携帯電話に向かってはい、はいと事務的口調で隠岐が声を返している。ひっく、としゃくりあげながら神無はそれを見上げた。最後にお気をつけて、と言って切る所から察するに穂が何処かへ出かける旨を連絡してきたのだろう。電話を切って先程までしていた作業を続けると隠岐はコンロにかけていた鍋の中身をカップに入れて神無に差し出した。
「?」
「バターミルクだ。勝手に使ってしまって悪いが、これを飲んで落ち着くといい」
「‥‥ありがと」
笑おうとして涙が溢れたそうになったような顔をして神無はカップを受け取った。まだ熱い中身に息を吹きかけながら少しずつ飲み下していく。それを見やりながら隠岐は神無の脇に腰を下ろし、先程までしていたように片手で頭を撫でる。
「ごめんね、隠岐さん。俺昔すげー泣き虫でさ、見かねたじいちゃんが友達の師匠の所へ通わせ始めて、もう直ったと思ったけど、まだダメだ」
「‥‥君は強いさ。泣いて、涙さえ消化して全て前に進む力に変えられる。私とは違う‥‥」
「‥‥隠岐さんの、弟の事?」
「!!」
「あ、ごめん。言わないって言ったのにね‥‥」
止まったまま隠岐の顔が、何故?と言うように神無の顔を覗く。『傷』のことは自分の態度で悟ったのだろうと思っていた。弟がいた事など、神無はおろか馨だって知らないはずだ。それを察したのか神無は苦笑して見せ、口を開いた。
「やっぱ半分っきゃ分かってなかったね、隠岐さん。見鬼ってのはね、人によりけりだけど俺は見ようとすりゃ人の心の奥底だって見通せるの。幽霊も生きてる人間も変らないんだよ。器って障害があるかないかの差だけ。今はもちろん霊力封印してるから見えないよ。けど今朝、カノウの事霊視(てた時、隠岐さんの弟を思う気持ちがあんまり強いから霊視(えちゃって‥‥。ごめん。あーやっぱやたら使うもんじゃないよね、霊力(って。人の傷を、土足で踏み躙っちまう‥‥」
「‥‥君に弟を重ねてしまっても、君の事を心配しているのは本当だ。傷付かないで欲しいし、無事、平穏を取り戻して欲しい」
「うん‥‥ありがと、隠岐さん」
「君の言う霊力(の事はやはりまだ理解できない。けれど、視(たくない物を視(て、聴きたくない声を聴いて、最初私がしてしまったように奇異の目で見られて、関わりたくない物にまで関わって‥‥。それは辛い事ではないのか?‥‥」
「ん〜『人と違う事』が辛いかどうかは人それぞれじゃん? 俺の場合は封印してるし、ガキの頃から『普通に振舞う』ことには慣れてたし、気付かれた事はないね。自分で教えた事はあるけど。隠岐さんが心配してるのは、カノウの事?」
沈黙をもって隠岐は答える。やはり聡い子だ、思うが自分の態度があからさまなのかもしれない。今此処で話題にするには妙な話だ。けれど、穂はいつだって自分に理解のできる、いや自分は穂を理解してきた。いつだって隣に寄って理解し、支えてきた。けれど、此処半年の穂は違う。突然大学を辞め、祓い師などという物を始めてしまった。過保護な両親は何も問わず穂の好きにさせたが、隠岐には穂がひどく変わってしまった、理解できぬ存在になってしまったような気がしていた。普段の穂は何一つ変わらないのに‥‥。
「カノウが変わったような気がして、怖いの?」
「! ‥‥ああ」
「変わってないよ、カノウは、何一つね。それにカノウは俺の何倍も上手だもん。耳元で怒鳴られたって目の前うろうろされたってさらっとした顔で全然気付かない振りもできる。だから、全然大丈夫。なんてーか隠岐さんの戸惑いは思春期になった子供の親と一緒」
「‥‥。それはどういう‥‥」
「『弟』が突然自分の手の届かないような、『大人』になったみたいで怖いんだよ。でも弟は何も変わってない。ただちょっと秘密を作って、大人になった気分になってるだけって言ったら分かる? 霊力(に関しては何の心配もしなくて大丈夫。カノウはへらへら笑ってかわしてける強さと経験があるから、俺みたいにつまづいて泣いて這い上がってく奴とは格が違うの。だから隠岐さんはいつもと変わらずカノウに世話焼いてればいいんだよ。カノウも、そんな隠岐さんを望んでる。全てを理解する事が、愛情じゃないよ。全てを理解したいと思うのは、相手を独占したいって事と同じだよ」
何故自分はこんな子供に諭されているのだろう、とふと我に返る。先程までは確かに自分が『慰め役』だったのだ。やはりこの子は少し違う‥‥。けれど、違うと思われる事をきっと本人は望まぬに違いない。黙って、その言葉を飲み下し、素直に己の糧としよう。
「なんてね、俺って生意気?」
「いや‥‥ありがとう」
「‥‥隠岐さんもやっぱりちゃんと笑えるんだね〜って、あ、気に触ったらごめんね。なんてーかこう、いつも物事真剣に考えてるって言うか、世の中に一線置いたような顔してるじゃん?」
「‥‥そうか?」
「そうなの! 若いのに眉間に皺寄せてちゃ駄目だぞ! かっこいいし、気配りだって抜群なんだから彼女だってすぐできるだろうし‥‥。弟君の冥福だけじゃなくてさ、そろそろ自分の幸せを願ったって、弟君は許してくれると思うよ‥‥」
誰であったか、昔同じ事を自分に言ってくれた。その時の自分は自分をまだ許せなくて、ただ、力無く笑みを浮かべた。それは、どんな力強い否定よりも強い否定。そして、今もまだ許せない。だから同じ笑みを神無に向けた。
「そう‥‥。まぁ隠岐さんがそう決めたなら俺がとやかく言う事じゃないけど。‥‥でも!弟君もカノウも羨ましいな!」
「‥‥。何故?」
「‥‥。笑われるから、言わない‥‥」
「私がそう簡単に笑わせられるような性格に見えるか?」
「‥‥、‥‥。俺‥‥さ、隠岐さんみたいな『兄さん』が欲しかった‥‥。だって俺の『兄さん』ってあれだよ!? 馨!! ったく、がさつで初めて会った時まじ殴りしやがったんだ! おまけに蛙とか蛇とか嫌がる俺に押し付けるし! あっ!やっぱり笑ったじゃんか!!」
悪い、と言いたかったがそれよりも笑いが込み上げてきて笑い声以外は隠岐の口を出なかった。声をあげて笑う隠岐に拗ねた視線を注いでいた神無はぷいっと顔を逸らす。それでも隠岐は自らの感情を押し殺すまでにたっぷり一分は要した。
「わ、悪い、神無君‥‥あまりに意外な答えで‥‥」
「悪かったな! 隠岐さん馨と反応おんなじ!」
「でも‥‥」
――‥‥は君とは似ても似つかない性格だった。痛みも涙も全て飲み込むくせに、消化しきれずためてしまう――
「だから、もし‥‥」
――私にも幸せを得る事が許せる日が来て、誰か、こんな私を許してくれる女性がいて‥‥。もしもその女性との間に子供を設ける事を許されるなら‥‥――
「子供は、君のような子がいい。泣きながら這い上がって、涙で傷を洗い流して歩いていける、そんな強い子がいい‥‥」
それ誉めてんの?‥‥と言いかけて神無は口を閉じた。隠岐の腕が神無の体を抱き寄せ、縋るように頭に自分の顎を乗せる。例え彼がそこに見ているのが亡くなった弟でも、構いはしない。一時であっても、今は彼の支えに成ろう‥‥。そっと目を閉じて神無はその胸に顔を埋めた。その頭が、不意にはっとしたように跳ね上がる。
「神無君‥‥?」
驚く隠岐を残したまま神無はばたばたと縁側に走っていった。その傍の柱に身を隠しながら伺うように外を見る仕草に、思わず隠岐も足音を潜めて柱の影に寄り添った。
「どうした?」
「父さんだ‥‥。帰って来た」
緊張した声色で神無はそう告げた。視線の先を見やると確かに、男らしい人影が境内を離れの方へ歩いて行く。その男が何かを抱えているような気がして隠岐はさらに目を凝らした。
「離れに行ったらしばらく出て来ないと思うから、カノウと馨の帰りを待っても良いよね?」
「何か、抱えていないか? 人のような‥‥」
「!まさか‥‥。小夜子さん!? あれ‥‥小夜子さんに似てた! 確かめなきゃ!‥‥」
「早藤さんに? 待つんだ!神無君! 彼女は事務所に居るはずだ。出かけでに鍵もかけたし‥‥とにかく穂様に連絡を‥‥」
携帯の着信を告げる軽やかなメロディ。流行の外れた曲にすぐさまお前だろ? と馨の視線が向いて穂は苦笑しながら携帯電話を取った。着信は隠岐からだ。本をめくる手を休めぬまま穂は緑のボタンを押して耳に当てる。
「はいはい♪穂クンでっす! どうした?隠岐」
『穂様! そちらに早藤さんはいらっしゃいますか?』
「小夜子さん? 靴があったからまだ眠ってるんだと思うけど?」
『代わって!隠岐さん! 部屋もちゃんと確かめて!早く!』
「神無? どうしたのさ、そんなに焦って。馨クン」
視線を向けると気だるそうに立ち上がって馨は穂の部屋のある四階へ上がっていく。馨の読んでいた本のページが戻らないように押さえながらどうしたの?と再び穂は神無に尋ねる。
『父さんが帰って来たんだ! それで‥‥誰か女の人を抱えてた!』
「それが小夜子さんに似てたって? 大丈夫だよ、帰って来た時だってちゃんと鍵かかってたし‥‥」
「穂! 小夜いねぇぞ!?」
「え!?」
『居ないんだな!? やっぱり‥‥。カノウ!俺今から離れに行って父さんを止める! だからなるだけ早く来て! じゃあ!』
「待つんだ神無! 神無!! ‥‥切っちゃったよ‥‥あの子はもう! 馨クン本持って! すぐに戻るんだ! あいつはあの子の手には余る‥‥」
「お、おう‥‥ !! あっ!あったぞ!穂!」
ドアに向かって駆け出していた穂はその重苦しい辞典を放り出して馨の方に駆け戻った。焦る気持ちとは裏腹に、冷えた頭がその内容を読み辿っていく。読み終わって、一つ微笑。それは勝利を確信した微笑だ。そして今度は馨に声をかけることなく飛び出していく。
「隠岐さんは此処に残って、危ないから」
切った電話を押し付けながら神無はそう言って玄関の方へと身を翻す。が、いとも簡単に手を伸ばして隠岐はその肩を手繰り寄せた。
「わわっ!隠岐さん!?」
「一人でどうやってあの一階を抜けるつもりだ?神無君。それに、君じゃ早藤さんを連れて逃げられないだろう?」
「うっ‥‥でも」
「私は穂様をお守りするのが役目だが、その役目の中には穂様が好意を寄せる女性をお守りする事も入っていると思うが?」
「‥‥分かったよ、俺の負け。でも絶対忘れないで! あいつは俺の事は殺せない。でも小夜子さんは容赦なく殺すよ! だから、俺が捕まっても、小夜子さんだけは連れて逃げてね?」
頷く隠岐を認めて神無は今度こそ身を翻して走り出した。下駄を不完全に引っ掛けて離れへと失踪するが父親の姿はない。神無達が穂に連絡して一悶着している間に中に入ってしまったのだろう。ドアはやはり開けっ放しのままになっていたので隠岐の手を借りて一階を抜け、二階への階段を上がる。静かに階段を昇り切ると二人はドア越しに中を覗き込んだ。
「! 居ない‥‥」
「気配もしない‥‥。そんな、父さんはともかく、小夜子さんまでどうやって‥‥?」
「私が先に入る。異存はないな?神無君」
「嫌って言ってもどいてくれないだろ?‥‥。お願い、隠岐さん」
勢い良くドアを開いて隠岐は部屋に駆け込み、格闘の構えを取ったままさっと部屋の中に視線をめぐらせた。その後から同じように神無が飛び込んできた。が、父親と小夜子の姿は何処にも見当たらない。それどころか水槽の中の死体も綺麗になくなっていた。
「死体がない‥‥? まさか、こんな短時間で‥‥」
「良い器が手に入ったからね。もう半端物には用はないんだ」
「! 上だ!神無君!」
隠岐の声にか反射的に神無は上から降って来た男をかわした。隠岐はその神無の腕を掴んでドアの方に押しやろうとしたが先程入ってきた入り口はいつの間にか壁に変わっていた。
「!? 何‥‥」
「どういう事‥‥?父さん。小夜子さんをどうしようって言うんだ!」
「お前の母さんになってもらうんだよ。いろいろ母さんのパーツを集めたがどうにもうまくいかない。けれど彼女は『母さんそっくり』なんだろう?神無。神無がそう言うならきっと完璧な母さんになれる」
「はっ‥‥それが望みか。母さん母さん、結局あんたは母さんの幻影から抜け出せない。いいか!母さんは死んだんだ! キメラだかなんだか知らないがそんな物造ったって所詮偽者に過ぎないんだよ! まして小夜子さんは母さんじゃない! 小夜子さんの魂(は母さんに似ているけど母さんには成れない!」
「なんのためにお前がいるんだ?神無。そのためにお前を生かしているんだろう?」
「!」
男の手が伸びて神無はびくっと後ず去る。けれど何かに気付いたのか一度逸らした視線を再び父親に戻す。隠岐も先程神無が見ていた方を見やった。祭壇のような血塗られた石の向こうに女性らしい裸足が覗いている。小夜子だろうか?
「そうだ、良い子だね?神無。お前は本当に良い子だ。母さんを生き返らせる『声』も、母さんと同じ金目も、ちゃんと母さんのために使ってあげるよ」
「!神無君!?」
「隠岐さん!約束だよ!! うっ!‥‥」
「おやおや?何の約束かな? 心配しないでも母さんに成る彼女以外は必要ないよ。もちろん生きてさえいれば神無、お前の器だってどんなに傷物でも、構わないんだよ?」
振り返って戸惑っている隠岐の前で男は神無に手を伸ばし、その首を両手で締め上げた。父親に取り憑いた者のせいで身動きが取れないというのは本当のことらしく、苦しそうな顔をするだけで神無はもがきもしない。約束通り小夜子を助けに行かねば、と頭の中では思うが急激な眩暈に襲われて動くに動けない。
「おやおや、思い出させてしまったかな? いつも母さんにされていたんだものな、君も、弟君も‥‥。他には何だったっけ‥‥。そう、床に放り投げられて」
「うわっ‥‥」
「‥‥やめろ‥‥」
「思いっきり腹を踏み付けられたんだったかな? 痛かったな、でも声を出すとお母さんは怒るから、神無みたいにこうやって声を殺して耐えていたんだよな。さぁどうする? 早く助けないと、弟君のように死んでしまうぞ?」
「隠岐さん!約束! 俺の声だけ聞いて!隠岐さん! 俺はへーきだから! 小夜子さんを助けるんだ!穂のために!!」
「‥‥悪い!神無君!」
二度も『弟』を殺されて黙っていられる程忍耐力の強い人間ではないのだ‥‥。男は隠岐に比べればずっと細身で武術の心得もない。思いっきり蹴り飛ばして神無を引き起こすつもりだったが予想外に男は隠岐の足を掴んだ。そして軽々と弾かれ、受身を取ろうとした隠岐に物理的なものとは違う重圧がかかって強かに全身を床に打ちつけた。
「うっ‥‥」
「隠岐さん! 駄目だ逃げて!」
「邪魔は許さない。何の力もないくせに‥‥ それとも、昔みたいに痛い目に合わないとお父さんの言う事も聞けないのかな?」
背中に男の片足が乗り、片腕が後ろ手に持ち上げられた。体中が得体の知れない警告を発する。けれど体は動かない。男がもう片方の手を添えて隠岐の腕にあらぬ方向に力を加えた。鈍い破壊音。労する事無く、まるで割り箸のように隠岐の腕はへし折られる。隠岐さん!と神無の泣きそうな声が聞こえて隠岐は反射的に声を殺した。
これが‥‥穂様の居る世界? こんな不可解な恐怖と絶対的な力の差がある世界‥‥? 私は、また誰も守れないのか‥‥!?
「余計な運動をした‥‥。待たせたね、神無。さぁ母さんの所へ行こうか」
「離せ! 母さんは何処にも居ない!誰が行くもんか! 隠岐さん!」
涙声が彼を呼ぶ。応えようとして視線を上げると神無は父親の肩に担ぎ上げられ、祭壇に乗せられようとしていた。痛みよりも全てが麻痺した右腕は無視して隠岐は左腕だけで上半身を浮かせ、追おうとした。けれど神無が祭壇に捧げられ、魔方陣が闇を放出するとその闇に飲まれ、気が遠くなっていく‥‥。
息を切らせて駆け込んだ部屋では隠岐が気を失って倒れていた。予想外の事に少し躊躇いつつも穂は隠岐に駆け寄って肩に手をかける。馨は祭壇の向こうに女性の足らしき物を見つけておそるおそるそちらに歩み寄って行った。
「隠岐! 大丈夫か!?隠岐!!」
「うっ‥‥。‥‥穂様‥‥?」
「何があった!? 神無は?」
「! 神無君!?」
がばっと身を起こして隠岐は辺りを見回して馨が歩み寄っていた足を見つけて顔を強張らせる。が振り返った馨はうえっと下を出しながら手の仕草で否定した。
「多分水槽に入ってた死体だ。神無でも小夜の物でもねぇ」
「!隠岐! 右腕、折れてるのか!? 早く救急車を‥‥」
「私の事は後回しです! それよりも神無君と早藤さんを‥‥。神無君の父親は神無君の力と早藤さんを使って亡き妻を造ろうとしているんです‥‥」
「‥‥。肝心の神無は、何処だよ‥‥」
「神無君がその祭壇のような物に乗せられて、床の模様が黒く光ったのは覚えているのですが‥‥」
「! なるほど、入り口の鍵、生贄は神無の事だったんだな。確かに、あの子は神の遣いと言っても良い。万魔殿の本体は、この下だな」
そう言って穂はおもむろに床を叩いた。こつこつ、と変わり栄えのしない音がする。今度は目を閉じて手を当てた。穂の霊視スタイルなので馨は邪魔をさせぬようしっと隠岐に合図した。
「上からは破れないな‥‥脇は油断してそうだけど‥‥。でも、二人ともまだ無事だ。馨クン、隠岐、下に下りて横から壁を崩そう」
「壁を? しかし、私の腕はこの通りですし、体当たりして壊せる物ですか?」
「例の芸術品と棚をどけてくれれば僕が何とかする。どっちにしても結界があって物理的には壊せないし。とにかく急いで!」
神無の父ごときに腕を折られた身では笑う気にもなれず隠岐はあっさり引き下がって階下へ降りた。そして先に下りていた馨がこの辺でいいか?とホルマリンのビンを床に乱雑に捨て去っていくのを片手で援護した。ホルマリンの異臭が鼻を突くがこの際文句は言っていられない。最後に棚をどかすと穂が下がってて、と二人に指示して右手を突き出し、左手で支える構えを取った。
「我が右手に宿れ怒れし神よ! 我が前に太刀守 神無へと続く道を示せ!」
Back/Next