Chapter 1-3 : 再会と決別

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 時を同じくして、チェルットの王城へ、雨の中を一台の馬車が到着した。馬車に付けられた紋章はフォリン王国を象徴する白い三日月と青い鳥のエムブレム。止まったその馬車に、チェルットの王城から出てきた女が駆け寄った。目の覚めるような原色の青いドレス。金の刺繍の施されたその服を着ているのは美しく、魅惑的な女、カミーラだった。

「アゼル様、お待ちしておりました」

 カミーラが微笑むと、馬車の扉を従者が開けた。

 白い透けるような肌と、金髪の髪。灰色の瞳は少し暗く、しかし透き通っていた。今やフォリンの国王となった、アゼル=ウィルス=フォリンであった。

「交渉はどうなった、カミーラ」

 抑揚のない声が馬車の中で響く。ゆっくりと馬車を降りる。たっぷりとした服に隠れてはいるが、とても細い体をしていた。

「同盟国として、文書をそろえてアゼル様をお待ちしております。ご案内致しますわ」

 アゼルは頷きもしなかったが、カミーラは先を歩き出した。アゼルもそれに付いていく。

 城内に入ると、兵達が敬礼する。まるでここの主がアゼルであるかのように。カミーラはその雰囲気に満足し、顔をほころばせながらアゼルを先導した。アゼルはそんな雰囲気を察していないのか無視しているのか、始終視線は正面を向いたままだった。

 それはカミーラに通された部屋に入って同じ事だった。まるで人質の様に魔獣に囲まれたチェルット皇帝。アゼルはそれが当然のことのように皇帝の前に腰掛け、二国は同盟を結んだ。チェルットにとっては結ばされたというべき同盟であった。かってどの大陸にも存在しなかった魔法王国となったフォリンは、着実に力を広めていた。今チェルットとの同盟を結び、大陸でフォリンに従わない国は北部のシーザス王国のみ。

「…カミーラ」
「はい」
「早急に同盟を結ばせたい国がある」

アゼルの灰色の瞳が、鈍く暗い光を放った。チェルットの皇帝が、思わず身を引くほど、呑まれそうな暗黒がアゼルの中にはあった。

「フォーカスのバイオス王国へ行け。エメラルドがフォリンに流れ込むようにしたい」
「エメラルドを…?それは…」
「行け、カミーラ。無駄な時間を費やすつもりはない」
「し、失礼致しました」

 カミーラが退室すると、窓の外にいた一匹の魔獣も離れていった。

 アゼルは同盟の調印を済また書類を持って、再び馬車に乗り込んだ。その馬車は本国へ帰るためのものではなかった。チェルット帝国の首都から東へ進むと、港町ユファーへ着く。アゼルの目的はチェルットとの同盟を結ぶということよりも、ユファーへ行くことにあった。今は廃城となったフルド帝国の王城に、魔術や魔法の知識が眠っている可能性があると踏んでいるのだ。夕暮れ時にはユファーへ着きたい。魔獣で行っても良かったのだが、アゼルはこのところ多忙な毎日を過ごしていた。元々静かに日々を過ごしていたいと考えていたアゼルにとって、ウィザーズを追放してからの毎日は、意に反する生活だった。国の体制を変えるのにも多くの書類に目を通し、アゼルに不満を持つ臣下達の対応にも追われた。

 少し、疲れたな。全く…大きな誤算だった。

アゼルを国王にと推す臣下達の声が五月蠅く、煩わしかった。ウィザーズを追放して、王位に就いたことで奴等が静かになってくれるものと思っていたのだが、アゼルの手が奴等の気に入るものではなかったらしく、五月蠅さと煩わしさは以前よりも大きくなっていた。勿論アゼルはそれを魔術や魔法によって静かにさせた。しかし静かになっても安らげる場所は城にはもう存在しなかった。暗く、何かしらの緊張が強く張りつめた城内に、アゼルはうんざりしていた。

 今、馬車の振動が心地よい。

 彼はやがて眠りについた。深くはない眠りの中、彼は夢を見ていた。

 父王の夢。義母の夢。そして義弟の夢。

 彼は母を知らない。父と結婚もせぬまま彼女は彼を身籠もった。家柄は良く、身分違いというわけではなかった。しかし彼が胎内で大きくなる頃には、父はもう義母に心を奪われていた。どんな身分であろうと、いつの時代であろうと、子供というのは男女の恋愛劇の被害者の様なものだと、彼は思う。父の情けで母は父と結婚したことになっている。だから彼も王子と名乗ることが出来たのだ。しかし彼を産んですぐに死んだ母は正妻ではない。つまり彼は後に産まれた義弟よりも、王位継承順位が低いのだ。しかし義母が彼を第一王子にと望んだため、彼の順位と義弟の順位とが逆転した。そのことに関して、彼は特に義母に感謝する気持ちはない。順位がどうであれ、彼は結局父王を殺し、義弟を追放したのだろうから。
 どうしてこんな行為に及んだのか。それは彼にも分からなかった。彼の心の中は空っぽで、彼自身、何の為にどうして動いているのか理解できないのだ。ただ、知りたいことはあった。彼は知識を欲していた。謎が解きたい。ずっと、そう思っていた。

 神は、何のために人を創ったのか。
 魔術とは、魔法とは何なのか。

 何のために?

 誰が?


彼の頭の中は疑問でいっぱいであるのに、その答えを誰も知らない。彼は自分で答えを見つけるしかないのだろうか。独りでいる時、安らぐ時と深く気分が沈む時とがあるのは何故なのだろうか。本はそれを教えてはくれない。ただじっと彼が答えを見つけるのを、待っているだけだ。
 夢から覚めると、雨は一層激しくなっており、空の色はますます暗さを増していた。

 「馬鹿にされた事とか、あるよ」

 家に戻って来てからも、ウィザーズは一階でギヴと話をした。下にいるコルトも、上にいるセライド達も一階へ来る様子がなかったので、安心したのかギヴは語った。

「親がいるってさ、子供にとっては強い武器を持っていると同じ事なんだよね。俺と兄ちゃんが暮らし始めてすぐの頃は、良くいじめられたよ。俺には皆が持っている武器が無かったから。強くなれなくて、やられてばかりだった」

 ウィザーズは黙っていた。ギヴは誰かに話しているというよりは、ほとんど独白に近かった。目は、ウィザーズに向けられてはおらず、始終壁に飾った写真を眺めていた。

「でもさ、ある日俺と兄ちゃんが歩いている時に、親無しだって俺をからかった奴がいたんだ。俺、悔しかったけど何も言い返せなかった」

 きつく下唇を噛んだ後、ギヴの目がウィザーズを見た。ウィザーズも視線を合わせた。

「その時だよ、俺の代わりに兄ちゃんが怒ったの。産まれてから一度も怒ったことが無いんじゃあないかって思うくらい、いつもニコニコしていた兄ちゃんが、その時だけは本気で怒ったんだよ」

 ギヴは目を瞑った。


 ギヴに両親がいないのは、ギヴのせいじゃあない!


 そう言って怒ったときの兄は、本当に強く、頼れる存在だった。

「俺のこと、本当に家族みたいに想ってくれてるんだなって。馬鹿みたいに感動したよ、俺」

 ギヴは地下の作業場へ続く階段へ視線を動かし、笑った。その奥にいる、兄を想って。

「…馬鹿何かじゃあないさ、そこで感動しない方が馬鹿だ」

 ウィザーズの言葉に、ギヴは驚いた。とても率直で、簡単な、しかしとても嬉しく感じられる一言。そう、あの時の兄の言葉のように、胸に響く。

「…ありがと…」

 どういたしまして、とウィザーズは笑った。

「何があったのか知らないけど、ウィザーズさんも早く兄さんと仲直りした方が良いよ。きっと分かり合えると思うんだ。兄弟なんだから」
「ん…サンキュ」

 分かり合えるかどうかは別として、話をするべきだとウィザーズは考えていた。お互いの気持ちを知らぬまま、このまま離れていくことは、良いことで無いはずだ。

 今唯一の情報は、グロージェスのあの言葉か…。

魔獣で飛び去る前に、ウィザーズに残した言葉。あの不気味な男の言葉を信用して良いのか、ウィザーズは迷っていた。罠かもしれない。しかし、本当だとしたら二人きりで話せる最後の機会かもしれない。雨は、夜まで続きそうだった。

 一日中足止めを食らい、バルドは港へ出向いて船乗りと話をつけ、夕方に戻ってきた。

「明日の朝、天候が回復すれば交易船に乗せてもらえるそうです。訳あって検査をパスしたいと申し出ましたら、貨物室へ乗り込めだそうですが、よろしいですか」
「あぁ大丈夫だ。その船乗り、口は堅そうだったか?」
「多少金を渡しておきました。あとは明日の天候次第ですな」

 夜になるにつれて、雲が更に重たそうにかげる。夕食を摂ったときも、コルトは地下室から出てこなかった。

「…コルトはずっと下にいるのか?」

 朝食の時以降、コルトの顔を見ていない。

「仕事に取りかかると上がってこないことなんてしょちゅうだよ。短くて三日、長くて二週間は仕事場にいる。夜もあそこで寝るんだよ」

 夕食をギヴに作ってもらった三人は、それぞれ顔を見合わせた。どいつも芸術という分野に疎いため、その信念が理解できないのだ。ウィザーズとセライドで食器の片づけを手伝い、ウィザーズはギヴに明日の天候によってはここを出ると伝えた。コルトが仕事中なので見送りは遠慮した。


 夜、皆が寝静まった頃に雨が止んだ。雲が風にながされて、時折月が顔を出す。そんな中、ウィザーズは一人起き上がり、ひっそりとした家を出た。

 外は風が強かった。ウィザーズは雨で濡れた道を、廃城へ向かって走った。

 二日後の夜、陛下がユファーの廃城へ参られるでしょう。

風に乗って流れたグロージェスの言葉。何故そんなことをウィザーズに教えたのかは分からない。アゼルの命令なのか、グロージェスの独断なのか。待ちかまえているのは、義兄か、罠か。

 廃城は雨漏りが激しく、陽の当たらないところは苔まで生えていた。ウィザーズは注意深くアゼルの姿を捜した。上から捜して、段々と下へ降りてこようと、まずは最上階を目指した。

 ウィザーズが家を飛び出してから、すぐにレンヌがベッドから身を起こした。そしてウィザーズの寝ていた場所へ目を向ける。当然そこにはウィザーズの姿はない。そこでレンヌは部屋の窓を開けた。一匹の魔獣が、レンヌに何かを伝え、姿を消した。レンヌはバルドとセライドを揺すり起こした。

「セイ、さっさとウィズを追いかけろ」

 レンヌに言われて、ウィザーズがいないことにセライドは初めて気付いた。

「あいつ…!一体何処に?」
「廃城だ。一人でアゼルに会いに行った」

 平然と言い放つレンヌの肩を、セライドがきつく掴んだ。会ったときからため込んでいた、レンヌへの不信感が爆発した。

「お前、どうしてそんなことを知っている!」

 肩を掴むセライドの手を、レンヌはいとも簡単にはねのけ、軽くねじ上げた。

「私の事を気にしている暇はないぞ。ウィズが馬鹿をしないうちに行け」

 レンヌはセライドの放すと、よろけたセライドの背を押した。セライドは舌打ちをしながらも、慌ただしく家を出ていった。

「バルド、小舟を用意して崖の下へ。アゼルの方は私が何とかする」

 有無を言わせずそう言いつけると、レンヌも家を出ていった。バルドもレンヌに言われた通り、小舟を出しに港へと向かった。


 海側の城の壁が、すっかり剥がれ落ちていた。最上階から下へ降りがらアゼルを捜していたウィザーズは、そんな剥がれ落ちた壁から見える海に心を奪われていた。月の橋が架かる、夜の海は綺麗で、恐ろしい。黒い闇は、なにもかもを呑み込んでしまう。風にあおられ雲が月を隠し、空気の流れに目を細めたその時だった。


「…何故ここにお前が?」


 振り返ると、闇に紛れて人の姿があった。


「…兄上?」


 雲が通り過ぎ、月がその男の顔を明らかにした。

 月色の髪と、雲の様な灰色の瞳。表情はない。ただ少し、疲れの色があるだけだ。

「何故ここにいる、カトラス」

 何の感情も表さない声色は、アゼルにとって日常の者となっていた。

「グロージェスが、今日兄上がここに参られると…」
「グロージェスが?」

 アゼルは低く笑った。

 …あの男…。

咎めても何かしらの逃げ口を用意している事だろうと思うと、アゼルの心は熱くなるどころかさらに冷え込んだ。

「カトラス、お前は自分の立場を理解しているのか?」

 呆けた顔は、昔も今も同じ。自分の事も、他人のことも何も理解していない顔。

「父上を殺したのは俺ではない。薬を飲まされて眠らされて…」
「目が覚めたら父上の寝所で、父はすでに殺されていた?」

 ウィザーズは声を失った。


 ほら見ろ、何も理解していない。


微かに首を振る。強張った表情は驚愕?

「何故そんな顔をする、カトラス。分かっていただろう。すべて私が仕組んだことと」

 アゼルは笑った。ウィザーズが見たこともない、暗い笑顔だった。

「貴方にはそんなことをする必要がない。俺を陥れなくとも、王位は兄上のものだ。何故父上を…」


 何故?何故だと?カトラス。


「邪魔だったのだ、存在自体が。父も、お前も。いなくなれば良いと思った」

 アゼルは見逃さなかった。ウィザーズの瞳の奥が、紅く光るのを。初めて見たその瞳の炎を。

「…ロジスは?」

 ウィザーズが下唇を噛みしめた。

「可哀想に…。老いぼれの萎れた体に斧は酷だったな。後で詫びるにも、首だけでは…」

 初めて、アゼルが声を立てて笑った。笑いながらも、アゼルはウィザーズから目を離さない。ウィザーズはきつく下唇を噛みながら、震えていた。


 怒れ、カトラス。剣を抜いて、私に向かってこい!


アゼルは高らかに笑う中、叫んだ。ウィザーズが剣に手をかける。その森の色をした瞳が、紅い炎を灯し、燃え上がらせた。


「アゼル…。貴様ァ!」


 とうとうウィザーズはアゼルに襲いかかった。

 その憎しみの叫びが、アゼルには心地よかった。

「…どうしたカトラス。先程まで行儀良く兄上と呼んでいたではないか」

 引き抜きかけたウィザーズの剣が、鞘に戻りガシャリと音をたてた。ウィザーズの足は、宙に浮いている。

「ぐっ…。あっ!」


 大きな生き物の羽音が廃城に響いた。


 ウィザーズの上半身は後ろに反り返った。脇腹に、鋭い痛みが走る。一滴、二滴と赤黒い血が床に落ちる。革製の鎧を突き破って、魔獣の鋭利な長い牙がウィザーズの体を貫いている。血と、肉の裂けたとき特有の臭い。しかしアゼルは動じなかった。その鼻を突く臭いにも、顔を顰めることさえない。

 ウィザーズは痛みに震える手で、剣を抜いた。そして自分の脇腹に獲物を逃がさぬようしっかりと牙をめり込ませている魔獣の頭を、渾身の力で貫いた。魔獣は声を上げ、ウィザーズの腹からその牙を抜いた。血が更に溢れる。ウィザーズは床に落ちた。ビチャリ、と血溜まりに。

「許さないぞ、アゼル!死者を愚弄した貴様を。俺を陥れた貴様を!」

 ウィザーズは立ち上がり、剣を構えた。足がふらつく。


「…これで対等だな、カトラス」


 アゼルは声を落とした。もはや笑うことさえなく、蝋人形の様に、固まってしまった表情。

「…何…?何処が対等だというのだ。国を追われる殺人者となった俺と、王位を継承し、母上を捕らえた貴様の何処が…!」


 私は…王位などいらない。


 その答えはアゼルの口からウィザーズの耳へと入る物ではなかった。ゆっくりと近づくアゼルに、言えようもない恐怖感を、ウィザーズは覚えた。

 ただ…。

アゼルはじっと見据えていた。ウィザーズの瞳、輝く木々の葉の色を。

 お前が憎いのだ。

初めて、アゼルの灰色の瞳に熱が宿った。

 父が憎かった。
 死後の世界があるというのなら、
 そこで見ているが良い。

アゼルはゆっくりと気を高めた。白い手が伸ばされる。

 ウィザーズは、はっきりと憎しみを表した兄の顔をその時初めて目にした。あの時、本のページを捲っていた兄では、もうなかった。

 兄上…。

何処から歯車が狂いだしたのか、アゼルには分からない。それとも、元々かみ合っていなかったのではないだろうか。つまり、アゼルとウィザーズは初めから異質だったのか。

 そんなこと、もはやどうでもいいのだ…。


「死ね、ウィザーズ」


 瞬間、アゼルから放たれた魔法で、ウィザーズは廃城の外へ投げ出された。宙に浮いた、不思議な感覚の後は、ただ海へと落下するだけだった。


「ウィズ!」

 アゼルの脇を黒い影が通り抜けた。その人影は、ウィザーズを追って自ら海へと身を投げ出した。海へと落ちていく時に、ウィザーズは手を伸ばすセライドの姿を確かに見た。


 セイ…、ごめん。
 やっぱ、駄目だったよ、ギヴ…。


ウィザーズは海に落ちた衝撃で、意識を失った。

 ウィザーズに遅れて海に飛び込んだセライドは、必死でウィザーズの姿を捜した。しかし一体何処へ行ってしまったのか、夜の海の中、ウィザーズの姿は何処にもなかった。

 息苦しくなって、セライドは海の中から顔を出した。月の光が、眩しい。すっかり穏やかになった海に、やはりウィザーズの姿はなかった。

「セイ殿!」

 一艘の小さな船を、バルドが漕いでいた。セライドはバルドの手をかりて、船に上がった。濡れたローブが重い。


「…あの…馬鹿!」

 セライドは船の底を、壊れるくらいに強く叩いた。


 アゼルはウィザーズの落ちた後を、じっと眺めていた。まるで、すべてを失ってしまったかのように、力が入らない。もう一人、背後から足音が聞こえるが、振り返る気にさえならない。そう思ったとたんに、アゼルは目の前を黒い、巨大な魔獣にふさがれた。目だけが血のように赤い魔獣。大きな竜だった。その竜に、後ろからアゼルの脇を抜けて、黒いローブを着た小柄の人間が近づいた。

「お前が、アゼルか」

 声は高い。しかし、性別ははっきりとしない。

「残念だったな、ウィズはまだ生きている」

 得体の知れない人物に、アゼルはぼそりと告げた。

「もう死ぬ…。海が体温を奪って…」

 その言葉を聞きながら、黒いローブの人物は黒い竜にまたがった。そして美しく蠱惑的な笑みを浮かべ、アゼルに告げた。

「あの男は死とは縁遠い奴だ。少なくとも、お前よりはな、アゼル」

 黒竜の羽ばたきによって、廃城の中に風が流れ込み、アゼルは目を瞑った。再び目を開くと、そこに黒竜の姿はなく、アゼルは海側へ寄った。下には一隻の船と、黒竜の姿があった。一人の男が必死にウィザーズを呼んでいる。

 無駄だ。

しかし、心の中ではあの黒竜に乗った人間の言葉が繰り返される。アゼルはそれを振り払うように、廃城を後にした。あれ程大きな魔獣を造り出す人物に興味があるが、彼は、疲れていた。体が重く、すぐに眠ってしましたいと思った。


 レンヌは上を見上げた。そこにはもうアゼルの気配は伺えない。

 …しばらくあの男は動かない。

レンヌは心の中でそう呟いた。下ではセライドとバルドがウィザーズの名を呼んでいた。

「セイ!バルド!」

 二人がレンヌを見上げた。黒い竜と、レンヌはほとんど同化していた。

「私はカミーラとかいう女を追って西へ行く。しばらく別行動だ。ウィズの方は任せたぞ」
「レンヌ!」

 バルドが叫んだ時には、レンヌは竜に乗って高く舞い上がっていた。


 結局、朝になってもウィザーズは見つからなかった。

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