僕らの恋愛事情

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 1週間が経った。僕はこの間の出来事なんてすっかり忘れたふりをして、1週間さりげなくジェームズを観察していた。クィディッチに構っていてそれどころではないと勝手に思っていたけれど、考えてみれば同じクラスの女の子だったら授業中に会えるのだ。リリー・エヴァンスは赤毛の長い髪を持つ、綺麗なエメラルドの瞳の女の子だ。マグル出身の彼女は、そんなことを感じさせないほど明朗で、成績も上昇中の才女だった。周りによく気を付け、しかし自分の意見を出し惜しみしたり曲げたりはしない性格。実はリーマスと仲が良い。でもはたから見ていて異性同士の友人に見えないのはどうしてだろう。リリーが男勝りなのか、リーマスがあまりに柔和なのか。どっちをとっても、言ってしまえばどちらかからは怒られるのだろう。だからこれも言うのは自粛している。随分我慢強くなったものだ。僕も少しは成長しているらしい。

 ジェームズは別に彼女に見とれて授業をおろそかにするとか、そんな酷いのめり込み具合ではなかった。ただ彼女の声が耳に入ると顔を上げたり、何の気なしに向ける視線の先は計ったように彼女の方だったりしているだけだ。僕はそんなジェームズを見ながら、内心では趣味の良い奴だなと思っていた。よりによってリリーを選ぶとは。少し複雑だけれど、他人の恋事情の方が楽しいのだから仕方がない。

「君さぁ」

 談話室で魔法使いのチェスをしながら、僕が呟いた。白のポーンを1つ前に動かす。

「うん」

 ジェームズは黒のナイトで白のポーンを取った。僕のポーンは、ナイトに派手に潰される。そして盤の外へ引きずられていくのだ。

「リリーのこと好きだろ」

 白のビショップが先ほどの雪辱を晴らすために黒のナイトを取る。ジェームズは何の反応も示さなかった。爆弾は不発だったのだろうか。しかし心配は無用だった。ジェームズは全く必要のない駒を動かした。僕はクイーンを使って黒のキングに迫る。

「チェックメイト」

 爆弾は静かに爆発して、ジェームズはそれによって混乱していたらしい。王手の一言で正気に戻ると、憤然と僕に抗議した。

「え? あぁ! 卑怯だ、やり直し!」
「最初からな」
「一手前からだろう。位置は覚えている!」

 僕は肩をすくめて駒を一手前の状態に戻した。

「はいはい。それで?」
「何が」

 今回は誤魔化されてやらないぞ。何と言っても、君の爆弾によって最初に被害を受けたのは僕のほうだ。

「リリーのこと」

 ジェームズは僕を小馬鹿にしたように笑った。口の端が引きつっている。この僕がそれに気付かないわけがない。

「君ねぇ。僕は彼女と直接話したこともないんだよ? それなのにどうして……」
「君がこの1週間、何をどれだけの時間見つめていたか、言ってやろうか」

 語尾をさらって言った僕に、ジェームズの顔が固まる。さて君は2年前の事を覚えているかな?

「いい、言うな」

 苦々しく言ったジェームズに、僕は勝利の喜びを噛み締める。こんな形で君に仕返しすることができるとは。

「残念。秒単位で数えていたんだぜ」
「君、根に持っているな」

 当たり前。その分感謝もしたけれど。きっと君も、これから僕に感謝することになるだろう。

「まぁね。顔が赤いぜ、ジェームズ。熟れすぎたトマトみたいだ」

 そう言ってからかうと、ジェームズは更に顔を赤くした。

「う、うるさいな」

 僕らは弱点まで互いに似ているのだろうか。一番気になる相手には、非常に奥手だなんて。違いがあるとすれば、ジェームズの感情は恋で、僕は違ったってことくらい。

「彼女、良い子だぜ。家のこととか気にしないし、はっきりしていて、聡明だ。勿論見た目も可愛い」
「見ていれば分かる」

 元に戻した盤を見詰めながらジェームズは即答した。

「そりゃ、失礼」

 野暮なことを言ってしまったようだ。ジェームズは失敗したポーンの代わりに、黒のルークを動かした。そしてもそもそと話し出す。

「何回か話そうとしたことはあるよ。でも彼女は人気者だから、いつも他の女の子が周りにいるし……。その……君みたいにうまく話せない」

 何だ、その僕みたいに、っていうのは。

「まるで僕が軟派な男みたいな言い方だな。でも、気にしすぎだろ? 別に他の子と一緒にいたって、ちょっといいかな、って言ってリリーだけ呼べば良いじゃあないか」

 僕は王手がかけられなくなって、クイーンの代わりに白のナイトを動かした。ジェームズはその手に――僕の言葉にかもしれないが――顔をしかめた。

「ちょっといいかな、だって? そんな風に呼んでも、2人きりで話すことなんてないよ。それに、そんな呼び出し方したら何て言うか……、バレバレじゃあないか」

 また混乱したのか、ジェームズはポーンで僕のナイトを取った。それでは2手後には僕にまたチェックメイトをかけられてしまうというのに。

「君がリリーを好きだってことが?」

 さらりと僕が指摘すると、ジェームズは髪を逆立てた。

「はっきり言うな! 恥ずかしい」

 婉曲に言ったら、はっきり言えと怒りそうじゃあないか。

「僕が手伝ってやるよ」

 僕が言うと、ジェームズは訝しげに眉を顰めた。僕はその間にクイーンを動かす。

「手伝うって?」
「君とリリーが自然と2人になれる状況を、僕が作ってやる」

 僕の言葉にジェームズは慌てて両手を振る。

「い、いいよ! さっきも言ったろう? 2人きりになったって、話すことなんかないんだから」

 ジェームズは慌てついでに更にポーンを動かした。

「ずっとこのまま見ているだけで良いって? 英雄が、随分消極的じゃあないか。2人きりになったら天気の話でもしろよ。授業の話でも良い。とにかく何か話しかけるんだ。滑ってもリリーは馬鹿にしたりはしないさ。積極的に。君の得意技だぞ」

 勇気づけているのか馬鹿にしているのか微妙なラインの台詞だが、ジェームズは前者と判断してくれたらしい。おずおずと視線を上げると、少しだけ希望の混じった視線を僕に向けた。何だか大きな魚を釣り上げた気分だ。最も、僕は釣りなんてしたこともないけれど。

「……本当に、協力してくれるのかい?」

 これからリリー絡みだと、こういう風に弱気なジェームズ御大を拝めるというわけだ。笑い出したい気持ちを抑えて、僕は本当に誠実そうな顔をして見せた。

「お前の親友は誰だ?」
「シリウス・ブラック」

 即答したジェームズに、にんまりと笑って僕はこう宣言した。

「よし、任せておけ!」

 最後に僕はクイーンを動かした。読みの通り、僕はまた黒のキングにチェックメイトをかけたけど、ジェームズは気付かなかった。Love is blind?

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