出会いと別れのループ

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 彼が産まれた場所は古代ローマの都市だった。名前は勿論今と違い、両親も兄弟もいた。彼は魔法薬学を研究した医者だった。すべての病める人を救いたいという願いから、ある時彼は1つの薬を作った。丁度その頃不治の病を患っていた彼は、自らが実験台となってその薬を飲んだ。薬は効いた。彼の病気は癒え、そして、彼は年をとらなくなった。どんな新種の病も受け付けず、どんなに血を流しても死ぬことはなかった。そう、あの魔法使いの禁じ手である死の魔法でさえ、彼の命を奪うことはなかった。それからずっと、朽ちぬ体に彼は留まり続けていた。

 彼は薬の全てを葬り、闇の世界で永遠に生きることとなったのだ。その薬は、人の手にしてはいけない物だった。

 名前を変え、身分を変え、時にはマグルとして世界中の街を旅した。この世界に彼の居場所はなかった。何故なら彼には終わりがないからだ。寿命の長い魔法使いであっても、いつかは棺に横たわる時が来る。彼は静かにいつくるか分からないその時を待っていた。

 彼の秘密を知っていて、今生きているのはアルバス・ダンブルドアだけだ。彼は2年間だけ、アルバスに魔法学校で変身術を教えていたことがあった。今と全く変わらぬ姿で。そのアルバスから手紙を受け取り、彼は急遽チリからイギリスへと飛んだ。久方ぶりに訪れたホグワーツは、建設当時と同じ姿で彼を迎えてくれた。彼はホグワーツの秘密の抜け道を全て知っていたが、1つの抜け道の上に珍しい植物が植わっていることに気付いた。暴れ柳だ。学校に置くには少し乱暴な木だが、何か植えなければいけない理由があったのだろうか。

 彼は我が家のように迷いもなく城の中を進んだ。教師達は研究室へ閉じこもっているのかそれとも帰省しているのか、誰も出てこなかった。彼がある扉の前で立ち止まると、甲高い鳥の鳴き声が中から聞こえた。しばらく待っていると扉が自動的に開かれた。中には長く白い髭を生やした1人の老人が立っていた。その瞳はきらきらと輝き、それは昔と何ら変わってはいなかった。

「久しぶりだ。君がホグワーツの校長に就任した祝いに立ち寄った時から、何年過ぎただろうね。アルバス、私を呼んだわけを教えてくれるね」

 この学校の校長であるアルバス・ダンブルドアは、彼に近づいて背に腕を回した。彼も年をとってもなお精力的な男の背に腕を回す。そして中に入ると、後ろで扉は自然と閉じられた。

「グリス先生。本当に何年ぶりか……。年をとると時の間隔――感覚――が曖昧になるようですな。よく来てくださった。お座り下さい」

 アルバスは椅子を取り出すと彼に勧めた。彼が座ると、向かいにアルバスも腰を下ろした。

「本当に、ここはいつ来ても懐かしい」

 彼はアルバスの部屋から外を眺めた。彼はここから眺める雪景色が好きだったが、まだ新入生を迎える前のホグワーツには雪の白は見られなかった。

「手紙はどこで受け取られたのですか」
「あぁ、チリの山の中だったよ。フォークスも遠いお使いだった」

 自分の名前が呼ばれたことに気付いたのか、不死鳥のフォークスは彼の方に顔を向けた。フォークスはある意味彼に一番近い生き物だった。しかしやはり違う。フォークスは終わりを知っている。彼はフォークスとしばらく視線を合わせて、言葉にならない会話を交わした。アルバスは会話の終わるのをじっと待っていた。そしてフォークスが視線を逸らすと、会話が終わったと判断して彼に再び話しかけた。

「ここへ戻られて、お気付きになられましたか」

 彼はその言葉に顔をしかめた。

「来る前から気付いていたよ。リドル……あの子も優秀な子だった。君の生徒だった子だ」

 直接会ったことはないが知っていた。アルバスは肩を落として答えた。

「そうです。それが今では戦わねばならぬ相手となりました。本当に、残念なことじゃ……」

 彼にはその気持ちが分かった。何より教師として、自分の教え子が敵に回るなど、全く悪夢と言っても良い事態だ。そして彼はかつて息子の同士であった男を思い出した。

 彼には良い親も、教師もいなかった。

それが彼の歪んだ思想を生んだものだと彼は信じていた。だからこそ、リドル少年がホグワーツに入学した時、アルバスの指導を受けられることを喜んだのだ。しかし結果は今アルバスの告げた通りだ。アルバスに落ち度が全くなかったわけではないだろう。しかし彼は他に多くの生徒を抱える多忙な教師だったのだ。リドル少年のみに構ってはいられなかった。そしてまた、子どもは教師のみの指導を得て人格を形成するわけではない。むしろもっと重要なのは親の方だ。

 もし私が、あの子をゴドリックのように拾って育てていたら。
 すべては変わっていただろうか。

 彼は無意識のうちに首を横に振って、その考えを否定した。

 私は神ではない。
 例えリドルを救うことができたとしても、
 他にリドルの歩んだ道を歩む子どもが必ず生まれる。

ゴドリックを救ったとき、サラザールを救えなかったように。彼は知っている。闇を消すことはできない。どんなに広く、深い愛情をもってしても。それが人という生物なのだ。そして、それは決して悲しいことばかりを生むわけではない。

「君は先のことを見ている。君はヴォルデモート卿との戦いに決着をつける人物とはならないだろう」

 彼の言葉に、アルバスは悲しそうに目を伏せて答えた。

「さよう。私はもう年寄りで、棺桶に足を片方つっこんでおるのです」

 本当は自分の手で決着をつけたかったはずだ。彼にもその気持ちは良く分かった。彼は肩を落とす老人に向かって元気付けるように微笑んだ。

「君はまだ生きるよ。素敵な年のとり方をした。この学校の生徒は幸せだ」

 アルバスは彼の言葉に答えるように笑った。

「新入生を迎える準備と、新しい教師を1人入れなければならぬのです。闇の魔法に対する防衛術の教師が、リドルの元へ去りました」

 フォークスから連絡を受けたときから、何となく予想していたことだった。

「私に、またここで教えろと言うのかい?」

 アルバスは黙って頷いた。

「人狼の少年を迎えることにしました。よく育って欲しいのです。特にその少年と、ポッターとブラックの跡取りには」

 彼の胸が少し痛んだ。ポッターとブラック。未だに残る、ゴドリックの血。それは喜ばしいことだ。しかしその血が、少年達を縛り付けているなんて。

「君がそんなことを言うとは思わなかったね。『特に』だなんて。生徒は皆同じだよ。血で格付けしてはいけない」

 彼は少し咎めるような調子を含めて応えた。ゴドリックの血。そして人狼の血。マグルの世界で言うのなら、優れた遺伝子と異常な遺伝子だろうか。

「ごもっとも。しかし彼らには尊公の力が必要なのです」

 彼とアルバスはしばらくの間黙って見詰め合った。アルバスの瞳はやはりきらきらと輝いていて、ある決意を瞳の中に秘めていた。やがて彼は根負けしてアルバスから視線をはずした。

「2年だけ引き受けよう。私は私自身の心の制約によって、3年以上同じ場所に留まることはできない。それは分かるね」

 アルバスは黙って頷いた。右の手で長い髭をゆっくりと撫でている。

「それと、これだけは言わせて欲しい。彼らに誰かが必要であると言うならば、それは君だ。この役目は本来、決して私のするべきことではない」

 彼の言葉に、一瞬だけアルバスの瞳の中にある決意が揺らいだように見えた。

「重々、承知しております」

 仰々しく言って、アルバスは頭を深く下げた。彼は立ち上がってアルバスに歩み寄ると、三角帽子を被っていないアルバスの白い髪の毛に手を置いた。

「君の体が心配だから引き受けたのだ。良いね、アルバス。決して無理をしてはいけないよ。無茶もだ。学生時代、君は本当にやんちゃで、私を困らせたものだった」

 アルバスは苦笑して答えた。

 こうして彼は再びホグワーツで働くことになった。その間、アルバスは魔法省や他の優秀な魔法使い達と協力して精力的に活動し、その結果ホグワーツを空けることが多くなった。彼は何も言わずにホグワーツを守った。アルバスもまた彼の生徒で、今回は黙って好きにさせてやることがアルバスへの教育だったからだ。


 約束の2年が過ぎようとしていた。彼がここを去るべき時まで、あと1ヶ月だ。彼はその日禁じられた森へ散歩に出ていた。以前長くここに住んでいたことがあったので、彼はこの森を知り尽くしていた。古い友もいる。そして危険な森の中に、美しく平和な場所があることも知っていた。それは小さな池だった。清浄な水の湧き出るそこは、珍しい草花が育つ秘密の園だった。彼はそこで一休みしようと池を目指して歩いていた。彼は何の目印がなくても、この昼間でも薄暗い森で迷うことはなかった。

 やがて池に辿り着くと、小さく白い花の咲く池のほとりに先客がいることに気付いた。少しずつ伸びて大きくなりだした体を草の上に横たえて、ローブを傍らに置いて眠っているのはジェームズだった。なるほど、陽の光を浴びて心地よさそうにしている。彼は邪魔になってはいけないと思い、こっそりジェームズの側へ行くと、ローブを体にかけてやろうとした。しかし敏感なジェームズは、風の流れに気付いて目を覚ましてしまった。

「先生!」

 ジェームズが飛び起きる。彼は苦笑してジェームズの隣に腰掛けた。ジェームズのローブは手に握られたままだ。

「起こしてしまったね。風邪をひいてはいけないと思ったのだが。君、授業ではなかったのかい?」

 彼は上半身を起こしたジェームズの肩にローブをかけてやる。ジェームズは益々おかしな風に寝癖のついた髪を掻きながら、まだ混乱している様子だった。

「いいえ、あの……この時間は元々休みで……。ここには、その……フィレンツェが、ここは安全だと言うので。それで、……すみません」

 禁じられた森には入っていけないことになっている。教師でさえ入らないこの領域に、正直人が来るとは思っていなかったのだろう。ジェームズは素直に頭を下げた。

「うん、まぁ、見逃してあげよう。確かにここは安全だ。ここまで来るのに危険はあるが」

 ジェームズはぽかんと口を開けている。どうやら流石のジェームズも寝起きは頭が回らないらしい。覚醒しているときには絶対口にしないであろう質問を投げかけてきた。

「先生は、見回りに?」
「いや、禁じられた森を見回っても仕方ない。ここは広いし、君みたいに入り込む生徒は滅多にいない。私は散歩だよ。フィレンツェに会うのも良いかと思ったが、どうやら遠くに居るようだ。今日は諦めよう」

「先生も、フィレンツェをご存知なのですか?」
「ケンタウロスに知り合いは多いよ。この森は私の庭のようなものだから」

 ジェームズは眼鏡の奥の瞳をまん丸にした。

「庭、ですか? 危険な場所なのに?」

 驚愕するジェームズに、彼は少し意地悪な質問をした。段々と覚醒し始めたジェームズにはさほど難しい問いではないだろうと判断してのことだ。

「危険であることを知っていて、君は何故ここに来た?」
「それは……多分、まだ一度も危険な目に遭っていないからではないでしょうか」

 悪戯をするときと同じ笑みでジェームズは答えた。いかにもジェームズらしい答えに、彼も微笑んだ。

「よく分かっているね。1つ昔話をしてあげよう。グリフィンドールがホグワーツを3人の仲間と作るとき、彼は建設場所について悩んでいた。いくつか候補地があって、ここは最も有力だったが、それでも彼にはここに建設することに戸惑いを持っていた。彼は1人の男に尋ねた。『学校を建設するのはどこが良いだろう』」

「その男とは、誰です?」
「グリフィンドールの信頼を得ていた男だよ。その男は答えた。『君はもう決めているのではないのか』と。グリフィンドールは返した。『この場所が良いと思っている。しかしここには危険な森がある。魔法で出入りを禁止したほうが良いだろうか。大人でも危険な場所に、生徒が自由に入れるようになっているのは良くないと思うのだ』」

 ジェームズは興味深そうに彼の話に聴き入っていた。

「男はなんと答えたのです?」

 彼は続けた。

「グリフィンドールにはまだ子どもがいなく、彼には子育ての経験がなかった。しかしその男は1人の男の子を育てた経験があった。男はこう答えたよ。『君は何が作りたいのだ? 子どもを育てるのに、安全で危険のない平和な場所へ閉じ込めて、一体子どもに何を教えたい? この世は安全で、常に平和であるということを教えたいのかい? そんな世に、学問は必要ない』と」

 男の言葉に賛同したのか何なのか、ジェームズはニッコリと笑った。

「その言葉で、グリフィンドールはこの森を残すことにしたのですね」
「いや、彼は分かっていたよ。危険が必要なことを。ただそれを、誰かに言ってもらいたかっただけだ。君が迷っているときに、シリウスに決断をしてもらいたいと思うのと同じだよ」

 ジェームズは不意を突かれたように一瞬目を見開いたが、やがて何度も頷いた。そして彼を見ると、何かを言おうとして口を開いたが何も言葉にしなかった。それが数回続いて、ようやくジェームズは遠慮がちに彼に質問した。

「先生。その男とは、先生のことですか?」

 どうして気付いたのだろうという思いはなかった。子どもの目は鋭い。そして彼自身、ジェームズ達に自分の闇を隠すつもりはなかった。

「……そうだ」
「ずっと、グリフィンドールが死んでからも生き続けているのですね?」

 その言葉に死の床に伏した最後のゴドリックの姿が浮かぶ。親に見取られ死を迎える気持ちとはどんなものだったのだろう。ふと彼の頭をそんな考えが過ぎった。それがどんなものであったにせよ、彼には決して味わうことのできない思いだった。

「そうだ。でもね、そうして生きているからこそ分かる。グリフィンドールは死んでいない」

 彼の言葉に、ジェームズは酷く傷ついた顔をした。

「シリウスの中に、グリフィンドールを?」

 どうやら彼の言葉を勘違いして受け取ってしまったようだ。彼は優しくジェームズの頭を撫でた。

「違うよ。ジェームズ、君が、そしてシリウスが何に縛られているのか私は知っている。しかし、私の考えはこうだ。受け継がれるのは、血ではなく意思だ。だからより多くの人に広がる」
「血ではなく、意思……」

 彼の言葉を呆然と繰り返して、ジェームズはその言葉の真の意味を探っていた。しばらく模索してもらいたい言葉だったので、彼はもう一度ジェームズの頭を撫でると立ち上がった。

「いつか分かる時がくるだろう。さて、私はもう少し散歩を続けるよ。君もまだ昼寝をしていたらいい。しかし暗くなる前には戻りなさい。本当に危険だからね」

 ジェームズは素直にはいと答えて、再び体を草の上に横たえた。その口は小さく彼の言葉を繰り返していて、もう他のことは目に入っていないようだった。彼は静かにその場を後にした。


 ジェームズと別れてしばらく奥へ進むと、彼はやがてホグワーツ城へ引き返した。これ以上奥へ進むと、今日中には戻れなくなるだろうと思ったからだ。高い木々の間を抜けて、来た道を引き返す。彼は途中で森に響く人の足音に気付いた。木霊して判り辛いが、こちらへ向かってきているようだ。

「あっ! グリス先生……」

 予想通り、足音の主はシリウスだった。授業中はきちんとした身なりのシリウスだが、どうやら授業中のみのものであるということが最近分かった。ローブは肩に引っ掛けているだけで、ネクタイは解かれて単に首に下がっている。罰の悪そうな顔をしているのは服装のことではなく、きっとジェームズと同じ理由なのだろう。

「おや、シリウス。もしかしてジェームズを捜しているのかい? 彼ならこの先の池にいたよ」

 魂の双子とでも言うべきか、ジェームズとシリウスは不思議と繋がっていた。今は相反する性質をその繋がりでもって共有しているが、これから2人の性質はそれぞれの中で混じりあって、2人は本当に同じ魂を持つようになるだろう。

「えっと……、先生は何を? 怒らないんですか?」
「うん、ジェームズも見逃したからね、君もそうしよう。私は散歩の途中だよ」

 彼の答えにやはりシリウスも目を丸くした。彼の立場から言えば、ジェームズもシリウスもここを散歩しているのと同じことだと思うのだが。

「見回りではなくて?」
「本当にジェームズと同じことを言うね。ここには監視できるような生き物はいない。見回っても仕方ないのだ」

 すぐに立ち去ると思ったシリウスは、立ち止まったまま首だけを池のほうへ向け、何やら戸惑っている様子を見せた。

「ジェームズは、昼寝を?」

 一体何を気にしているのだろうと考え、ふと浮かんだものを言葉にしてみた。

「そのようだ。別に1人でいたいと強く思っていたわけではなさそうだよ。もし君が、そのことを気にしているのなら」

 彼らは別に遠慮しているわけではない。ただ個々の人格を尊重しているだけだ。誰でも1人になりたい時がある。シリウスはジェームズの心を尊重して戸惑ったのだ。

「ありがとうございます」

 そこまで考え合える関係は、本当に素晴らしかった。

「暗くなる前に戻りなさい。と言っても、お腹が空けば戻るかな?」
「えぇ、多分」

 彼の言葉に安心したようで、シリウスはすぐに駆け出した。彼もシリウスが背を見せた後すぐに身を翻して、再びホグワーツ城への道を歩み始めた。

「……先生!」

 呼び声に立ち止まって振り返る。シリウスは一度池のほうへ向けた足を彼の方へ戻して駆け寄ってきた。

「どうした? シリウス」
「人狼と友人だったとジェームズにおっしゃいましたよね」

 真剣になると相手を詰問しているような響きになってしまうのはシリウスの性質なのだろう。彼はやんわりと答えた。

「あぁ、言った」
「先生は満月の時どう過ごしていたのですか? ずっと離れた場所で、その友人を待っていただけでしたか? 今の、僕らのように」

 彼は一瞬言葉に詰まった。答えて良いことなのだろうかとしばらく思案する。シリウスはその間じっと彼の顔を見て黙っていた。彼は正直に答えた。

「最初のうちはね」
「最初のうちだけですか?」

 ここでもう一度彼は戸惑う。しかしシリウスの視線は彼に誤魔化すという行為を許してはくれなかった。

「そうだ。やがて私は危険なく彼と一緒に居られる方法を見つけて、満月の時も彼と一緒に過ごすことができたよ」

 こう答えてしまえば、その次に来る言葉は想像できた。

「その方法を教えて下さい!」

 彼はシリウスの金色の瞳を見つめた。光の角度によってその輝きは激しく燃え上がる焔の色になった。その瞳は通常冷静で、時に情熱的なシリウスの性格をよく表していた。リーマスの静かな強さとはまた少し違った強さだ。

「残念だが……」

 彼の答えに、シリウスは本当に詰問する気で叫んだ。

「何故です? リーマスを1人で閉じ込めたくないんです。先生も、そう思ってくれていると思っていたのに」

 どうすれば上手く伝わるだろうと数秒で考え、彼はそれに答えた。きっとシリウスなら気付いてくれるだろう。この答えに隠された秘密に。

「思っているよ。しかし、今の私にはその方法を教えることはできないのだ。それは私が君達の教師であり、そして私の時とは時代が違うからだ。勿論、その方法が難しい魔法であることも関係しているよ。今の君達には無理だ」

 実際、彼の時とは時代が違いすぎた。その方法はまだ魔法省から規制されていなかったし、それよりも魔法省自体がまだ小さく、統率機能を持っていなかった時代のことだ。いつからだったか、その方法は魔法省が規制をするようになってしまった。この学校の教師として、違法行為をあからさまに教えることはできなかった。

 シリウスはしばらく唇を噛んで考え込んでいたが、彼の期待した通り先ほどの答えからヒントとなる部分を掴み取ってくれたようだった。

「……ありがとうございます!」

 彼はほっとした。シリウスに理解されずにこの学校を去ることは望んでいないことだったからだ。しかしリーマスのためとはいえ違法行為を教えて、それだけで去ることはできない。彼は付け加えて言った。

「一番良いのは、脱狼薬を完成させることだがね。それも気を長くして研究しなければいけないだろう。頑張りなさい。リーマスのために」
「はい!」

 今度こそシリウスは振り返らずに相棒の元へ駆けていった。彼もその背を見送ると、森を抜けるために歩き出した。

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