Chapter 2-3 : 攻防と奪還
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ウィザーズ達を送り出してから程なくして、敵兵が城の中になだれ込んできた。広い所では不利なので、セライドとバルドは上へ上がる階段まで下がった。エルフの造り出す金属で鍛えられた剣は細身で軽いが、セライドは自身が重い鎧をつけている。片腕のバルドを庇って、セライドが一人で闘っていたが、やはり体力の消耗が激しく息が上がってきた。
「セイ殿!そろそろ儂が代わろう!」
「まだ大丈夫だ、ぎりぎりまで俺が相手をする!」
「けっ、頑張るじゃあねぇか。いいなぁ、若いってのはよ。だが、若いだけじゃあ、戦場にいる資格はねぇよな」
操られている兵士達とは明らかに違う、機敏な気配が兵達の間を縫ってセライドに近づく。危うい所でセライドはその剣を受け止めたが相手、三十半ばの屈強な男は余裕の意味でか、微笑む。傭兵風の装備と雰囲気。更に剣に力を込められ、セライドは押される。
「くっ!」
「セイ殿!儂が代わる!」
「その方が良さそうだな。退場してもらうぜ、若造!」
力任せにセライドの剣は払われる。セライドは後へ倒れた。
「つっ!」
「お前等は手を出すんじゃねぇぞ!」
倒れたセライドを庇い、バルドが前に出て剣を抜いた。実際にバルドが戦っているところを見るのは、これが初めてのことだった。セライドはバルドの素性を知らない。知っているのは、ウィザーズと親しいということだけ。
片腕で軽がると背丈ほどもある太刀を抜く。相手の男も剣を構えなおした。海上戦、つまり船の上の甲板で海賊が好んで使用する、幅広で短い剣を二振り持っていた。狭い甲板でより効率的に戦闘をするための剣であるが、陸上戦にはあまり用いない。それを好んで使っている男を、バルドは城にいた頃耳にしたことがあった。
「儂の名はバルド。お主は?」
「オズリックだ。狂豹のリック。通り名だが、俺はそれが気に入っているんでな、本名ではあまり呼ばれない」
「このような場所で会うとはな。互いに戦場へは顔を出すべきではない年ではないか」
バルドが言うと、オズリックは苦笑した。
「片腕を失ってから、弱気になったか?フォリンの闘神とまで言われたあんたが、随分と落ちたもんだな」
「…くっ、お主の言い分は最もだな。しかし、侮辱されて黙っているほどには落ちてはいないぞ!」
バルドの声は、地を揺るがさんばかりに響いた。
「おもしれぇじゃあねぇか。そういうのは言葉じゃなくて態度で示してもらうぜ、バルド!」
オズリックは二振りの剣を連続してバルドに叩きつけた。バルドはそれを太刀で防いだ。オズリックは、セライドをなぎ払ったことで分かるように、かなり強い力を持っている。片手のバルドを気遣って、セライドは加勢しようとして身を起こした。しかし、他の兵達に動きを阻まれてしまう。
オズリックの予想以上に、片腕のバルドは強かった。大振りの太刀を扱う割には、動きに俊敏さがある。オズリックが幅広の短い太刀を使うのには、動きやすさを重視していることが理由として上げられる。間合いが取れないこともあるが、それは長年の傭兵生活で養ってきた技術でカバーできる。また、彼は接近戦が得意であったのだ。それを考えると、なかなか間合いには入れないバルドの太刀は、彼にとって少々やりにくいものであった。騎馬兵として名を挙げたバルドが、これほど歩兵戦に強いとは思わなかったというのが正直な所である。しかも、聞いた話が間違いでなければ、バルドは右利き。利き腕を失った彼は、今左腕で剣を振るっているのだ。
腕を失ったのが三年前…。
三年間で逆腕を鍛えやがったのか。
「…すげぇぜ。何としてでも決着をつけたくなった」
バルドの方も、オズリックの強さを感じていた。騎士の戦い方とは違う、傭兵の戦い。荒く強い力と、豹のような身のこなし方。通り名が狂豹なのが分かった気がした。久しぶりの戦い、久しぶりの強敵に、バルドの心が熱く燃え上がった。しかし、そんな心地よい感覚を破った者があった。
突然響く、ウィザーズの声。それは彼の口から発せられたにしては上等な言葉だった。口調がいつもと違い、バルドとセライドは思わず動きを止めた。何処から発せられているのか分からないその声に、オズリックも剣をおろして、その声が言わんとしていることを理解しようとした。
「ウィザーズ様…」
「何言っているんだ…?あいつ」
そう言いながらも妙な不安が胸中に広がる。ミディクを発つ時にも妙なことを言っていた。何よりも口調がいつものウィザーズのもので無く、改まってもこんな物言いはしないはずだった。目の前の兵がうっとおしく思われたが、先程のウィザーズの言葉が思い出されて魔法を使うのはためらわれる。
「良く分からんが、お互いのんびりしている状況ではないらしいな」
オズリックは再び剣を構えた。
「オズリック!退くわよ!」
「何だと?ふざけるな、決着がついていない!」
「また機会をあげるわ!乗りなさい!」
魔獣に乗ってきたカミーラが叫び、後から別の魔獣乗った男も来る。ちっ、と舌打ちをしてオズリックは床を蹴ってカミーラの後に飛び乗る。
「ひとまず決着はおあずけだ、バルド!」
窓を破って二匹の魔獣は城外へ飛び出して行く。同時に兵達も糸が切れたように次々に倒れた。バルドは追うか追うまいか一瞬戸惑ったが、セライドが力なく壁に寄りかかったのでそちらに駆け寄る。そして間もなく階段の方がバタバタと騒がしくなる。
「セイ!バルド!無事か?」
「ウィズ…」
「ウィザーズ様…。先程のは…?」
「あ、あれか?あれは白竜が俺の口使って喋ってたんだよ。こっちまで聞こえてたんだな。それより、大分疲れているみたいだけど、大丈夫か、セイ」
台詞が要約されすぎているのと、全く違う話題へ飛んでしまうウィザーズの喋りは良く理解できない。セライドもバルドも呆然としてしまう。アトレがウィザーズの台詞にうんうんと頷いているがどうも彼がやると、うさんくさい。サフォムが降りてくると、ほぼ同時に城に碧色の服を着た部隊が入ってきた。サフォムと言葉を交わしていた男が、一人前に歩み出た。サフォムはウィザーズの腕を引いて、男の前に連れて行く。
「何だ?」
「王子、紹介しましょう。バイオス国王の甥で、新しく国王に迎えるつもりのスタン=ヌヴァズ=バイオスです」
サフォムが紹介した男は、ウィザーズと同じような茶色髪の美丈夫だった。
「サフォムから話しを聞いております。この度はバイオスのために戦って頂きありがとうございました、カトラス王子。本来戦わなければいけなかったのは私なのですが、国外追放されていたものですから、情報が届きませんでした」
「いや、元はといえばフォリンが侵略したのだから、俺が押さえて当然の戦いでした。被害も大きい。申し訳無いことをした」
「人は負の行いがあってこそ成長するもの…。この国にとって生まれ変わるための戦いだったのでしょう。本当に、感謝しています、王子」
サフォムがウィザーズに向かって深く一礼した。スタンが大きく目を見張ったのに、ウィザーズは気付かなかった。
「残るのか、サフォム」
「はい、とりあえず正式にスタンを王位に就かせなければいけませんし。全てを知っているのは私だけです」
「そっか、分かった」
明るい表情を見せながらも、ウィザーズは肩を落とした。サフォムはふっと笑い、ウィザーズに自分の剣を差し出した。
「…これを、王子」
ウィザーズはきょとんとした表情でサフォムを見返した。
「先程折れたこの剣と交換です。この先丸腰では辛いでしょう。私には予備の剣もありますしね」
「なんだ…」
騎士のように剣を捧げて忠誠を誓ってくれるのではないかと思ったウィザーズは苦笑した。
「ふふっ、まだ剣を捧げるとは言っていませんよ。私は今だ一人の人間に仕えようと思ったことはありませんから。でも、返して頂きますから、それまでどうかご無事で」
「あぁ、勿論だ。ありがとう、サフォム。行くぞ!いそがないと置いて行かれる!」
「…何に?…」
「行けば分かる」
頷いてセライドは寄りかかった身体を起こし、駆け出そうとするが思いに反して体がふらつく。ウィザーズが振りかえってセライドを見つめる。セライドは初めて足の痛みに気付いた。戦っている時は夢中で気付かなかったが、オズリックに突き飛ばされた時に足を痛めてしまったらしい。
「…大丈夫だ、行こう」
「何が大丈夫だ。足痛めているな、お前」
アトレがしゃがんでセライドの足に触れる。
「何を…、アトレ!」
アトレはセライドの腰に腕を回し、そのまま肩に担ぎ上げた。
「俺が連れて行くわ。さっさと行け、少年」
ウィザーズは自分がセライドにそうされた時のことを思いだし、バルドはダークエルフの村で酔ったセライドを担げ上げたアトレを思い出した。まぁ良いかと、ウィザーズは身を翻した。サフォムが見送っているのが分かったが、あえて別れの言葉は口にしない。この剣を受け取るため、サフォムは自分を追ってくるのだから。