出会いと別れのループ
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ハグリットの小屋の脇を抜けて森を出た。暗い森では分からなかったが、やはりもう陽は傾きかけていた。彼はハグリットの小屋の前で落ち着きなくうろうろと歩き回っている少年を見つけた。ちょこちょことした特有の歩き方。少し背の低い、淡い金色の髪をした少年は彼を見つけるとぎょっとして飛び上がる。瞬間、顔が真っ赤になった。
「グリス先生!」
後ろに一歩引かれて、彼は苦笑した。まるで禁じられた森から出てきた獣に怯えているようではないか。そこまで凶悪な顔つきではないと思うのだが。
「ピーター、どうしたのだい? そんなに驚いて」
ピーターは益々顔を赤くして口をもごもごと動かした。視線がちらちらと足元と、森の奥とを移動する。
「……あぁ、彼らには会ったよ。夕食前には帰ってくるだろう。池に居るが、君も行くのかい?」
何気なく言ったつもりだった。ピーターはよく彼らの後について、嬉しそうに顔を綻ばせていたから。しかしピーターは、ばっと顔を上げて彼を見ると叫んだ。手は体の前できつく握られている。
「いいえ! 僕は……1人では怖いから」
今度は俯いて、目を伏せる。彼らに付いて行けないことを恥じているようだ。禁じられた森に入り込むことができない自分を嘆いている。しかし、ピーターは分かっているのだろうか。禁じられた森は、ここの校長が出入りを禁止している場所だ。入り込むのは勇気があるからではない。ただ無謀なだけだ。
「君は正しいよ、ピーター。危険の中にわざわざ入り込むことはない」
ピーターは彼が思った通り、勇気という言葉の意味を取り違えていた。
「僕には勇気がないんです。グリフィンドール生なのに……。彼らは本当に凄いんです。僕もあんな風になりたい」
彼はピーターに気付かれないように軽く息を吐いた。ピーターはまだ目が見えていない。ジェームズやシリウスを明らかに理想化して、美化している。理想像は、目標となりピーターを成長させるだろう。しかしジェームズ達の弱さを排除してしまう結果にならなければいいと思う。ピーターは自分に自信を持てない。それはピーターについて、本当に正当な評価をしてくれる人間がいないからであり、自身に対する認識が甘いからでもある。
「……なれるよ、ピーター。彼らも君も、本当は何も変わらない。君はもう少し胸を張っていい。君の書く星図はとても綺麗だと天文学の先生が褒めていらしたよ。手先が器用なんだね」
優しく言った彼に、ピーターは頬を桃色に染めた。先ほどはきつく握られていた両手も、今は緩く組まれ、指が無意味に動いていた。
「絵は好きです。あんまり役には立たないけれど」
この子はどうしても否定的になりがちだな、と彼は思った。あまり楽天的過ぎると困るが、必要以上に自分を貶めることもない。
「ピーター、役に立つか立たないかは君次第だよ。役立つ場所や時期は、向こうからやってこない。君が見つけるんだ。必ずあるよ、役に立つ場所も、時期も」
それを探し、確固たるものとすることこそが勇気だと彼は思う。ピーターは指を忙しなく動かしながら、上目がちに彼を覗き見た。
「……無駄じゃあないんですか?」
彼は微笑んで頷いた。
「あぁ、無駄ではない。君の能力の1つだろう?」
そんな言葉をかけられたことがなかったのだろう。ピーターは返事に戸惑いながら曖昧な表情で答えた。
「えっと……、はい」
彼の笑顔を見て、ピーターはゆっくりと顔に笑みを広げた。そして彼はここでジェームズ達を待つというピーターと別れてホグワーツ城へ入っていった。大人は様々なことを経験しているはずなのに、何故ああいった少年達にうまく言葉がかけられないのだろう。きっとそれは彼らが一度きりの貴重な経験を忘れてしまうからなのだろう。そして彼がこうしてピーターに声をかけることができたのは、彼が何回も同じような経験をしているからなのだろう。人は何度も同じような事を繰り返している。世代を超えて。だから争いが尽きない。1人の人間の死だけでは、何も変わらない。中国の方では“業”というのだったろうか。良い事も、悪い事も繰り返しこの世界を巡っているのだ。永遠を生きる彼も、その中で回っているにすぎない。これを断ち切ることなど――。
「先生……」
丁度図書館の前を通り過ぎようとしたとき、小さく声をかけられて彼は思考を中断された。声のした方向を見ると、分厚い本を抱えたリーマスが立っていた。何か困ったような顔をしているのは、彼の顔が厳しかったからだろうか。彼はすぐにリーマスに笑いかけた。
「やぁ、リーマス。ジェームズ達に会ったよ。君も行くのかな?」
どこで会ったのか、とはリーマスは訊かなかった。代わりに困ったような表情のまま微笑んで、手元の本を軽く上げて見せた。
「いいえ、僕は読みたい本があるので。あの……少しお話してもよろしいですか?」
「勿論だよ、リーマス」
ほっとしたように笑うリーマスの横顔。2人は並んで歩き始めた。彼の研究室と、グリフィンドール寮へ行く道は途中で分かれる。そこまでの間をゆっくりと歩きながら2人は話した。傾いた陽が、赤く燃え始めた。
「あれから、自分がどんなに狭い場所にいたのかようやく分かるようになりました。僕は何も知らなかった」
リーマスはぐんと成長した。しかし、見た目には逆に幼くなったような印象を受ける。それはリーマスに、子どもらしい時を味わう余裕ができたということだろうか。入学した当時の、老齢したような印象はもうない。痩せた体にも、少しずつ肉がついてきたようだ。精神的な重荷がいくらか解消された証だろう。
「君だけではない。ジェームズ達だってまだ何も知らないよ。私に言わせればね」
悪戯っぽく付け加えた彼の言葉に、リーマスは楽しそうに笑った。きっとこの瞬間に、リーマスは頭の中に友人達の顔を思い浮かべたことだろう。それだけでも、幸せなことではないだろうか。
「先生は、イギリスから出たことがありますか?」
リーマスの髪は夕日に彩られて真っ赤になっていた。薄い瞳の色でさえ、シリウスの瞳のように赤く燃えて見えた。
「そうだね。まだ行ったことがないのは南極くらいだろう。世界は広いよ。そして美しい。また出かけるのだ。次はアイルランドへ。君の故郷だね」
「え……、いつ? ここでずっと僕らを教えてくださるのだと思っていました」
「リーマス、私は君と同じ、闇の者だ。私は自身に制約を設けている。同じ土地に3年以上留まることはできないのだ。君達は成長する。しかし私はこのままだ。少なくとも見た目は。君達を側で見守りたいが、私の存在は今の魔法界にはよい要素ではない。何故か分かるね」
リーマスは慎重に言葉を選んでいた。リーマスは今までここで、自分の秘密を隠すことに必死だったためにあまり例の派閥についてよく知らない様子だった。それでもアルバスに敵対している者については知っているのだろう。彼を見上げて、小さな声で答えた。
「尊公の秘密を、自分のものにしたいと思う人がいるから……?」
ジェームズとシリウス以上に、リーマスは彼の闇に近づいていた。彼が不老不死の存在であるとはっきり分かっているわけではないのだろうが、それでも彼の秘密が重要であることを感じとっていたのだ。
「そうだ。それはもう出来ないことだが、そう言っても彼らは納得しないだろう。私はこの戦いに直接関わることはできない。私はこの世界の人間ではないからだ」
リーマスは悲しそうに目を伏せた。
「……もう、すぐに行かれてしまうのですね?」
突然立ち止まったリーマスに合わせて彼も立ち止まる。俯いたリーマスの頭に手を乗せ、彼は答えた。
「そう、皆には言わないで行くよ。新しい先生もすでにダンブルドアが決めている」
リーマスは寂しがっているように見えた。自分と同じ闇の存在――しかも自分よりずっと先輩なのだ――が離れてしまうことに不安を覚えている。そういう意味で言えば、彼とリーマスは仲間なのだから。
「何故僕には教えてくださったのですか?」
リーマスは顔を上げて彼に尋ねた。
「君の負担にならない程度に、ここでの出来事を手紙に書いて送って欲しいと思っているのだ。私は神ではないから、ここを離れてしまったら君達の様子を知ることはできなくなる。君の目で見たここでの出来事を、私に知らせてはくれないだろうか」
本当は最後の授業を終えてからリーマスに打ち明けるつもりだった。しかしこれで良いのだろう。リーマスは笑顔を取り戻して答えた。彼も嬉しくなるような答えを。
「僕は口下手だから、手紙ならきっと喋るよりも上手にお知らせできると思います。時々……、ご相談をしても構いませんか?」
彼はリーマスの前に片手を差し出した。
「勿論だよ。君と私は、この学校を離れたら友人だ。どんな些細なことも知らせておくれ」
リーマスは差し出された手を見つめていたが、やがて自分から手を伸ばして彼の手を握った。彼はリーマスの、初めての闇の友人となることができたのだ。それを、彼は誇りに思った。
すっかり話し込んで、彼が研究室へ戻る頃には日が沈みかけていた。彼が散歩に出たのは、今日が午前中にしか授業のない日であり、差し迫ったレポートの提出がなかったからだ。質問のために研究室を訪れる者もいないだろうと踏んでのことだったのだ。だから戻ってみて彼の研究室の前に生徒が立っていた時は本当に驚いたし、申し訳なく思った。
「セブルス。済まなかった、どのくらい待っていたのだい?」
待っていたのはスリザリン生のセブルス・スネイプだった。年頃の男の子としては少し痩せ気味で、血色がよくないということがあったが、勉強に関しては非常に熱心で、また優秀な生徒だった。学問に対する姿勢はリーマスと良く似ている。
「5分ほど。事前にお知らせしていなかったので、待つのは当然です」
セブルスは教師に遠慮して事実を曲げたりしない性格だったので、本当に待っていたのは5分程度だったのだろう。
「それでも済まなかった。普段はこの時間いるのだがね。君もそれを見越して来たのだろう? 入りなさい」
セブルスは少し戸惑ったが、手招きするとため息をついて中へ入った。彼の見るところ、セブルスは人との接触を嫌っていた。リーマスのように遠慮しているのではない。セブルスは自らの判断で、それを切り捨てているのだ。潔いのか排他的なのか、そういう意味ではシリウスに似ているのだろう。しかし彼は2人がどんなに犬猿の仲なのか良く知っていたので、それを口にしたことはなかった。
「失礼します」
彼は薄暗くなった研究室に明かりを点した。後ろで扉の閉まる音がしたので、彼は話を進めた。
「どうした? 授業のことかい?」
振り返ると、セブルスは扉の前に立ったままで、奥に入ってこようとはしなかった。
「いいえ、出されていたレポートを提出しようと思いまして」
確かにセブルスの手元には丸められた羊皮紙がある。彼は壁に掛けられている魔法製のカレンダーを見つめた。今日の日付には梟が止まっている。
「そうか、期限にはまだ間があるが?」
「はい。一度見ていただいて、直すべきところがあればご指摘願いたいと思って持ってきました」
いつもは授業の終わりに持ってくるので忘れていた。セブルスは毎回レポートを人より早く仕上げて、彼がチェックすることを望んだ。
「そうだったね。それでは座りなさい。これだね、人狼に関するレポートだ」
セブルスは出された椅子に座る前に、彼に羊皮紙を渡した。そして注意深く椅子に座る。悪戯でも仕掛けられていると思ったのだろうか。毎回あのようにジェームズ達にからかわれては、警戒するようになるのも当然かもしれない。
彼は羊皮紙を広げて几帳面に均一に並んだ文字を目で追った。数分が経つと彼は羊皮紙を再び丸めて顔を上げた。
「うん、よくまとめられているよ。特に直す必要はない。君は資料もよく集めているしね」
そうですか、とセブルスは言わなかった。むしろそれは当然だと思っているようだ。それではレポートを置いて退出するのかと思いきや、セブルスは珍しく椅子から立ち上がらす、何かを言おうとして口籠った。彼はセブルスが話し出すのを待った。やっと口を開いたセブルスはこう言った。
「ポッターやブラックと比べてはどうですか?」
鋭い目で彼を見ながら、セブルスは彼の反応を窺っていた。
「彼らはまだ上げていないから何とも言えないが、過去のものも考慮して、という意味かい?」
「そうです」
彼は考えた。普通なら、こういった問いには答えない。教師が生徒を比較するなど。そしてそれを特定の生徒の前で公言するなど。しかし彼は思い直した。きっとこの答えは、セブルスにとって必要なものだと思ったからだ。
「……そうだね。普通は解答しない質問だが、私の思っていることを言わせてもらおう。君は出した課題について既成の事実や学説を読み、理解してまとめる力を持っている。ジェームズやシリウスよりも的確にね。ただ私がそれに少し物足りなさを感じるのは、君自身の考えがレポートに含まれていないからだろう」
彼の答えに不満そうな顔をして、セブルスはすぐに反論した。
「まとめ上げた結果が、僕の意見です。そこから外れたものは、単なる夢でしかない」
彼はそれを否定したりはしなかった。それが今のセブルスの考えだ。彼はただそれを受け入れた。あくまで今の考えで、それが普遍ではないと彼は分かっていた。そして次の質問をする。
「君は人狼が迫害されているとは思わなかったかい?」
セブルスは恐ろしく短い時間で言葉を纏め上げて返答する。
「同じ権利を持つべき存在であればそう思ったでしょう。人狼は違う。権利を持つべき存在ではないのだから、今の奴らに対する扱いは正当なものであると考えます」
これについても彼はセブルスの答えを否定したりはしなかった。これは説教ではないからだ。彼はただ、セブルスの考えに触れたかった。そして話題をレポートから離れたものに変えた。
「『穢れた血』という言葉について、君はどう考える?」
セブルスは話題が変えられても、すぐに頭を切り替えて最初と同じように返答に時間をかけなかった。
「純血が理想であることは疑いようもありません。正統な血は受け継がれるべきだ。しかし実際はそうはいかない。マグル擁護連中が言うように、マグルと交わらなければ魔法使いは生き残れない。穢れた血と貶めることは、自分達を貶めることになりかねない。馬鹿みたいに穢れた血と呼ぶ連中とは、僕は違います」
彼は畳み掛けるようにセブルスに質問を与え続ける。セブルスは何故そんな質問をするのかという不満も口にせず、ただ彼の問いに答えた。
「なるほど、君は学問が好きかい?」
「必要だから学びます」
「何故必要なのだい?」
「学びは力になるからです。僕は上に行きたい」
「そうか。君は薬学が得意だったね、セブルス」
ここでようやくセブルスは眉を顰めた。何故この教師はこんな無意味な質問ばかりをするのだろうと思ったのかもしれない。
「えぇ」
彼はセブルスの反応には一切お構いなしに質問を続けた。
「ここで学ぶ薬は各材料の量が決まっているが、実際誰かに処方する時には、何を考えに入れる必要があると思う?」
初めてセブルスは返答に時間をかけた。眉を顰めたまま、彼の問いに数秒後に答えた。
「……個体差、だと思います」
彼はふっと息をついた。これが最後の質問だったのだ。彼はセブルスの肩に触れる。
「そう、その通りだ。忘れないようにね。さ、このレポートは預かろう。お茶でも飲んでいくかい?」
セブルスは彼が触れても身震いひとつしなかった。ただ益々眉間に寄せる皺の数を増やして低い声で尋ねる。
「薬学の話は、雑談ですか?」
彼は軽い口調でそれに応えた。
「いや、本論だ。君に必要な能力の話だよ。お茶はどうする?」
セブルスはすっと立ち上がる。
「遠慮します。失礼しました」
身を翻して、背筋をぴっと伸ばしたまま、セブルスは扉へ向かった。彼はその背に呼びかける。
「お休み、セブルス」
セブルスはただもう一度失礼しますと言って扉を閉めた。
彼は何となく、ジェームズ達がスリザリンの中でも特にセブルスをからかいたがる理由が分かったような気がした。なるほどセブルスは確かにスリザリン生だけれども、少し変わっている。それが将来良い方に転ぶと良いと彼は思った。先ほど言ったように、必要な能力を身に着けてくれれば、きっとセブルスは正しい道を進めることだろう。どうなるかは分からない。それはセブルス次第なのだから。
2年が過ぎた。彼は最後の授業を終えて、再び校長室へ招かれていた。アルバスと向かい合っている彼の足元には、トランクが1つだけ置かれている。荷物は魔法で全てこの中に収めてしまった。リーマスに言った通り、彼はこれからアイルランドへ渡るつもりだった。
「行かれるのですか」
アルバスが尋ねた。彼はゆっくり頷いてアルバスの少し疲れたような瞳を見つめた。
「君ももう、自分がすべきことが分かっただろう?」
彼の言葉に、アルバスは苦笑した。昔悪戯を見つかって、彼に絞られた時と同じ笑み。尊公には分かっていたのかと、そんな思いの混じった笑みだ。
「老いぼれがどんなに動き回っても、仕方がないのです。この2年尊公にこの学校をお任せして好き勝手しておりましたが、わしはこの学校の校長です。わしの出来ることは尊公がここでしてきたこと……。2年間の猶予を感謝します、先生」
彼は近づいてアルバスの肩を叩いた。
「君がこの2年間にしてきたことは大きい。それは確かだ。君が自分を無力だと思う必要はない。ただ、君は1人だ。君を求める全ての人に応えることは、君の力がいくら強大でもできることではない。それならば、君を今一番必要としている者のために、成せることを成すべきだ。君は1人で、この学校の生徒や教師を守るのは、君だけの役目だよ」
彼が与えてやれるのは、教師としての言葉だけだった。実際に行動して見せることができたら、それに勝るものはなかっただろう。しかしこれが闇に生きる彼の限界だった。
「はい」
彼は校長室から見える景色を仰いだ。明日には生徒達はホグワーツ特急に乗ってそれぞれの家に帰るだろう。月は半分だけ姿を見せていた。
「君があの子達を特別と言った理由が分かったよ。彼らは、この世界に対して本気で戦っている。彼らは戦い続けるだろう。一生、大人と呼ばれるようになってもだ。全ての人が彼らのようであれば、きっと闇も本来の静かさに戻るだろうに……」
アルバスも外を見つめて、しばし彼らは沈黙した。彼が景色から再びアルバスへ視線を戻した時、アルバスは疲れたような瞳を隠して微笑んだ。
「死ぬ時に笑っていられるような一生を送りなさいと、校長になった時に尊公は言われました。あのまま走り回っておったら、わしはよほど厳しい顔で死ぬことになったでしょうな」
彼は声を立てて笑う。
「ユーモアは君の能力だ。大切にしなさい」
そして片手にトランクを持つ。2人は向かい合って握手をした。皺の増えたアルバスの手は、彼を安心させた。この学校が彼の管理にあるうちは大丈夫だ、という安心感は彼にとってとても幸福なものだった。
「また、お会いできますかな」
「言っただろう? 君はまだまだ生きるよ。それに、どんな未来が待ち受けているか分からないが、私はどうやらまだあの子達と関わることになりそうだ」
今はもう明日のために眠っているであろう生徒達を思って、彼はしばらく目を閉じた。彼らの成長を間近で見られたことは本当に素晴らしいことだった。そしてこれから、彼らは友情を強めて、恋を知って、愛を知って、そしてより深い闇を知るだろう。
「また会おう、アルバス。ここをよろしく。……私の子ども達を」
もう一度硬く握手して、彼はアルバスに背を向けた。校長室の扉を開け、去ろうとした時フォークスが鳴いた。そしてアルバスの声に、立ち止まって振り返る。
「先生」
アルバスはフォークスを撫でながら彼に言った。
「尊公は生きておられる。尊公の意思は受け継がれておるのですから」
アルバスは彼の生徒であったけれども、同時に今を生きる教師なのだと彼は思った。彼は微笑んだ。涙が込み上げてきたが、それでもうまく微笑んで、アルバスに応える。
「……ありがとう、アルバス」
そしてもう振り返らずに彼はホグワーツを後にした。夜の闇に浮かぶホグワーツは、優しい闇で彼の子ども達を安らかな眠りに浸してくれていた。