青学最強(バ)カップル---------------------------------------------------------------------------------
台風のような全校放送の後、広報部は青春新聞第090214号をバレンタイン前日に発行した。以下はその特集内インタビュー記事より抜粋した。
――『前代未聞のカップル誕生!』。ということで特集を組んだ今回の青春新聞ですが、ここからは不二周助君の親友である菊丸英二君に、その後のお二人の様子を伺いたいと思います。菊丸君、今日はよろしくお願いいたします。(広報部青柳)
ほいほ〜い、と。ねぇ、記事はそういう見出しにするの? 別にいいんじゃあにゃい? 正直に”前代未聞のバカップル”って書いても。(三年六組菊丸英二)
――そ、それはちょっと……。
え? 命が惜しい? 大丈夫、二人の仲を邪魔するようなことしなけちゃ殺されはしないにゃ。体育の唐松みたく、「男同士で交際なんて、とんでもない! 青学の恥だ! 手塚の留学は取り消すべきです!」なんて言っちゃうと、”ちょっとした不幸”が続く可能性はあるけどさ。
――その……ちなみに現在唐松先生の周囲に起きている”ちょっとした不幸”について、不二君はなんと?
「大変だよね。本当にちょっとしたことでも、続いて起こると気が滅入るでしょ? いくら唐松先生みたいに脳みそが筋肉でできていても、ストレスは感じるんじゃないかな。ま、人間多少ストレス感じているくらいが丁度いいって言うし……少しテンション低いくらいが僕らにとっても平和だから、しばらくこのままでもいいよね」
って言ってたな。
――しばらくこのままでも、っていうくだりが気になるところですが……。
でも実際唐松はちょっとテンション低いくらいがいいよ。もっと低くなって禿げてきたりしたら、流石にオレも不二を説得してみるつもりだけど。
――と、とりあえず、そういうことだということで、この話は切り上げておきましょう。話を変えますが、菊丸君は親友の交際についてはどう思っているんでしょうか。
あ〜、それはオレもさ、三日くらい心の中を整理する時間が必要だったよ。でもさ、オレは不二の親友だし、不二が幸せなら別に恋人が男でも女でもいいっつうか。考えれば考えるほど、不二ならありかな、と思えるわけ。どんな突飛なことしてもさ。ツバメ返しはまだしも、蜉蝣包みとか、あと何だっけ……変な名前のやつあったな。とにかくそんな技出しちゃうくらいだからさ、別に恋人が男だってそんなに驚く事じゃないよ、実際。
――菊丸君の言う変な名前のやつというのは、百腕巨人(ヘカトンケイル)の門番ですか?
あぁ! そう。それだけなんか生物? 的に想像できないんだよなぁ。百目って妖怪はいたけど、千手観音の腕が百個に減った感じなのかな。そんなわけ分かんないの技の名前にしちゃうくらい結構不二って不思議ちゃんだから、今回のもそんなに拒否感とかないし。ただな……。
――ただ?
よりによって相手が手塚だっていうところが、オレにはなんか許せないんだよね。
――そうなんですか? 交際相手としては真面目そうですし、将来の収入も考えるような人ですから堅実そうですが。具体的には手塚君のどこが?
具体的に言うとだにゃ。
「何が『我が侭を承知で言うが』だ! だいたい手塚って結構前から我が侭だし、自分勝手で体固いし眼鏡だし!」
っていうところ。
――あの……それは不二君に怒られませんでしたか?
いや?
「最後の方は関係ないんじゃない?」
って、不二は面白そうに聞いてくれたけどね。嘘は言ってないだろ? 手塚の場合は我が侭っていうかさ、自分を通しすぎって感じかな。氷帝戦とか、決勝の立海戦とか見てても、そう思う。全く自分のため、ってわけじゃあないんだろうけど……でもこっちが何言っても折れないんだろうから、手塚が好きで見ている人間なら、そんな立場って苦しくない?
「不〜二! 俺は心配してんの。男同士だって不二が幸せなら俺はいいと思うけど」
本気で言ったら、不二も分かったのかすごく嬉しそうに笑ったよ。
「ありがと。だから好きだよ、英二」
「にゃ〜、俺も好きだよ、不二。……って、だから! 手塚は融通利かないし、気も利かないし俺様だし! 苦労するよ? そもそも自分から告白しといて、春にはドイツ行っちゃうんだぜ? 本当にいいの?」
オレが一番引っかかるのはそこなんだよな。いま二月だぜ? あいつはもう三月の半ばには留学するつもりだってことだし、二人ラブラブできるのも一ヶ月あるかないか? 自分で告白しておいて、手塚の奴不二を日本に置いて行くんだぜ? 不二は追いかけて留学ってことは考えてないみたいだし、特に手塚からも一緒に留学しようって話は出てないみたいだし。……なんかムカつくじゃん。そんなら好きだって思っても、あんな風に告白しなきゃよかったんだよ。オレだって実際に付き合ったことなんてないけど、きっとまだ四六時中でも一緒にいたい、って思うような期間だぜ? それなのに離れるなんて、さ。
しかもしかも! 日本じゃあなくて海外、ドイツだぜ? 遠いなんてもんじゃないじゃん! 手紙書くにしたってエア・メール。電話するにしたって、国際電話になっちゃうんだから!
――確かに、中学出てすぐの僕らにはきついですよね。小遣い的にもそうですけど、精神的にも。
だろ、だろ? そりゃ、手塚も不二もオレよりはずっと落ち着いているけどさ、レンアイになれば別だと思うんだよね。でも、不二はそれでいいって言うんだから、趣味悪いよ!
「融通利かなくて、気も利かなくて俺様で。体固いし眼鏡だけど、手塚はそれでいいんだよ」
それだからいいんだよ、って顔で言うんだぜ。本気で言っているのが分かっちゃうから、参るよな。例えばオレの方が、よっぽど普通の恋人みたく、渋谷でデートして、遊園地とか映画とか一緒に見て、高校三年間でもそれ以上でも側にいて、楽しいお付き合いできるよ。結構立ち回りだって上手くやれると思うし。でも、全然上手く立ち回れなくても、デートが山登った上の渓流釣りでも、遠く離れてドイツにいっちゃっても、手塚がいいって言うんだもん。
「だって、手塚は僕の王様だもの」
なんて言うんだもん!
それ以上何が言えるってのさ。確かに王子様って顔じゃあないから――外見的に――王様だよね、とでも言えっつうの? 俺様でグラウンド百周! とか言い渡しちゃう姿はまさに暴君だよね、とか? 思ってても言えるわけないじゃん!
とにかく! 不二にとってあの仏頂面の男は王様なんだって! その表現にどれだけのもんが詰まっているか、口では説明できないんだよ、きっと。オレも聞いててそう感じたもん。とにかく、不二にとって手塚はほんとに特別なの。あの告白前から、不二の方は手塚を好きだったみたいなんだよね。それで、留学話があって離れちゃうことだし、最後のバレンタインになるかもしれないから潔く、って思ってたみたいなんだ。結構悩んでたんじゃないかな。そんな時、手塚がインタビューであんなこと言ったもんだから、男らしく当たって砕ける覚悟して。予想外に手塚の方から告白されて、ほんとに嬉しかったみたい。
「いっそその身ひとつで行ったほうが潔いって、手塚が言った時に、思ったんだ。じゃあ、僕も最後に潔く玉砕するべきかなぁって。だから、手塚が教室に来てくれた時は凄く嬉しかった。告白も……やっぱり本当は、手塚の方からして欲しかったし……」
って語尾を小さくしたと思ったら顔真っ赤なんだぜ? 何なに? あの場であんだけ黒く女子を牽制しておいて、今更そこで照れちゃうの? か〜わいいにゃー。なんて。あぁ、もうあの笑顔でオレは全女子生徒を敵に回してでも不二を守っちゃるって思ったね。え? 騙されてるって? あー、否定はしない。でもな、分かれよそこは男としてさ。騙されたいの。ルパンが峰不二子に何度騙されても、不二子を許しちゃうのとおんなじなの。
――な、なるほど。不二、子ですか……。
そ、黒いところも相変わらず健在だけど、最近隠しもせず真っ白笑顔全開でさ。そんな顔させてんのが手塚かと思うとやっぱりイラッとするけど、一番は不二が幸せなことだからね。心ない事言う奴には、オレからも鉄拳制裁いくから、そこんとこヨロシク。ちなみに大石もようやく吹っ切れたらしくて、今は手塚の方を熱心に応援してるから、ブッラック大石出さないように気をつけた方がイイヨ。
――き、気をつけます。最後に、十四日の二人の予定をご存知ですか?
全校放送した通り、チョコレート買いに行くってよー。もちろん二人で。学校帰りは手塚が嫌がるから、一旦家に帰ってから着替えて行くって。どこの店とは聞いてないけど、ゴジラに蹴られたくなかったら駅前の百貨店辺りには出没しない方が身のためだにゃ〜。
――貴重な情報ありがとうございます。当日は電車でなくてバスを使って帰ることにします。最後に、この記事を読んでくださっている青学の皆に一言お願いします。
女子生徒諸君はバカップルのことはテレビの向こう側くらいに諦めて、バレンタインはもっと近くの男を見てやってよ。案外いい奴いるかもよ? 男子生徒諸君は手塚を見習って、女の子待ちなんてことしないで自分からいくんだね。先生達は中学生の恋愛をもっと大人の余裕で見守って欲しいにゃ。
……なんて、偉そうなこと言ってるけど、オレもチョコ食って恋したい! 大石〜、今日は乾とタカさん誘ってチョコパ食いに行こーぜ! 独り者だって、チョコの甘さは味わえるんだからにゃ〜!
――と言って、菊丸君は教室を飛び出して行ってしまいました。それでは皆様、広報部より愛を込めて。
Happy Valentine!!