Chapter 2-2 : 雨中の進軍

---------------------------------------------------------------------------------

 雨が次第に強くなっていた。長い髪を濡らされるのも厄介だが、それ以上に心なしかぐったりとしている連れの方が気になった。彼女は馬に不慣れのようだったし、流石の彼も長時間の乗馬と激しくなっていく雨に参っていた。

「この先にミディク城があるはずだが…。入れてくれるかが問題だな…」

 そうぼやくが、連れからの合いの手はなく、すっかり独り言になってしまった。それは構わないのだが、城に入れるかどうかが不安だった。外交官をしていた関係、彼は何度かミディクに訪れたことがあるが、門番が顔を覚えるほど何回も訪れたわけではない。休むだけなら宿でも良いだろうが、連れが用があるのはミディクの何処なのだろう。考えていると、連れがゆっくりとした動作で腕を持ち上げた。不思議に思いながら、彼はその動作を見守る。と、雨の中で羽を広げた鳥が、優雅な仕草でその腕に舞い降りてくる。鳥の姿でありながら本物ではない。本物であればこの雨の中を飛べるはずがないのだ。彼女に何か告げるように鳴き、創り出される前と同じなにもない状態へと戻る。見慣れている光景ではないが、取り乱すようなものでもない。

「見つかったかい?」
「この先。海のすぐ近く、崖の脇の大きな屋敷だ」
「ミディク城か。入れるか…」

 いや、入れるかなどと悩んでいる状態ではない。連れはまたぐったりと彼の胸にもたれる。体力の消耗が激しいようだし、この雨で発熱したとも考えられる。急病だとでも言えば入れてもらえるかもしれない。激しい雨の向こうに、見覚えのある門が見えた。少しほっとしながら、彼は門に近づく。しかし以前にいた門番が出てくる様子はない。

「参ったな…。誰もいないのか?」

「セイ?」

 門の隣の入り口から、少年が飛び出してくる。見目十六・七の少年は、目的の人物でないと察したのか、そのまま固まってしまう。しかしあっ、とすぐに視線を移す。つられて呆然としたまま少年を見ていた彼も、少年の視線の先、自分の連れを見る。

「レンヌ!さっきの魔獣はお前のか!セイじゃあなかったんだな」
「君は、この子の仲間かい?」
「あ?あぁ…。あんたは?」

 不信そうに答える少年に、彼はごもっとも、と心の中で頷いた。

「事情があって、この子を送らせてもらった。…それより、この子体調が悪いみたいなんだが」
「早く言えよ!ちょっと待ってくれ」

 そう言って少年は再び中へ消える。彼はそのまま馬に乗っているのも何なので、馬を下りて彼女を抱える。さっきまでの会話も聞こえていなかったのだろうか。全く反応はない。やはり熱であろうか。と、先程の少年が現れ、その後ろから別の少女が現れる。

「まぁ、サフォム様…」

 見覚えのある少女。この男は美女の顔と名前は決して忘れない。

「リフェル王女。覚えていて下さったのですか」
「話は後にしろよ!」

 身なりは良いが、この少年は再会という場面の雰囲気を理解していないなと、彼は少し気分を害した。

「そうね。サフォム様、どうぞ中に。ウィズ、悪いけど西門は開いているから、そちらに馬を回して」
「分かった」

 少年は馬に飛び乗り走り去っていく。

 王女とどういう関係なんだ、あの少年。

そう思っているサフォムと同様に、

 どういう事情でレンヌを送ってきたんだ、あの男。

と思っているウィザーズ。とりあえずはレンヌの具合のことを考え、サフォムはあわててリフェルを追った。

 鈍い金属音が屋内のアリーナに響きわたる。少し嫌そうにウィグが顔をしかめた、様に思えた。グーイは耳が垂れているのでよく聞こえていないようだ。

「なかなか太刀筋が良い。誰に習った?」

 ウィザーズは、レンヌの様子が落ち着くまで伯父に付き合って手合わせをしていたのだ。

「幼い頃はバルドに。バルドが城を出てからは騎士団の者と手合わせをしておりました」
「成る程」

 追いつめられているのは一見して伯父の方。しかし計算なのか何なのか、伯父の表情には余裕の笑みが浮かぶ。練習用の、先が潰してある剣を使っているので、慣れない。しかし条件は伯父も同じであろう。

「惜しいな、バルド殿にもっと長く習っておくべきだった」
「どういう事ですか?」
「若い騎士を相手にしていただろう?」
「えぇ…」

 一体それが何だというのか、ウィザーズには分からなかった。

「ウィズ、お父様。サフォム殿とレンヌさん大丈夫だそうですわ」

 リフェルが呼びかけた。

「分かった」

 剣を振り上げ、自然な動作で鞘に収めると、伯父は先程とはうってかわって優雅に身を翻す。ウィザーズはというと、何があったのか分からずに呆然としている。遅れて跳ね上げられた剣が、ウィザーズの脇に落ちている。しかしいつの間に剣が自分の手を離れたのか、それすら分からなかった。

「何ぼけっと突っ立ってるんや!はよせんと、置いて行かれとるぞ」

 ウィグが耳元で叫ぶ。

「あ、あぁ…。今、どうやって剣が払われたか見えたか?」

 呆然としたままウィザーズが尋ねると、ウィグは呆れたように答えた。

「それもわからんかったんかいな。まったく呆けやな。一度下に払って今度はその剣の下に回り込んで、そんでもって上へガッと跳ね上げたんや」

 ウィザーズが考え込むと同時に、足元にグーイがじゃれついてきた。

「グーイ!グーイ!」
「分かったよ!お前まで催促すんなって」

 とうにアリーナを出た二人を追いかけてウィザーズは駆け出す。廊下に出ると伯父の姿はなく、リフェルだけが歩いている。伯父は何処か別の部屋へ寄っているのだろうか。ウィザーズの足音か、それともウィグの羽音か、はたまたグーイの弾む音を察したのか、リフェルが振り返って微笑む。

「良い勝負だったじゃあない」
「全然…。俺はどう剣を取られたのか分からなかったし、ウィグに教えてもらってもさっぱり思い当たらなかった」

 肩をそびやかすウィザーズに、リフェルは笑った。

「今もバルド殿に習っていればって、しきりに悔しがっていたわ。息子がいないから、楽しくて仕方がないみたい。彼はあんまり剣は得意じゃあないから」

 そういえば、伯父は正妻であるリフェルの母以外に妻はいない。再婚する気もなさそうに見える。

「…何でバルドに拘られるのだ」

「正確には今君の手合わせの相手が若い人なのが悔しいのよ。若いから力押しする気があるの。技術もあるけれど、それが若いうちにはあまり伸びないから、ある程度年のいった人と手合わせをして、早く技術の方を磨いてもらいたいんだわ」

 ふうん、とウィザーズは感心の声を漏らす。どうも伯父とはリフェルを介さないとコミュニケーションが成り立たない。父親のような感じだろうか。ウィザーズは父を思いだした。父とは全くという言葉に等しい程交流がなかったと自分は思う。今でも、母は何故あの父と結婚したのか分からない。それでもアゼルほど交流がないわけではなかった。きっと父は人を介してウィザーズのことを見ていたのだろう。そういう人だったのだ。

「此処で待っているはずだけど」

 いつの間に先回りしたのか、それとも最初から此処に向かっていたのか、しっかりと正装に身を包んだ伯父が中の二人と一方的に話をしていた。この伯父を尊敬したた良いのかどうなのか、ウィザーズはよく分からなくなってきた。問題行動が所々見られるのは確かだ。とにかく見習うべき点とそうでない点は自分で見極めるしかないらしい。

「あぁ、再会の邪魔をしたか?ウィザーズ」
「いえ。…正直言えば少々驚きましたが」

 しっれっとしている伯父に、ウィザーズは多少皮肉げに答えた。

「それは済まなかったな。その気はないのだが、少々人を驚かす癖があるようでな。サフォム殿、貴重な話をどうも。気がねなく滞在されよ」
「ありがとうございます。陛下」

 レンヌを連れてきた髪の長い男は着替えている。レンヌはソファに座ったまま、国王を見送る気はないらしい。

「お父様、どちらへ」
「部屋にいる。少し出歩くかもしれぬが、まぁ気にするな」

 気にしませんわ、と悪びれもなくリフェルは応えて父を見送る。どうも理解しがたい父娘関係のような気がしてならない。当人達が気にしていないのだから、ウィザーズが口出しすることなど何もないのだが。

 リフェルはレンヌとサフォムの手前のソファをウィザーズに勧めると、自分はどこかへ去っていった。

「大丈夫か、レンヌ。具合悪そうだったけど」

 心配するウィザーズに、レンヌは案外はっきりとした声で応えた。

「大したことはない。お前、バルドとセイには会わなかったのか」
「あぁ、はぐれたみたいだ。お前こそ一緒じゃあなかったのか?変な男がいるし」

 ウィザーズの悪びれない一言に、男はカチンときたらしい。

「変な男とは失礼ではないかね?君が誰だかは知らないが、少しは礼儀をわきまえて欲しいな」

 どんな皮肉も効かないのは、アゼルやグロージェスだけではないらしい。ウィザーズもなかなかそのあたりに関しては鈍い。

「あぁ、ウィザーズ=カトラス=フォリン。フォリンの第二王子だ」

 サフォムの皮肉をものともせずに、ウィザーズは追われている身であるというのに自分の名をフルネームで紹介した。サフォムは驚きを隠せない。

「第二王子殿か…ならば面識はありませんな。私はバイオス王国の外交官、サフォム=フィギイ。…と言っても、国を抜け出してきた身ですから、元外交官といったところでしょうな。とにかくお見知りおきを。カトラス王子」

 立ち上がって華やかに笑い、サフォムは優雅に最敬礼をする。ウィザーズよりも十近く年上で、外交官と言われれば確かにそれらしい雰囲気がある。とりあえず何か話そうとすると、リフェルがお茶を運んできて三人のためにそれをカップに注いでくれる。

「自己紹介はした?ウィズ」

 そう言う彼女はすっかりウィザーズの保護者である。

「そこまでガキじゃあない…」
「ガキだろう」

 レンヌが注がれたお茶をどうしようかと弄びながらウィザーズに突っ込む。苦笑したのは隣のサフォムだった。

「カトラス王子だということは分かりました。しかし、どうしてミディクにいらっしゃるのですか?」

 国王殺しのことは口には出せなかった。こういう事件は国の陰謀が強い。第三者のサフォムが問いかけられる状況ではないのだ。

「彼は私の従弟になるの。訳があって保護したのだけれど。…まずは仲間同士に会話を譲りましょうか?」

 訳とはやはり国王殺しのことだろうか。考えながらもサフォムはどうぞというように手を伸ばし、ウィザーズに促してみせた。

「ありがとう…」

 しかし、話すにしてもまずレンヌの格好が気になるウィザーズである。黒から白に変わってはいるものの、相変わらずローブを頭から被っている。人に食事を見られてはいけないと言っていたが、顔も見られてはいけない種族だったのだろうか。そう言えば、今までレンヌの顔を見たことがない。質問したいが、他の人が聞いているので恥ずかしい。結局その問題はウィザーズの中で後回しということになった。

「お前は何処で何をして、このサフォム殿と知り合ったんだ」
「サフォムで結構ですよ、カトラス王子」

 サフォムが微笑んだ。人好きのする笑い方だ。

「俺もウィザーズかウィズで良い。それと敬語はなしで。それで?レンヌ」
「私はお前が海に落ちた後、バルドとセイと分かれて、カミーラとかいう女を追っていた。そしてバイオス王国に着いて、こいつがカミーラに襲われかけていたところを助けた。だから代わりに、送ってもらった。それで良いか?」

 実に簡潔で、わかりやすい説明であった。最後の一言に、ウィザーズは何となく気が抜けてしまった。

「良いかって…誰が良いんだよ…」

 そう言うと、隣にいたサフォムがレンヌの手を握って答えた。

「良い!そう、君に助けてもらわなかったら、俺はあの女に襲われていたかもしれない。感謝しているよ、レンヌちゃん!」

 一人称が代わっているし、レンヌちゃんというのは一体なんだ、とウィザーズは引きかけたが、隣にいたのがリフェルなのでソファを動かすのはやめた。リフェルが心なしか厳しい表情をしているように見えたからである。そういえば二匹のペットはどうしただろうと部屋を見回すと、応急にあつらえた止まり木にウィグが、その下にグーイがいる。その間にもサフォムがレンヌに迫って、反撃にあっていた。

「グーイ、ウィグ、こっちに来いよ」
「グーイ!」

 呼ばれると嬉しそうにウィザーズの元に来たのは、グーイだけだった。ウィグは止まり木の上で知らん顔している。

「何だ?それ」

 レンヌが興味を示したのはグーイであった。

「俺のペット、リフェルにもらったんだ」
「触っても良いか?」

 ウィザーズの膝の上に陣取ったグーイを、撫でるのかと思ったらいきなりレンヌは耳を掴んでべろっとめくる。グーイが驚いて目を見開いたように思えた。元が元なのでよく分からない。

「おもしろい」

 本当に楽しんでいるのか、レンヌの口調は一定に保たれている。

「そ、そうか…抱えていても良いぞ」

 ウィザーズが許可すると、レンヌはグーイを抱きしめてソファにもたれた。グーイは先程耳をめくられたことも忘れたのか、何だかご機嫌だ。

「ねぇ、サフォム殿。レンヌさんを送るためだけに城を抜け出して来ても良いの?」

 今まで難しい顔をしていたのは、そのことだったのだろうか。リフェルの言葉にサフォムは何処かしら余裕のある笑みを返した。

「ご心配なく、リフェル王女。すぐにめどを付けてあの国は必ず取り返します。まぁ、あのカミーラとかいう女に操られた国王は退位していただきますよ。…どうやら飾りの国王ではいけない時代に入ってしまったようです。しばらくはご厄介になると思います。城でなくとも、寝る所さえあればやっていけますから、お邪魔でしたらそうおっしゃって下されば…」

「いいえ、そんなつもりで言ったのでは無いわ。彼は今いないけれど、ゆっくりなさって」
「そうおっしゃっていただけると、救われます。此処にはレンヌちゃんもいますし!」

 何故そこでレンヌが出てくるのだろう。ウィザーズは首を捻って考えるだけだ。

「そう言えば、レンヌさん具合がまだ良くなさそうだわ。唇も青くなっているし」

 そう言われてウィザーズとサフォムがレンヌの顔を覗く。

「…本当だ。休んだ方が良いね、レンヌちゃん」
「部屋まで連れていくか?」

 グーイを抱えたまま、ブンブンとレンヌは首を横に振った。

「私が行くわ。さ、行きましょうレンヌさん」

 レンヌはこの言葉にも難色を示したが、腕を引くリフェルに折れ、グーイを抱えたまま立ち上がった。

「本当に大丈夫か?遠慮はするなよ、連れていってやるから」
「大丈夫よ、ウィズ。ね、レンヌさん」

 コクリと一つ頷くレンヌを見て、サフォムもウィザーズもそうか、とソファに座り直した。部屋を出ていくリフェルが妙にそわそわしている。レンヌは重い足取りで部屋を後にした。

 残された二人は何を話すでもなく、閉ざされた扉を見ていた。

「…サフォム、お前の仕えていた王は、どんな奴だった?」
「は?」
「今まで仕えていたんだから、それなりに良いところがあったんだろ?」

 突然話し出したウィザーズの意図が掴めず、サフォムは、はぁと気のない返事を返した。

「…俺は、一国の王に成れると思うか?」

 ウィザーズは視線を落とした。ようやく話が分かったサフォムは声を上げて笑った。ソファの背を掴み、腹を抱える。

「何がおかしいんだ」
「あはは…失礼いたしました。話がよく分かっていなかったもので」
「敬語はよせ」

 すっかりむくれてしまったウィザーズに対して、サフォムはふっと真顔に戻った。

「今は成れますまい。貴方は外を知らなさすぎる」
「だから、敬語は…」

「国の王に成る者であれば、その逆を言うでしょうな。貴方と私は、今日お会いしたばかりです。それなのに敬語を使うなと…。信じれる者でなければ、そんな事を軽々しく口にしてはいけません。王と臣下の区別がつかなくなってしまう」

「お前は…レンヌを連れてきてくれた」

 憮然と、ウィザーズが言い返した。だから信じても良いと。

「確かに。しかし、私は彼女が貴方の仲間だったとは知らなかった。もし私が何らかの形で貴方に恨みを抱いているとしたら?」

「そんなこと!」

「ない、とは言い切れますまい。レンヌちゃんは何日も私と旅をした。彼女が私を信じていると言うのであれば、私も納得します。少し人を見る目が肥えていれば、三日で大体の人の善し悪しが分かるでしょう。勿論、細かいところは長く付き合わなくては分かりませんがね。貴方はどうです?まだ会って一日も経っていない私を、無邪気に信じるようなことは、あってはいけないことですよ」

 先程まではむくれていたウィザーズが、真剣に自分の話を聞いている事に、サフォムは苦笑した。

「王子、貴方は素直です。度が過ぎるくらいにね。思ったことはすぐに顔に出るし、一度でも親切にしてもらえばその人を信じる。時には無邪気に人を信じるのも大切です。周りが皆善人であれば、貴方ほど王に相応しい人はいないでしょう。しかし現実はそうじゃあない。貴方を利用しようとするような奴もいるし、貴方の命を狙う者だっている。私はそいつ等をひとまとめに悪人とは言いませんが、貴方にとっては害になる者達だ。そういう奴等もいるのですよ、王子」

「分かっているつもりだ」

「それではもっと注意深く人を見られることだ。誰が自分にとって正なのか負なのかを見極めることです。後はその者達を上手く使って、働かせれば良い。王が国のすべてをするものではありません。王は人を惹き付け仕えさせ、上手に使えば良いのですよ」

 何故自分はいきなりこの王子に説教をしているのだろうと、サフォムは今更ながらに不思議に思った。しかし此処まで真剣に聞いてもらえると、話す方も悪い気はしない。

「…リフェルにも同じ事を言われた。その時は、難しく思ったけど、お前は話すのが上手いな」
「外交官であればこのくらいはね」

 おどけたサフォムのせいで一瞬にして緊張が解け、ウィザーズは関心しきった。

 この男は、すごい。

今はソファの背にもたれかかり、疲れたなどと言って笑っているが、この男は奥が深いとウィザーズは思った。普段はその知識を箱の中にしまっているのだ。黒い箱の底の方に。外からでは全く気付かない。

「あぁ、そうでした。カトラス王子」

 思い出したというように、サフォムは笑って見せた。

「最初の質問ですが、私はバイオス王に仕えたことは一度もありませんよ」
「は?どういう事だ?」

 突拍子もない答えに、ウィザーズは唖然とした。サフォムは笑顔を崩さない。どうやら冗談ではないらしい。

「私は国のために尽くしてきた。王にではなく、むしろ私は民に仕えてきたのです」

「民に?」

「仕えるような男では無かったのですよ。私にとっては、彼は国王の器ではなかった」

「…器…?」

 平穏な時代であればと思ってこそ、今までサフォムはあの王の元で働いてきたのだ。自分の生まれた国のために、共に育った民のために。しかし、アゼルの侵略によって、平穏な時代は終わりを告げた。混乱の中を立て直せる、強い王が必要になってくるだろう。今の国王では無理だ。

「私が仕えたいと思うのは愛せるものです。男であれ女であれ国であれね。嫌いな奴には仕えたくないし、かといってどうとも思わない奴にも仕えたくはない。一生仕えるのだったら、愛せる人物・国でないと、いけませんね。それが王の器ですよ。愛される器です」

「…俺は合格か?」

「その点ではね。もっとも、これは私の基準ですが」

 ウィザーズが身を乗り出してきた。サフォムは思わずたじろぐ。

「他の点でもお前の基準に合えば、お前は俺に仕えてくれるか?」
「…差し当たって今は国を取り戻すことしか考えていないんですがね」

 素っ気ない言い方にも、ウィザーズは負けじとサフォムに詰め寄った。

「よし、俺が協力してやる。どうせバイオスにはカミーラがいるんだろう?」
「王子…無鉄砲に物事を考えるものでは…」

 サフォムがこの若者の率直さに呆れ返っていた。どうにかなだめようと口を開いた瞬間に、ウィザーズのとんでもない一言が耳に飛び込んできた。

「お前が欲しいんだよ!」

 これだけ率直なのは、ある意味尊敬に値するのでは無いだろうか。

「俺は国王になれるかわかんねぇし、お前ほど民を心配していた訳じゃあない。母上や妹達の事ばかり考えていたガキなんだ!お前は色んな事知ってて、大人だ。今日の話だけじゃ足りないんだよ。もっとたくさんお前に教わりたいんだ」

 一気に言い切ると、肩を上下させた。息が切れるくらい捲し立てて、ウィザーズはそれでもなお言い足りなかった。

「…参ったな…。此処まで熱烈な求愛されるなんて…。王子、私程度の能力の者は他にもたくさんいますよ」

「そんなことはない!いたとしてもお前でなくては嫌だ。…こうしよう、アゼルにバイオスから手を引かせるまでの間に、俺がお前の王に相応しいかどうかを判断して、NOだったらバイオスに残れ。YESだったら俺と一緒にフォリンに来い」

 素直だ、素直だと思っていたら、どうしてなかなか、我が儘な王子様だったのだ。

「…分かりました。王子の条件を呑みましょう」

 此処まで熱烈な求愛をされて、断るのも気が引けた。相手は子供だし、条件も無理のない物だったので安易な気持ちでサフォムは了承した。

「本当か?よし!絶対にYESって言わせるからな!」

 意気揚々と、ウィザーズは立ち上がり部屋の中を徘徊し始めた。どうやら嬉しくて、何かをしていないと治まらないらしい。ただ部屋の中を歩き回るだけでも、心を落ち着かせるためには有効らしいと、サフォムは笑った。

Force of Midy Top / Next