鬘用の髪をゲットできた哀れなジェヴル氏でした♪。
んじゃ、ほんとにほんとにぷろみす終わり♪
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