Chapter 2-1 : それぞれの大陸
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ここの窓からは海がよく見える。ミディク王国だからこの方角のずっと先にはフォリンがあるのだろう。扉を叩く音に、ウィザーズは振り返った。驚きと不思議さの混じった声を上げたのは従姉の少女。
「熱は?ウィズ」
「おかげで、すっかり良くなった」
「どれどれ?」
「下がったって!」
逃げようとするウィザーズの首と頭に手を回して、リフェルは自分の額にウィザーズの額を押しつける。考え込むように少し上を向いた瞳と、それを飾る長い睫毛が間近に見える。昨日のショックと未練が、まだウィザーズの中で燻っているというのに。
「大丈夫みたいね」
妙にサバサバとした従姉が、少し憎らしい。
「…リフェル。悪気はないのか?それとも俺がガキだから遊んでいるのか?」
「あら、昨日の本気だったの?ごめんなさい。だって君、弟みたいで可愛いし」
その無邪気な一言が男を傷つけるのだ。十七にもなる男に可愛いの一言は、もはや嫌みだ。だが、無論リフェルの方には悪気は全くない。しかしウィザーズにとっては真面目に傷心中なのだ。
「リフェル似の従妹でもいいや、いない?」
「残念。お気の毒様だわ、ウィズ」
「ちぇーっ」
くすくすと笑うリフェル。言動が子供なのだ、ウィザーズは。
「朝食にしましょう。今日は大丈夫だろうと思って呼びに来たのよ。お父様も会いたがっているわ」
そう言えば母の兄がリフェルの父だったと、部屋を出ながらウィザーズは復習する。つまりはこの国の王ではないか。
海が近いせいか、浸食された建物を修復、建て増ししている関係で、この城は入り組んだ作りになっている。一人にされたら間違いなく迷ってしまうだろう。
「此処が食堂よ」
「二階にあるのか?」
「いえ?此処が一階よ。あ、窓を見て二階だと思ったの?この城は海に面した崖の上にあるの」
「危なくないか?」
「山がないからその代わり。ミディクの兵は海上戦も陸上戦も得意だから、いざという時は有利な方に逃げられるわ。後で城内を案内するわね」
ウィザーズが頷くと、リフェルは扉を開けて中へ入った。長い食卓の前に座っている男性が、こちらに気付く。そして立ち上がって二人に歩み寄り、人好きのする笑顔を浮かべた。豊かな髭が、この人物を落ち着かせてみせる。
「久しいな、ウィザーズ。と言ってもわからんか」
ウィザーズも仲間の前ではずっと見せていなかった落ち着いた笑みを浮かべて見せた。
「伯父上ですね?リフェル王女から話は伺っております。ご迷惑をおかけしました」
胸に拳を当てて、一つ礼をする。隣で、リフェルが驚きの声を上げている。
「そういう物言いもできるのね。てっきりいつもああなのかと思っていたわ」
言い返す言葉がない。
「はっはっはっ!リフェル、ずいぶん気に入っているようだが、いじめるなよ。まずは食事にしよう」
豪快に笑う父親に、娘が鋭く反撃した。
「あら、私いじめてなどいませんわ。お父様」
十分いじめられているように思えるが、反撃を恐れてウィザーズは口には出さなかった。勧められた席に着くと、魚中心の料理が運ばれてくる。ウィザーズのお気に入りの果物も、大きなかごに盛られている。
「伯父上、事の次第は承知の上で、俺を助けてくださったのですか?」
「まぁ知っていると言えば知っている。知らないと言えば知らない。まぁ、食べながら聞きなさい」
「…頂きます」
果物と同じく籠に盛られてきたパンを手にして、遠慮がちに食べ始める。リフェルはその脇で魚料理に手を付けて、国王とウィザーズの話には関わりがなさそうにしている。
「お前の義兄からの使いで、表向きの事情は知っておる。しかしマジェンダの息子がそのような馬鹿はするはずがないだろうと思っておったし、丁度秘密の情報源が手には入ったしな」
妙に何かを企んでいるような、そんな笑みを漏らした国王に、ウィザーズは少なからず警戒した。そんなウィザーズの様子を理解したのか、国王は苦笑した。
「父がいれば追い出されていたかもしれんな。今は母と旅行中だ。運が良かったな、ウィザーズ」
それまで話を聞いている風ではなかったリフェルが突然父を咎めるような声を発する。しかし伯父の方は気に止めず笑っている。気にしないで、とリフェルが微笑みかけたが、自分の祖父母のことだけに気になる。
「父、お前の祖父はマジェンダをフォリンにやるのは大反対だったからな。まぁ、正妻ということでようやく了承したんだ。孫なんかが来たと言ったらどうしていた事か…」
「お父様、そういう事を言わないで下さいな。ウィズ、お爺様は本当は貴方に会いたがっていたのよ。口には、出さないけれど」
リフェルが優しく伝えてくれたが、ウィザーズは素直に笑えない。
「今のフォリンの状態で、母を置いてきた俺は、斬りつけられても何も言えないでしょうな」
「ウィズ…」
おまけに仲間もいない状態だ。あの時あんな行動に出た自分は捨てられて当然かもしれないと、ウィザーズは思った。
「ところでお前はどうして海なんぞに落ちたのだ」
「…チェルットで義兄とやり合って、それで崖から落ちて海に…」
「ふうん、一人で突っ込んで返り討ちにあった訳か」
お父様!とまたリフェルが咎めるが、ウィザーズは構わないと首を振る。何も考えられなかった馬鹿は、自分なのだから。
でも許せなかったんだ。
言葉を交わさずとも、血が半分しか繋がっていなくとも、
それでも兄弟だと思っていた。
一時の感情に流されて、ウィザーズはアゼルへ向かっていった。崖に落ちる瞬間の、セライドの必死に自分を呼ぶ声が耳に焼き付いている。
伯父は沈み込むウィザーズを、やけに面白そうに見ていた。
「お前は王子たる身であろう?いずれは義兄に代わり王となるやも身。仲間が信用できぬのか?」
仲間のことはリフェルから聞いていたのであろう。
「いいえ!あれほど信用できる仲間は他にはおりません」
「ならば仲間に助けを求めればよい。お前と魔術使いたる義兄との力量は、一概には比べられぬ。人質という負担もあるしな。ならば仲間に助けを求めても非にはなるまい。それに、味方を有効に使ってこその王であろう。単身敵の懐に飛び込むのが王の器とは思えぬな」
「はい、おっしゃる通りです。自分でも、冷静な判断だったとは思えませんし」
その答えに、満足した様子で伯父はゆっくりと頷いた。
「分かっているならよい。食事の後少し付き合わぬか?お前の剣技がどれほどのものか見てみたいものだ」
「いけません、お父様。食後は私が城を案内しますのよ」
なら午後で良いと勝手に予定を決められている。客よりも居候に近いので仕方がないと諦めた。伯父と手合わせするのもリフェルに振り回されるのも、どちらも疲れるような気がしてあまり気乗りしない。リフェルを口説きかけたことは、伯父に話されていないのだろうかと不安になる。
「ご馳走様でした」
「もういいの?じゃあ、行きましょう。お父様、お先に失礼いたします」
「いじめるなよ」
「さっきからそのことばかり…。お父様の方がよっぽどいじめていますわよ」
拗ねたように顔を反らして、リフェルはウィザーズの手を取って歩き出す。やはり子供扱いされているのかと古傷が痛んだが、女性の手を払うのも無粋だし、なすがままである。部屋を出ると、リフェルはその勢いのまま歩いていたがそうだわ、と急に立ち止まる。
「何だ?」
「あ、ごめんなさい。中を案内しようと思ったけれど、そんなに広くもないし…あっちの方が面白いかもしれないわ」
「あっち?」
「裏庭よ。面白いものを見せてあげる」
悪戯っぽく微笑むと、よけい童顔に見える。
「面白いもの?」
「見れば分かるわ」
リフェルは急に方向転換をする。しかし、先程から兵士やら使用人やらに全く出会わない。フォリンでは廊下に出れば必ず誰かに出会っていたのに。
「此処、あまり人がいないんだな」
「えぇ、皆殆ど漁に出ているわ」
事も無げにリフェルが答える。
「…漁?」
驚くウィザーズを、リフェルの方が不思議そうに見返す。
「えぇ、雨期に入ったらなかなか漁に出られる機会も少なくなるし、その前に魚を捕って保存しておくの。その手伝いよ」
「はぁ…」
平和な国だと思わず考えてしまった。フォリンではまずこんな事はあり得ない。漁のために兵士までもが城を留守にするとは。せめて見張り分の兵士だけでもと思ったが、そこが父と伯父の政策の違いなのだろうか。アゼルを討つことばかり考えていたが、その跡を継ぐのは自分。親殺しの罪が、完全に晴らされたらと言うことにはなるのだろうが、もっと先のことを考えなければいけないのだと初めて知った。学ぶことは多い。特に、伯父に学ぶべき事は。
「何考えているの?」
「いや、結局俺は何も考えていなかったのかな…と。王位は当然アゼルが継ぐものだと思っていたし、今回のことに関しても、疑いを晴らして母と妹達の無事を確認して…それだけしか見えていなかった」
「そんなものじゃあない?君はまだ幼いんだもの。お父様は下手に年を取っているわけではないし、下手に王をやってきたわけでもないわ。だから、今の君には遠く見えるかもしれない。でも、フォリン王は君を跡継ぎにって考えていたみたいだけど」
「え?」
そんなこと初耳だ。
「別に驚く事じゃあないでしょ。王位継承の順位はウィルス殿と同じなのだし。前にフォリン王がいらした時、お父様にそう漏らしていらっしゃったそうよ。ウィルス殿は、国王の器ではないって…ウィルス殿はそれを知っていらしたのかもしれないわね」
「それでアゼルは父上を…?」
自分の何処がアゼルよりも優れているのか、そんなことは分からない。アゼルとは年も離れて、昔から疎遠だった。それでもアゼルは優秀で、城の中でもアゼルを押す声は強かった。
俺がアゼルをあんな行動に出させたのか?
あの男の口からあんなに憎しみのこもった言葉を出させたのは、自分だったのだろうか。
「君のせいではないわ。ウィルス殿は、フォリン王に付いて来た時に対面したけれど、怖い目をした人だったわ」
「怖い目?」
「なんて言うのかしら…とても冷たい目。こんな事言っては何だけど、人間味が無くて怖かった。世界征服でも平気な顔でしてしまいそうだと思ったわ。半分くらいは本当になってしまっているけれど…。民が望む王に成れるとは到底思えない。君が国王というのをどう定義しているか分からないけど、民あっての王だと私は思ってる。王に成るんじゃあないのよ、民に王にしてもらうの」
リフェルの言葉に、ウィザーズは素直に頷いた。
「そうだな…そうかもしれない。民が付いてこなければ王など何の力も持たない。民が王に力を与え、王はそれに応えるもの。応えられるだけの器を持つ者でなければ、良き王とは言えないな」
自分の心に刻み込むように、ウィザーズはゆっくりと言葉を綴った。
「あら、きちんと考えているじゃない」
「…リフェルが考えさせてくれたんだろ。今まではそう、ただもやもやっとした物が心にあって、それが形になった感じかな。俺はそんなに勉強熱心ではないし、ただ剣とか馬とかが好きで、アゼルが王位に就けば騎士として働くつもりだった。本気で…」
人に言ったのは初めてだけどな、と少し恥ずかしそうにウィザーズは言う。理想の女性、しかし諦めざるを得ないと分かると彼女は姉のような表情を見せる。そして傷心しながらも自分は姉としての彼女を求めているのだと気付いて、ウィザーズは苦笑する。
「貴方外交は不向きね。素直で、無防備だわ。あっと言う間に言いくるめられるか、険悪になるかのどちらかね」
「…当たりそうで何も言えない…。やはり俺は王には向いていない」
「あら、王には向いているわ。何でも出来る国王なんて返って気味が悪いわ。お父様なんてね、外交も剣も得意だけど乗馬だけは駄目なのよ」
「あの伯父上が?」
「子供の頃に落馬したらしいって、お母様が生前おっしゃっていたわ。でも乗馬なんか出来なくても王としてはやっていけるわ。乗馬が必要なら他の誰かが代わりにやればいいの。この意味、分かる?」
「いや、全然」
くるっとスカートをなびかせて前に立ったリフェルが、くすりと笑って立ち止まる。つられてウィザーズも立ち止まる。他の者なら嫌だろうが、彼女は自然で嫌ではない。
「君は天才で無くても良いの。ただ君の純粋で素直なところは良い人材を惹き付けるわ。貴方の元にはそれぞれに長けた人間が集う。君が学ぶべきなのはその人材をいかに使うか。君はまだ若くて無鉄砲、それに優しいのね。心の中で巻き込んではいけないと思っていた。だから一人で突っ込んでいってしまったのね。君はそれを使うの。勿論ただ使うだけでは駄目だけど、それを学びなさい」
「難しいな、色々」
「そう、難しいのよ。だからその難しいこと一つが出来る存在こそ王になれるの。貴方の義兄上はそれが出来ない。もっと、別のことしか考えていないのよ」
「…余計難しい。俺には自信がないな」
「自信なんていらないわ。後から付け足せる。とりあえず今は考えられなくても良いわ。貴方には時間がある。今は貴方は王子でなく、ただのウィズで良いのよ。そう、面白い物を見せるんだったわね。君には珍しいと思うけど、面白くなかったらごめんなさい」
「俺は箱入りだから、結構なんでも珍しいぞ」
でも町で遊んだりしてたでしょ、と言われると否定できない。でもそれはバルドが城にいた頃の話だったから、もう大分前の話だ。幼かった彼はバルドや他の騎士に守られる形で、やはり箱入りに代わりはなかった。ただ箱の中から外を見ているに過ぎなかったのかもしれない。そうこう思っていると、リフェルは少し小走りに城の裏手に出て、何かの柵に近づく。
「遅くなってごめんね。さっ、出てきてご飯を食べなさい」
「何がいるんだ?」
ウィザーズが顔を出すと黒い毛玉がぴょんぴょん跳ねながら柵の外に出ていき、裏庭の草を食べ始める。その何匹かはウィザーズが気になるのか円らな目でこちらを見ている。その上には長くて垂れ下がった耳。それも黒い艶やかな毛で覆われている。
「かっわいー!」
「あら、こういうの好き?」
「すっごい好き!何これ?可愛い〜」
「意外だわ…。これは絶滅寸前の自然種の魔獣なの。狩りは禁じているけど、密猟者が絶えなくて城で保護しているのよ」
「可愛い〜。触りたいな」
もはや聞いているのかさえ分からない。こんなに取り乱すとは思わなかった。しかし彼女も最初はこうだったのだ。だから世話役だって買って出たのだ。今は少し慣れてきただけである。
「そんなに気に入ったのなら一匹あげるわ。たぶんフォリンでも生息できるわよ」
「いいのか?じゃあ、俺と目が合ったあいつ」
ビシッと指さすウィザーズ。指先を辿るリフェル。
「…こっち見ているのが多すぎて分からないわよ…。自分で捕まえてきて」
「じゃあ…」
「グーイ!グーイ!」
嬉々としてウィザーズが近づくと、警戒なのか魔獣が鳴き始める。しかし一向に逃げる様子がないので、ウィザーズは悠々と目的の一匹を拾い上げた。
「グーイ!グーイ!」
「あはは!鳴いてる〜可愛い〜。これ名前はついているのか?」
「付けていないわ。自然に帰すつもりだったから」
帰すつもりでなくとも、皆同じ形をしていて名札がないと名前は付けても意味がなさそうだった。
「じゃあお前グーイな。グーイ、お前も一緒にフォリンに連れて帰るからな」
「フォリン!」
がしゃん、と魔獣達のいた柵の隣にある別の小屋で音がする。どうやら小屋に付けられた金網を揺すっているようだ。命名が何とも安直な、と思っていたリフェルは音に反応して、驚いているウィザーズに歩み寄る。
「何?頭がおかしい人間でも入っているのか?」
「頭がおかしいやて!聞き捨てならんわ!こっちこんかい、われ!」
「人間じゃあないんだけど、頭はおかしいかもしれないわ。静かにしていないと、餌をあげないわよ」
「そのけったいな獣にはさっさと餌やって、わいはほったらかしか!」
「あぁ、お腹が空いていたのね。ならそうと早く言えばいいのよ」
小屋の脇にある袋に手を入れてリフェルは何かの餌らしき物を容器に入れて、入り口から小屋に入っていく。恐る恐る小屋を覗き込むと、餌をついばんでいるのは鳥だ。多分鷹ではないかと思うが鷲だったとしてもウィザーズには区別できない。他には何もいないようだが、それでは先程の声は誰が発したものであろう。
「さっきの変な口調の声は何だ?」
「変な口調やて!わいに言わせりゃお前等の方がよっぽどけったいやわ!」
「うわぁ!鳥が喋った!」
「やめなさい!餌を取り上げるわよ!」
突然飛び立った鳥は金網に爪を引っかけてウィザーズを脅すが、リフェルの一言にぶつぶつ言いながら止まり木に戻る。グーイが脅えているので地面に置いて、とりあえずウィザーズはもう一度小屋を覗き込む。やはり鳥の他はリフェルしかいない。
「これ、どういう仕掛け?」
「わいが喋ってんのや!それもわからんのか、あほガキ!」
「あほ?お前がおかしすぎるんだ馬鹿!」
「ば…馬鹿言うたらあかんのや!」
「やめなさいって言っているのが分からないの?ウィズ、貴方も鳥相手にムキになっても仕方ないでしょ!」
はい、と一人と一匹は大人しくなる。リフェルにだけは逆らわないでいた方が良さそうだ。ウィズは入ってこない方が良いわね、と意味深に言って、リフェルは鳥を逃がさないためか入口を手で押さえる。
「ウィズ、貴方には一応彼の紹介をしておくわ。その前に貴方は口を挟むとややこしくなるから黙っていて。彼は貴方の義兄上ウィルス殿の命令で魔法によって改造された鷹なの」
「何―!あの男の弟やて!」
「黙ってなさいと言ったでしょう。ウィズも貴方と同様、被害者なのよ。まぁ、彼は追っ手を逃れてフォリンから渡って来たんだけど、何せあの距離だから力尽きてたところを拾われて、城で保護したの。おかげで一足早くウィルス殿の事は分かっていたのだけれど、元気になったらフォリンに復讐しに行くって聞かないものだから檻に入れている訳」
「アゼルがこんな物を…。ところでお前何処の言葉喋っているんだ?」
「あら、フォリンの方言じゃあないの?」
「俺はこんなおかしな方言は知らない」
また怒りにまかせ飛び立とうとしていた鷹は、リフェルの視線に気付いて広げた羽を戻す。ウィザーズは自分もそうなりそうで素直に笑えない。とにかく、とリフェルは脱線しかけた話を戻す。
「行き先は同じな訳だから、帰る時は彼も連れて行ってくれない?」
「まぁいいけど。こいつ名前は?」
「ないわ、何付けても怒りそうだし」
それはそうだけれど、名前が無いと呼び辛い。
「じゃあ、お前はウィグな」
「何でそんなけったいな名前なんや!」
「嫌なら連れて行かない」
ぐっと声を詰まらせ、鷹、ウィザーズの命名によるウィグは、諦めたように首を落とす。そしてリフェルが開けてくれた入口から飛び立ち、ウィザーズの肩に止まる。突然のことにウィザーズは驚いて逃げかかったが、爪が肩に食い込んで逃げられない。
「痛い、重い…」
「男なら我慢せんか!」
「そんな勝手な!せめて止まるのは鎧着けている時にしろよ!」
「鎧は部屋に置いてあるわ。あら、雨…中に入っていて」
「リフェルは?」
「この子達を小屋に入れるわ。鷹は羽が濡れると飛べないから、濡れると乾くまでそのままよ」
それはごめんだとウィザーズは駆け出すがそれより早く、飛び立ったウィグが城の中へ入る。飛び立つ時にも爪が食い込んで痛い。入口まで入ってウィザーズは振り返った。もう一匹のペットのことを忘れていた。
「おいグーイ!」
「グーイ!」
二・三匹が同時に声を上げたが、別れの挨拶だったのかもしれない。一匹がウィザーズに向かってくる。ウィザーズはウィグの止まる肩に痛みを覚え、グーイを抱えながら空を見上げた。まだ空の灰色は薄い。しかしその向こうの暗い雲が、雨期の始まりを予告していた。