リーマスはあの手紙を出してから、ずっと後悔していた。学校を離れた元教師を、わざわざ心配させるような手紙を出すことはなかったのではないだろうか。何よりもあんな、言葉を覚えたての子どものような、内容のない手紙を。送った学校ふくろうが再び空に現れるのを待つ間、リーマスはずっとそのことで胸を痛ませていた。そして4日後にようやくふくろうが現れた時、その嘴に教師からの返事の手紙が咥えられているのを目にして、叱責の言葉を覚悟しながらその手紙を開いたのだった。
恋問答
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まずは君があの手紙を読み返さなかったことに感謝しよう。もし読み返していたら、君のことだから自分で羊皮紙を燃やしてしまっただろうね。だが私はそんなことしなかったし、する必要もないと思ったよ。支離滅裂だとは思わなかったし、君はきちんと言いたいことを言っていたと思う。だから恥じる必要はない、ということを初めに言っておきたい。
さて、どの話題から返事を返したら良いだろうね。順番に行こうか。
まず私はアイルランドを離れて、途中インドへ寄ってからチリに無事着いた。何故チリに行こうと思ったのか話したかな? 実はアルバスに呼ばれてホグワーツに行く前にも、私はチリにいたのだ。インカの遺跡を回っていたところだったのだよ。勿論マグルが観光するような表向きの遺跡もだし、魔法使いが訪れる隠れた遺跡も併せてね。アルバスの使いを優先したので、それが途中になっていたのだ。あと半分はあるかな。今度は最後まで回れると思うよ。流石にローブでは動きづらいので、もっとラフな格好だ。マグルに見られても観光客としか思われないだろう。しかし標高が高いので、幾分厚着ではあるね。私は徒歩での移動が好きだから、魔法を使っての移動は極力避けている。君には想像できないかもしれないけれど、私は結構冒険家なのだよ!
次は、ジェームズ達の話かな。確かに、ジェームズとシリウスは自分達のこと以外には無頓着な面がある。2人の友人である君が、それを不満に思ってしまうのも当然のことだと私は思うよ。そしてその間に入り込みたいと思う君を、欲深いとは思わない。でもね、リーマス。私は彼らの間に君が入り込む余地は、他の人に比べて断然大きいと思っている。彼らはしっかり君が間に入る余地を残しているし、多分君が入り込んでくるのを待っているのではないかな。これはピーターにも同じように言えることだ。君があの手紙に書いたようなことを彼らの前で言ったら、彼らは笑って君を歓迎するだろう。君はそれを少しずつで良いから、行っていくべきだよ。何もあの時のように、すべて突然で、一気に行うことはない。そんな機会を待つこともないよ。君達はもう友達なのだからね。
まず君が彼らに尋ねなければいけないことは「君達は僕が我がままになったと思うか」ということだと思う。リーマス、自分が他人に寛容になれる、その半分でいいから、自分にも寛容になりなさい。今の君は、自分のほんの小さな要求に対しても、それが我がままだと思ってしまっている。確かに、それは彼らや私を悲しませる行為だよ。周りに対しての度を過ぎた要求は、確かに罪だ。しかし君はその限界をわきまえているし、正直君がどんなに頑張っても、その限界まで辿り着くことはないだろう。君はそういう人間だし、私はそれを嬉しく思っている。
さて、次はもっと大切な話だね。“恋”についての話だ。リーマス、白状しよう。私はホグワーツを去る時、君達がこのことについて心悩ませる時が来ると知っていた。君達は修道院に入っているわけではないし、両親と離れて過ごしているのだから、余計だろう。でも、私がいなくても君達はそれを乗り越えられると思ったよ。
そうだな、まず君は無理に周りに付いて行こうと思わなくて良いと思う。どうやら君が言ったように、君は人狼ということを抜かしてもこの話題に付いて行くことが難しい性格なのだ。興味が無いのならそのままで良いと思うし、それについて他人に遅れることを心配する必要はない。元々恋愛感情は、自然に抵抗なく始まる友情と違って、自分で強く意識しなくてはならない感情だし、意識し始める時期には個人差があるものだからね。
あぁ、でも君が急ぎたいと思う理由も分かるような気がするよ。ジェームズとシリウスの会話を聞いても、彼らが君以上にこの話題に真剣なことが分かるからね。置いていかれるような気持ちになるので焦っているのだろう? 君はその夜の議論に参加してみるべきだった。とても有意義な時間になったと思うよ。あの会話で、恋について定義していたのはどちらだと君は思う? 逆に恋を知っていたのは? リーマス、“恋”というのは他の感情に比べてとても曖昧なものだ。人によってその定義がまちまちであっても不思議は無い。ジェームズは恋を知っている。今、リリーに対して持っている感情がそれだからだ。しかしどう定義すべきかについてはシリウスが教えてくれた。ジェームズはその定義に納得して、自分もそう定義しようと思ったのだろう。
ではシリウスはどうだろう。彼はきっと、恋を定義することから始めて、まだ恋を知ってはいないのではないかな。それは別段愚かなことではないし、そういう方法もあると私は思う。現に彼の定義に共感を覚える人間も多いのではないかな。その定義がまだ漠然とした、経験を踏まえていないものであるにしても。
ところで君は、今までシリウスと2人で何か議論したことはあるかな。以前ならまだしも、今はもう彼が怖くて話せないなんてことはないだろう? 彼と話し合うのは君にとっても、彼にとっても必要なことだと思うのだ。
これは宿題にしようか、リーマス。
彼がどうしてああいう風に“恋”を定義したのか、彼に訊いてみておくれ。
そして、これは余計なことかもしれないけれど、私のことを少しだけ話させて欲しい。私もどちらかというと恋愛には疎い人間で、この体になる前は薬のこととか、自身の病気についてで頭がいっぱいだった。だがこうして闇の住人になって有り余るほどの時間を得て、他のことを考える余裕が出来た時、私も恋をしたよ。そしてそんな私を、この体のことも恋心も一緒くたにして、受け入れてくれた相手もいた。今は流石に――他の人がどう見ようと――私自身は自分のことを老人だと――それも随分な――思っているから、こうして若い君達の悩みや喜びを見ることで満足しているけれどね。
何が言いたいのか、分かるね。私は君にもそんな出会いがあると信じて疑わない。だから、積極的になれとは言わないけれど、可能性があるという気持ちを心のどこかに置いておいて欲しい。この忠告を受け入れてくれるね? 納得できないまでも!
さて、長くなったけれど、次の手紙で君が私の与えた宿題をこなす努力をしたことが知れればと思う。勿論、ジェームズとリリーのことも楽しみに待っているよ。
説教好きの老人より
追伸
リリーに“嫉妬”したことを、正直にシリウスに話してみたらどうかな。彼にも嫉妬する理由があるとは考えなかったかい? 貴重な意見が聞けるかもしれない。
そして、アルバスの心遣いがあって君達が同室になったことは私も確信しているが、それに甘えて夜更かしするのは良くない。昼間でも議論する時間は十分あるはずだよ。これは今回の手紙で一番重要な部分かもしれないね!